2-8:遠き片隅にある”後悔” ●
緊張糸が切れたウィルは、頭上を仰いで倒れこんだ。
「助かった・・・」
そう呟き、周囲に目をやる。
シャッテンが先に相手をしていた2人も同様の方法で打ち倒されていた。
まるで棒切れのように両断された電撃棒の残骸があちこちに転がっている。
「あー、頭痛い、身体があちこち痛い・・・」
ウィルは、ボロボロの身体で、気分不良にもさいなまれていた。
「・・・よくその程度で済みましたね」
アウニールがそんなことを言う。
「・・・へ?」
「普通、電撃棒の電気ショックを受ければ、一瞬で失神するどころか、心配停止プラス内臓焼かれて、天国に一直線もありえるのですが―――」
そして、チラリとウィルを見下ろし、
「―――人間、バカになると電気が流れにくくなるのですね」
「え?それ、ひどくないスか?」
・・・まあ、死に物狂いで何も考えてなかったのは認めるが・・・
「・・・でも、お礼は言います。・・・ありがとうございます」
表情が変わらないままそう告げられたアウニールの言葉だったが、声音の変化は少しだけあるように感じた。
やっぱり無表情なだけで彼女にも感情はあるようだ。
それが分かっただけでも、必死になった価値はあった。
今度は窮地を救ってくれた恩人にも感謝を、
「シャッテンさんもありがとうございまし―――いっ!?」
言おうとしたら、シャッテンがまだ満足に動けないウィルの眼前に、長刀の先端を突きつけてきた。
「・・・今なら楽に殺れる」
その目は、あの時と同じ。
・・・けだものを見る目!?・・・
「シ、シャッテンさん!ち、ちょっとストップ!リヒルさんたすけてぇ!こんなに早く覚悟を決めるときが来るなんて予想外すぎるッスよ!?」
敵を退けたというのに、今度は味方まで命を狙われることになるとは冗談じゃない。
「・・・ウィルは貴方に、首チョッキンされるほどの罪を犯したのですか?」
アウニールが、そんなことを不意に尋ねた。
「あ、それは―――うおっ!?」
説明しようとしたウィルの顔の横を掠めて、刃が突き立つ。
黙ってろ、と刀身から発せられていた。
「・・・そう、この男は私の純潔を弄んで、あまつさえ3回も連呼して恥の上塗りをしてくれた。だから殺す」
「ならどうぞ、遠慮はいりません。このバカと過去をスッパリ切り捨てるといいでしょう」
「ちょ!?過去と違って、オレという人間は1人しかいないんスけど!?」
「・・・助かる。そこをどいて」
「オレの話聞いてない!?」
アウニールが、はいどうぞ、と一歩下がる。
もはや、シャッテンにとって、ウィルは”切り捨てる”だけの存在でしかないらしかった。
鈍く光る長刀が、頭上に振り上げられ、
「―――しねぇい!!」
いつぞやと同じく真っ向から振り下ろされた。
「へええええええええええっ!?」
しかし、今度は、金属の衝突音がウィルを救った。
「・・・・・まて」
2人目を片付け、戦闘を終えたエクスがそこにいた。
エクスは、後ろ向きのまま、逆手に持ったナイフで長刀の斬閃を根元から止めている。
「エクス!助かったッス!」
シャッテンが、細めた横目でエクスを睨む。
「・・・邪魔」
長刀とナイフが互いに弾き返され、元の位置に戻る。
「このバカを切るならこっちの質問に答えてからにしろ」
「・・・あれ?それだと、質問後は切ってもいいよってことになるんじゃ・・・」
「・・・わかった」
「え?やっぱりそういう意味なんスか!?」
勘違いだった。危機は先延ばしにされただけであった。
ウィルの言葉を完全に無視して、2人は話す。
「貴様らは、いったい何者だ・・・?この連中を知ってるのか・・・?」
エクスがナイフの切っ先を周囲に倒れている敵に向けて指し示す。
「・・・私達は―――」
シャッテンが口を開こうとした瞬間、遠くの岩場が爆散し、轟音が鳴り響いた。
衝撃波が飛んできてから数秒後、巨大な土煙の中から、
「―――とあっ!」
人影が1つ跳躍してくる。
リヒルだった。
爆発の影響で、服や肌がところどころ煤けている。
かなりの高さと長距離だったにも関わらず、苦もなく着地したリヒルは、
「―――おっとと・・・どうもどうも。奇遇ですね~またお会いするなんて~」
相変わらずニコニコ顔でそう言ってきた。
「・・・・・おかえり」
シャッテンが、ボソリと迎えた。
この女は5人を相手にしていたはずだが、さっきの爆音と今のリヒルの状況から見て、終わったようだ
「・・・これが、お前らの”仕事”か?」
「そうそう。そんなところです」
「・・・襲ってきた連中のことは?」
「あんまりよくわかりません」
「・・・・・それで通せるとは思ってないだろうな?」
エクスが、ナイフにかける力を少し抜く。それは熟練された兵士の臨戦態勢を示していた。
「そ、そんな顔しないでくださいよ~。確かに詳しくはお話しできませんけど、敵対する気はありません」
殺気にも似た威圧を強めるエクスに。リヒルは手を振り回して涙目で慌てる。
「・・・それは敵対していないことにはならないだろう。邪魔者が片付いたら、今度は貴様らが襲ってくる可能性は否定できん」
「も~疑り深いですね~。分かりましたよ。・・・今の敵さんたちは、”西国”の特殊部隊です」
「特殊部隊・・・?」
「どうやら、”西国”の”お宝”と関係あるかもです」
「貴様らはそれを狙ってきたわけか」
「う~ん、ちょっと違うですよね~。私達の今の”仕事”の成り行き上、あなた達の味方になってるってところです」
「・・・曖昧すぎるな。信用性が薄い。だいたい―――」
エクスが追求を続けようとするが、
「―――ありゃりゃ~、そんなこと言ってる間に、増援来ちゃいましたよ~・・・」
リヒルが、新たな集団に目をやった。
服装は今しがた襲ってきた連中と一緒だ。しかし、人数はその半分ほどだった。
先頭に立っている癖のある毛並みをした鋭い目つきの若い少年。
彼が、追随してきた隊員に、片手を上げる動作だけで停止を促し、部隊がその場で横一列で整列。待機の姿勢をとる。
立ち振る舞いからして部隊長だろう、とエクスが推察する。
実際、それは的中していた。
「―――”両翼”なぜ貴様らがここにいる?」
少年が尋ねた。