8-14:”明日”へ
……アリエナイ…、アリエナイ…!
”絶対強者”は、思考に支配される。
……”イヴ”、オ前ガ、望ムハズガ無イ…!
死の恐怖を乗り越えたというのか。
『……俺達ヲ拒絶シタ世界ニ、戻ルト言ウノカ…!』
”絶対強者”は、咆哮する。
●
「これは…」
エクスが、目を見開く。
斬撃照射が、突如として消失した。
いや、違う。
散っていく。
”絶対強者”が光の塵となっていく。
そして、――エクス自身の身体もまた同様だった。
「ウィル、やったんだな…」
”鍵”は選択した。
自分達の未来を選んだのだ。
エクスは、視線の先で頭部を両手で抱え、もがき、苦しむように動く”絶対強者”を捉える。
「これが、あいつらの答えだ。”絶対強者”」
”絶対強者”が頭部をあげた。
ひび割れていきながら、なおも怨讐を放っている。
『黙レ、黙レ、黙レ…!』
「俺たちの未来は、否定され、どこにもなくなった』
光の塵が舞い上がる空間で、黒と青が、見合う。
「ここが、決着の場所だ!」
『消エロォォッ!』
”ソウルロウガ・R”が前方へと地を蹴って加速する。
”絶対強者”が両肩の装甲を展開し、プラズマに集束をかける。
だが、先手を決めたのは、”ソウルロウガ・R”のプラズマブレードによる刺突だった。
”絶対強者”のプラズマは集束しなかったのだ。
圧倒的とも言える、その戦闘能力。
それらは、光の塵へと崩壊していく中で失われていく。
『何故、貴様ハ、消エナイ…!』
対して、”ソウルロウガ・R”は違っていた。
機体は原型を保っている。
崩壊しない。
「俺は、1人じゃないッ…!」
”絶対強者”の左腕を切り飛ばす。
まるで、脆い砂を切り裂くように両断した。
再生は――しない。
「ライネとユズカの意思が、ここにある…!」
”ソウルロウガ・R”。
未来が作り、過去によって完成した機体。
それは、歴史の変化による消失を免れる。
確かな存在としてここで戦っている。
「未来にしがみついたお前とは、違う。俺達は明日へ行く! 変わっていくことを受け入れる!」
『認ラレルカァッ!』
”絶対強者”が残った右腕からプラズマソードを放つ。
下から振り上げられた一閃を、回避する。
だが、別の衝撃が”ソウルロウガ・R”を真横から打つ。
敵の放った黒鉄の尾だ。
『俺達ヲ、否定シタ世界ヲ、許セルカッ!』
エクスのいた未来。
そこで生きていた、”リバーセル”と”イヴ”は否定された。
否定され、辿りついた。
”絶対強者”と”サーヴェイション”という結末に。
「なら、その未来は、俺が、壊してやる! 新たな希望に繋げるために!」
”絶対強者”は、プラズマソードによる斬撃と黒鉄の尾で波状攻撃を放つ。
だが、エクスの反応は攻撃の合間を見切り、”ソウルロウガ・R”の攻撃速度はそれを上回って反撃する。
黒鉄の尾を横から斬りおとし、プラズマソードを受け、弾き、回転により勢いを載せた蹴りを敵の胴体に叩き込む。
攻撃の手を緩めはしない。
崩壊していく敵を、斬撃の猛攻で追撃する。
断ち切られ、砕けていく。
黒い悪魔が。
殺戮の限りを尽くした暴虐が。
悪夢の根源が。
絶対、何者も破壊不可能とされた強者が。
塵に還っていく。
『ガアアァァツ!』
「おおおおおッ!」
”絶対強者”のプラズマソードが機体全長まで巨大化した。
残った全てのエネルギーを集中させたのだ。
”ソウルロウガ・R”のプラズマブレードもまた収束。
疑似的な砲撃雷杭を形成する。
最後の攻撃は同時だった。
防御する暇すら互いにない。
己の意思全てを叩き込んだ最後の一撃。
白の閃光が交差し、互いの機体の背後まで貫通する。
余波が伝播し、周囲の瓦礫を塵へと変えた。
そして――世界は、永遠の数秒から目を醒ます。
「――――”絶対強者”……未来は、お前のものには…ならない」
”絶対強者”のプラズマソードは、――”ソウルロウガ・R”の右胸部を貫いていた。
だが、コックピットは外していた。
そして、”ソウルロウガ・R”の疑似砲撃雷杭は、――”絶対強者”の胸部中央を貫いていた。
『―――――――――”イ、ヴ”……―――』
”絶対強者”の目の光が消失した。
機体が力を失い、うな垂れ、ひび割れていく。
亀裂は、貫かれた胸部から機体全体へと広がり、崩れていく。
”絶対強者”が、光の粒子となって、消えていく。
「ここから始まる。なにもかも……」
”絶対強者”は、消滅した。
欠片を残すこともなく。
世界を拒絶した黒い意思は、光の残滓となり、大気へと消えていった。
●
……終わったぞ、ライネ…。
エクスは、自身の身体が消えていくことに苦痛を感じていなかった。
むしろ、心地よく解放されていくような感覚を得ていた。
……これで、あいつらは新しい未来を生きていける…。
滅びの未来は消えてなくなった。
……ウィル、お前に会えて…よかった…。
初めて会った時を思い出す。
頭が足りなくて、まっすぐで。
……俺になかったものを、全部もっていたんだ…。
何かが、自分の手に触れた気がした。
温かくて、柔らかな感覚。
それは、自分の手をとってくれた。
……ここに、いたんだな…。
彼女がいた。
明るい薄緑の長髪をなびかせ、ほほ笑んでいた。
”やっと、会えたね”
そう言ってくれていた。
会いたかった。
ずっと、ずっと、求めていた。
それがいま、エクスの目の前にあった。
……ライネ…、ようやく、見つけたぞ…。
エクスは、ゆっくりと閉じていく意識の中で、思い、言葉を紡ぐ。
たった一言。
「――――ただいま…」
エクスは、心地よさに包まれ、目を閉じる。
戦い続けて、最後に得た安息に、身を委ねて。
未来からやってきた戦士は、静かに、世界から消えていった。




