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8-10:”意思”

「…ッ!」


 エクスは、意識を失っていたことに気付く。

 慌てて経過した時間を確認する。

 

 ……数秒…。


 わずかな時間だった。

 安堵したが、意識が戻るにつれ、身体を奔る激痛が鮮明になっていく。

 声を出すのもつらい、と感じて、


「……く、そ…」


 胸に金属片が刺さっていた。

 おそらく肺に届いている。

 呼吸がうまくいかない。

 荒い呼吸でなんとか酸素を身体に取り込みながら、周囲の状況へと何とか意識を向ける。

 そこらじゅう瓦礫しかなく、元々の空間が原型をとどめていない。

 金属片が煙と共に待っており視界はゼロ。

 

 ……奴は…。


 エクスは”絶対強者”の姿を探した。

 どこにも熱源がない。

 消し飛んだのか、とわずかながらに希望を抱く。

 だが、


『――終ワリ、カ…?』

「!?」


 声がした。

 その数秒後、煙の向こうに赤い光が2つ灯り、影を大きくしていく。

 近づいてきている。

 ”絶対強者”は、倒れていない。

 

「動、け…、”ソウルロウガ”…!」


 エクスが渾身を込めるも、”ソウルロウガ・R”も、すでに限界をとうに越えていた。

 右膝関節の破断ですでに動くことすらできない。

 そうしている間に、黒い影が煙をかき分け姿を現す。


『手間取ラセルナ…鬱陶シイ』


 ”絶対強者”の損傷も決して軽くはなかった。

 外部装甲が溶け落ち、左腕を損失している。

 メインの骨のような骨格だけで稼動している状態だった。

 それでも、右腕の超出力のプラズマソードは出せている。

 加えて、速度は遅いが徐々に再生を始めている。

 周囲の瓦礫を分解し、自らの躯体として再構成している。

 もはや動けない”ソウルロウガ・R”の前までやってきた”絶対強者”は白光のソードを振り上げる。

 

『コレデ、モウ何モオレヲ邪魔スルモノハ、ナイ』

「――そうか…、よう、やく…わかった」


 エクスは、笑みを浮かべた。

 それを察知したのか、敵の動きが止まる。

 

『何ヲダ』

「貴様の、”心”を」

『理解デキルモノカ』

「いや…、わかる、さ。お前が守りたいのは、――”自分”だ…」


 ”サーヴェイション”を守るのではない。

 ”イヴ”という家族を守るのでもない。

 家族を生かしたいといいながら世界を殺す。

 家族が望んでいるかも定かではない世界を幻想し、作り上げる。

 それらは全て、”絶対強者”が自分の居場所と存在を得るための手段だ。


「――ただ、寂しいんだ、貴様は…」

『理解デキンナ』


 白いソードが振り下ろされる。

 その瞬間、


 ……そこだ…!


 ”ソウルロウガ・R”が加速した。

 唯一、右花翼ブルーメブラットは活きていた。

 そのエネルギーを背後に向けて一気に放出し、瞬間的な推力とする。

 そして、右腕のブレードはすでに狙いを決めている。

 露出して見える敵の胸部のエネルギーコア。


『ッ!』「ッ!」


 激突音が響いた。

 黒と青の機体が互いの武装を交差させる形になる。

 静寂は1秒。

 ”絶対強者”のソードは”ソウルロウガ・R”を両断してはいない。届いていない。

 だが、 


『惜シカッタ、ナ…』

「――ッ」


 白いプラズマソードは、銀のブレードを横腹から斬り飛ばしていた。


『今度コソ――終ワリダ』


 組み付いていた”ソウルロウガ・R”が正面から蹴りを入れられ、再び壁面にたたきつけられる。

 エクスは出血のせいか、意識が飛びかけていた。

 目の前で収束する白いプラズマに対してももう、回避する思考すら働かない。


 ……終わり、か……


 負けたのだ。

 自分はここで消える。

 だが、時間は多少稼いだ。

 後は、託すしかない。


 ……頼んだ、ウィル…――


 白い閃光が、エクスの視界に広がっていく。



 リバーセルと黒い機械兵の斬りあいが続いている。

 強い打ち合いから、多少の距離が開いた瞬間だった。


「か…!」


 リバーセルが吐血する。

 ナノマシンの稼動限界が近い。

 よろめいたが、なんとか膝は落ちずに済む。

 機械兵に切っ先を向けたまま、荒い呼吸を必死に隠す。


 ”――今、消シタ”

「なに?」


 リバーセルの問いに答えることなく、黒い機械兵が突進してくる。

 

「ちっ!」


 真っ向からの両断を回避する。

 がら空きになった背面にこちらの剣を一閃する。

 だが、


 ”モウスグ、終ワル”

「な!?」


 機械兵のセンサーが後頭部まで動き、こちらの動きを捉えていた。

 人間とは違う関節構造で、ブレードを振り返してくる。

 とっさに顔をそらしたが回避するには気づくのが遅すぎた。

 一閃した敵のブレードは、リバーセルの顔面を袈裟切りにする。

 ギリギリ致命傷にはならなかった。

 だが、左目を切られ、視界が血で埋まり、激痛が来る。


「ぐ…!」


 一度離れるが、今度こそ片膝をつく。

 毛先から出ていた金色の粒子も消失する。


 ”未来ハ、オレガ創ル”


 黒い殺意がブレードを構えた。


「黙れ…、俺は、こんなことなど、望むものか…!」


 リバーセルは、気力で身体を動かしていた。

 黒い機械。

 あれは否定されるべき自分の姿。

 

 ……俺の、本当の望みは――


 剣を手放さない。

 だが、自分はもっと手に入れられるものがあるはずだ。

 戦うだけではない。

 それを示してくれた奴がいる。

 自分を助けると言ってくれた。


 ……ウィル…!



ウィルは、辿りついていた。

 リバーセルと離れてから、走り続け、その場所にいる。

 この白亜の戦艦の中枢だ。

 遠くには、リバーセルとの戦闘後に通った隔壁がある。

 自分が通ってきたのは、人員の通用口になるのだろう。

 そして、大破した見慣れた機体も横たわっていた。

 

「ブレイハイド…」

 

 自分と戦ってくれた機体は今は、もう動くことはない。

 頭部と胴体がかろうじて原型をとどめているだけで沈黙していた。

 ウィルは歩みを進める。

 機体が動くことを想定しているためか、人が進むにはあまりに巨大な空間。

 その最奥にある巨大な光の柱のような機械。

 エクス達が”サーヴェイション”と呼称するものなのかもしれない。

 まるで、命の宿る大木のようなそれは無数の配線を天井と根元に接続している。

 その根元といえる場所に、棺のような装置があった。

 人1人入ることができるそれを、ウィルは忘れない。


「あの棺…」


 ”シア”で、アウニールが初めて出会った時に眠っていたものだ。

 既視感を得る。

 あの時と同じだと。

 周囲からは装置の稼働音しか聞こえない。

 戦いのない、静かな場所だ。

 そして、ウィルは触れた。その棺に。

 だが、


「――アウ、ニール…?」


 棺には窓がある。

 中にいる人物の顔をのぞけるようにだ。

 そこには、――アウニールがいなかった。


「そんな、どこに…!」


 おかしい。

 確かに前はこの中で眠っていたはずだ。

 慌てて周囲を見渡す。

 だが、その棺以外にアウニールを収容できる場所など見当たらない。

 その時、


 ”モウ、戻ラナイサ”


 声が聞こえた。

 アウニールではない。


「ッ!?」

 

 背後からだ。

 振り向こうとするが、その前に首を後ろから掴まれる。

 金属の冷たさを感じる。

 機械の腕だと認識した瞬間、ウィルの身体は放り投げられていた。。

 金属の床に背中から落ち、衝撃から息が吐き出される。

 

「いってぇ…」


 痛みをこらえ、立ち上がろうとしたが、すでに自分を襲ったそれが目の前にいた。


「!?」


 驚く間もなく、首を掴まれ宙づりに持ち上げられる。

 が、と声を出そうとするも、首を絞められ呼吸すら難しくなる。

 ウィルを襲ったのは、黒い機械兵。

 リバーセルの戦っていたのとは別の躯体だ。


 ”アイツハ、モウ、戻ラナイ”

 

 諦めろ。 

 そう言われているように感じた。

 

「いない…、て…」


 アウニールがここにいない。

 なら、どこにいる。

 ウィルは、朦朧となる意識の中でふと感じた。

 あの光の柱に、何かを。


 ”モウ、人ノ形ニハ、モドラナイ”

 

 ウィルは、直感した。

 あの光の柱の中にアウニールがいるのだと。

 だが、


「放、せ…! この…ッ!」


 ウィルは必死になって機械兵を引き剥がそうとする。

 掴んでいる腕や、胴体に蹴りをいれたりもするが、敵は微動だにしない。

 そして、何かが胸を突く感覚があった。

 

 ”オ前ハ、イラナイ”


 機械兵の腕から伸びたブレード。

 それが、ウィルの心臓を――貫いていた。


 ……アウニー…ルーー


 急速に自分の意識が薄れていく。

 手を伸ばした。

 かつて死に瀕した時のように。

 だが、今度はそれを取ってくれる人はいない。

 

 ”コレデ、全テ終ワリダ”


 機械の声は無感情に、しかしまるで笑っているようだった。


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