2-8:遠き片隅にある”後悔”【Ⅱ】
・・・”両翼”?
その言葉を向けられているのは自分でも、ウィルでも、アウニールでもない。
突如現れ、一時的に共闘したリヒルとシャッテンにである。
するとリヒルが、
「・・・それ~、愚問だと思いますよ?」
笑顔を崩すことなく、普段どおり間延びした声で返す。
「”魔女”あるところに”両翼”あり。当たり前で、当然。その質問に意味はないですよ?」
部隊長である少年は、イラつきをあらわにする。
「なら質問を変えよう。”魔女”はどこにいて、何を考えている?こちらの作戦行動を妨害しろ、という指示でも受けているのか?」
「妨害・・・そ~ですね~。この状況だとそうなりますかね~。でも違います。私達は、”この人達を無事に1階層まで帰らせる”ことが目的です」
「なら敵対の意志があるわけだな・・・」
「そちらが道を開けてくれればいいんですよ~」
「そうはいかない。貴様らと同じく、オレの直属の上司も”3大戦力”の1人。お前らの指示は強制力を持たない」
「そ~ですか・・・それじゃ―――」
リヒルが、得物と思われるロケットランチャー(自称)を片手で持ちで、棒の要領で少年を指す。
「―――ドカン、と1発飛ばしてあげましょう~」
それに対して少年は、眉間にしわを寄せ、叫び、両腰の鞘から、2本、両刃の剣を抜く。
「構えろッ!」
『了解!』
応え、後方の部隊5人が、一斉に電撃棒を、抜き放ち、臨戦態勢をとった。
「―――というわけでエクスさん。ご協力よろしくです~」
「・・・なぜ、貴様が率先して戦闘に持ち込んでいる?」
「成り行きですよ~。無事に”1階層”までたどり着きたいなら、協力しましょ~」
「・・・後で全て説明してもらうぞ」
「はいはい~」
「・・・・・来る」
シャッテンが注意を促し、リヒルが武装を構え、エクスは電撃棒とナイフを身体の前に浮かせる。
・・・電撃棒のバッテリー量が残り少ないな。また奪うか・・・
少年が叫んだ。
「―――突撃せよ!」
指示を受け、部隊が攻撃を開始しようとした。
しかし、
「ちょっと待った!あれもお仲間ッスか!?」
声を張り上げたのはウィルだった。
●
ウィルの視線が向いていたのは、天井の岩場。
そこに結構な数の人影があった。
「・・・まさか、危険な自由人共か」
少年の推察は当たっていた。
「―――おいおい、お前ら”西”の部隊かよ」
「―――どうやら”お宝”の噂も間違いじゃなさそうだなぁ!」
「―――あれ?あの女持ってるのロケランじゃね?俺、目が悪くなったかな・・・」
「―――なーに言ってるんだよ。この街に外の人間が重火器持ち込めるわけないだろ」
「―――そーだよなー。ハハハ」
「―――”西”の部隊となりゃ、装備も高級品だな。それも一種の”お宝”じゃね?」
人数はパッと見、十数人。
「・・・貴様ら、どうやってここまで来た?途中に”西”の”最速騎士”がいたはずだ」
リバーセルの問いに、リベルダンジェの1人が笑いながら言った。
「俺たちはこの街に常駐してる賞金稼ぎだ。天然の抜け道ってのを熟知してる。”最速騎士”とやらも、さすがに壁ぶち破ってはこれないだろう?」
●
「・・・なんだ、あいつらは?」
エクスが問う。
「どうも賞金稼ぎみたいですね~。私達は危険な自由人って呼んでますけど。強盗みたいなもんです」
「・・・つまり、敵か。全て倒すには時間がいるな」
「じゃあ、先制攻撃しましょ~」
リヒルがロケットランチャーの照準を、目の前の部隊と話し込む高見の集団にあわせ、
「―――ドッカーン♪」
躊躇なくトリガーを引いた。
薬室内の火薬に引火。推力をもった炸裂弾頭が、炎を噴出し、飛んでいく。
それに気づいた高見の連中は、
「おいぃッ!? 本物かよ!?」 「やべぇ! 逃げろ!」 「ひえぇぇぇぇっ!?」
何人かが尻尾を巻いて逃げ出す。
しかし、準備のいいやつもいたらしい。
「俺に任せろ!こいつでどうだ!」
任せろ宣言した男が、懐から小型の銃型の装備を取り出し、トリガーを絞る。
飛び出したのは弾丸ではなく、無数の光る粒。
「―――かく乱弾ですね」
飛来する弾頭が、その光の粒の中に入ると、目が見えなくなった鳥のようにでたらめに逸れた。
蛇行し、標的も定められず予想外の方向に飛ぶ。
その先には、
「―――ッ!?」
ダメージが残って、立ち上がりきれないウィルと、そばについているアウニールのがいた。
●
「―――ちぃッ!」
エクスは、すばやくその場を蹴り、駆け出す。
到底間に合う距離ではない。
・・・ならやることは1つ!
手持ちのコンバットナイフを、
「当たれ・・・!」
放物線を描きふらふらと落下する弾頭に向けて鋭く投擲する。
ナイフは、命中した。だが、
・・・く、軽すぎる!弾かれた!
投げナイフでは、重量が軽すぎて、傷をつけられず、誘爆させられない。
投げられる時間の猶予はあと1回。
・・・どうする・・・!
手持ちの投げナイフでは軽過ぎる。かといって電撃棒は重過ぎる。仮に当てられたとしても傷をつけられなければ誘爆させられない。
すると、後方から、
「―――頭をさげろ!」
声が飛んだ。
エクスは反射的に、身を下げる。
その頭上を、回転する両刃剣が通り過ぎ、まっすぐに弾頭へ飛び―――命中した。
傷をつけられた、弾頭は空中で炸裂。オレンジ色の炎と衝撃波をばら撒いた。
そこでまたも予想外の事態が起きた。
「なに・・・!?」 「崩れた・・・!?」
ウィルとアウニールのいた場所が、砕け、崩落したのだ。
●
ウィルが足場の崩落を感じた時はもう遅かった
空中での爆発の熱風にさらされながらでは、まともに動けるわけが無い
アウニールも同様に、強烈な衝撃に、足元が崩れ、その場に倒れこみ、
「―――アウニール!?」
崩落に巻き込まれた。
爆発した空中の真下は空洞であったらしく、直径数メートルにも及ぶ大穴が現れる。
地獄に通じるかのような奈落の大穴に、アウニールは落ちていく。
まるで地の底に呼び戻されるように。
「―――くおおおおぉっ・・・!」
ウィルは、無理やり身体を動かし、その場を蹴って飛んだ。正確には、落下に勢いをつけたのだ。
その視線の先には、目をつぶって眠るように落下するアウニール。
彼女は慌てるような素振りすら見せなかった。
ただ、己が運命を受け入れるように、恐怖も感じず落ちていく。
・・・もう少し・・・!
届いた。
少年の手が、少女の手をしっかりと掴まえる。
ウィルは、落下の風圧に耐えながら、アウニールを引き寄せると、自分の胸の内に抱え込んだ。
・・・絶対に助ける・・・!・・・絶対に・・・
アウニールが、目を開き、問う。
「・・・どうして、私の命を守ろうとするのですか・・・?」
ウィルが大声で応えた
「理由なんかない!助けたいから助ける!」
「・・・自分が死んでも、ですか・・・?」
「そうだ!」
「・・・なぜ・・・?」
「もう・・・”後悔”したくない…!」
思い出せない。それでも、確かにあった。
絶対に、2度とあってはならない”後悔”が。
・・・だから、オレは・・・
「そう・・・ですか・・・」
2人は、闇の中に墜ちていく―――