表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/268

2-9:始まりへの”飛翔” ●

挿絵(By みてみん)

 雨が降っていた。


 ―――ごめんね・・・


 その人は、泣いていた。


 ―――そうだよね。君がここで死ぬことに、意味なんて・・・ないよね・・・


 その人の手は、それまで首にかけていた手は、震えながら離れていく。


 ―――こんなことしても・・・変わらないんだ・・・なにも・・・


 その人は、きれいな緑色の長い髪を持つ女の人だった。


 大粒の雨を絶え間なく降らせる、暗き天だった。


 空を仰いだその人は、

 ―――私・・・怖いよ・・・。


 血に濡れた自分の肩を抱いて、震えて、泣いていた。

 寒さと、孤独に。

 自分の弱さと、愚かさに。

 何も変えられない絶望と、自らが招いてしまった災厄の重さに。

 空も泣いていた。

 女の人は、誰かの名前を呟いた。

 大切な人の名前かもしれない。

 女の人は、


 ―――君は、生きて・・・・強く、誰よりも・・・


 小さな少年を抱きしめた。


 ―――私は、君に生きていてほしい・・・”後悔”の、ないよう・・・・・精一杯・・・


 女の人の身体は、温かかった。

 包み込んでいた。

 母のいない少年を。

 まるで、母のように。

 いつまでも・・・・・

 

 

「―――起きてください」

「ぐふぉッ!?」


 みぞおちに強烈な打撃を受け、ウィルは激痛によって意識を取り戻す。


「い、いたぁ・・・」

「・・・すみません。眠らせると、そのまま帰ってこない気がしたので」


 と涼しい顔で言うアウニール。彼女は。真上からこちらの顔を覗き込んでいた。


「い、今の一撃で、死にそう・・・」


 しかし、それは、打撃の痛みだけではないことにすぐに気づく。

 強烈な痛みにさいなまれた原因は、すぐに分かった。


「あぁ・・・これは、やばい・・・・・な」


 周りにある、血溜りの多さと意識の薄さから、自分が、大量に出血していることに朦朧としながら気づく。

 医学はまったく知らないが、明らかに致死量なのはわかった。

 普通、ぶん殴られても起きないくらい。


「アウ、ニール、の方は・・・」


 ウィルは、その状況下でも、相手の心配をしていた。

 意識がまた薄れるどころか、今にも飛びそうなのにも関わらず。


「・・・私は無事です」


 そこで、ウィルは気づく。

 自分の頭が、地面に正座した彼女の膝の上に乗っていることに。

 人生初の膝枕であった。


「・・・・・よかった」


 ・・・夢だったなぁ、膝枕・・・


「・・・その言葉、邪念も含まれていませんか?」

「・・・いや~、そんなこと、ないッスよ・・・まったく、これっぽっちも・・・」


 アウニールは、しばらく影のある目つきでウィルを見下ろしていたが、


「・・・この地形にも助けられました」


 そういい、周囲を見渡した。

 偶然なのか、崩落場所の真下は、アウニールの目覚めた場所。

 ”棺”が置かれていた場所であり、今は”イルネア”の種を植えてある場所。

 やわらかい土壌が、クッションとなり、アウニールの下敷きになる形で落下したウィルの命を救ったのだ。


「・・・そうッスか・・・よく見えない、けど・・・」


 右腕を動かそうとしたが、動かなかった。折れていた。

 代わりに左腕を動かし、土をさわる。

 冷たい、でも、


「・・・温かい」

「それ、死ぬ直前の言葉ですね。もう一度殴って起きますか?」


 アウニールが、もう一度拳を固める。


「い、いえ・・・!けっ、こうッス・・・・・それに―――」


 そういい、自分の左手を見た。

 思ったよりも、黒い自分の血がベットリついていた。


「―――もう、無理ッス、から・・・」


 もう、どこから出血してかもわからないほど、感覚も薄れていた。

 自分の命は、今にも消え、死に包まれようとしている。それが分かる。

 ウィル達は、まっすぐ落ちたわけではない。

 途中にある岩場に、何度も接触し、その身を打ちつけ、落ちてきた。

 それでも、ウィルは、アウニールを離さなかった。

 自ら傷つくことを選んだ。

 それが、 


「・・・これが、ウィルにとって”後悔”のない選択なのですか?」


 アウニールの金色の瞳が、真上からウィルを見つめ、問う。


「・・・そう、ッス」

「・・・今しがた、会ったばかりの良く分からない人間のために死ぬことが、”後悔”のない選択になるのですか?」

「アウニールが、助かったから・・・それで、いいんスよ・・・」


 ウィルの目は、ゆっくりと、閉じていく。

 ゆっくりと訪れる”死”を寛容に迎え入れようとした。


「では―――」


 続けるアウニールの、その言葉は、小さな呟きだった。


「―――”死にたくない”とは思いませんか・・・?」


 少女の口から、囁くように告げられたその言葉。

 風が吹いていればかき消されてしまいそうな、その声。

 ウィルは、数秒の時間を置いて、再び、ゆっくりと、自ら目を開けた。


「―――死・・たく・・い・・・・・・」


 震える唇が言葉を、精一杯の声を絞り出す。


「・・・よく聞こえません」

「死に、たくない・・・」


 ウィルの、色をなくした瞳から、涙が流れた。

 その一言によって、決心が鈍った。

 諦めかけていた”生”にしがみつこうとする意志が生まれた。

 他人を救ったから、自分はやり遂げたから、もう満足したと、無理やり納得しようとした。

 でも、


「生き、て・・・・」


 本当は、自分の歩みを止めたくない。

 まだ、たくさんの人に告げたいことがある。

 エンティ、ヴァールハイト、自分の面倒を見てくれたおじいさん、おばあさん達。

 みんなと、まだ、これからたくさん話したいことがある。

 遠い過去・・・自分も覚えていない、遠い場所で、誰かに告げられた言葉が鮮明に浮かんでくる。

 名も知らない、その人は、自分を抱きしめてこう言ってくれた。 


 ―――――私は、君に生きていてほしい・・・”後悔”の、ないよう・・・・・精一杯―――――


 これは”後悔”。

 ”死ぬ”ことへの”後悔”、そして”生”を諦める事への”後悔”。

 すなわち、”未練”

 だから、


「生きて、いたいっ・・・!!!」


 声の限り、叫んだ。

 血に濡れ、震える左手を、天にかざした。

 降り注ぐ、青白い光。

 陽の光が届かないこの場所に、命を与える光。

 たとえ、何であろうと、しがみつきたくて、ウィルは、手を伸ばした。


「・・・わかりました」


 アウニールは、そう言い、やさしくその手を握った。

 包み込むように、温もりを与えるように。

 欲するものに答えるように。

 少女の長い髪が、光を帯び、ふわりと浮き上がる。先端の金色が徐々に銀色の領域を埋めていく。

 そして、完全な金色になった少女の髪は、その意思に従い、”生”を望む少年を包みこんでいく。

 光の粒子が、地より湧き出し、浮き上がり、いつしか2人はその中にあった。

 周囲の鉱石が、まばゆい光を反射し、金色に輝いていく。



 ウィルは、自分の身体から寒さが消えていくのを感じた・・・



機体紹介③


挿絵(By みてみん)


●機体名:ブレイハイド


●戦闘法:プラズマ兵装の展開


●特記:能力未知数

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ