8-8:”翼”
外部の空では、戦闘が続いていた。
”イシュテル”によるプラズマ射撃の連射を、リヒルの駆る”ヘヴン”とシャッテンの駆る”ヘル”が散開して避けていく。
『この…!』
リヒルが、敵をロックする。
”ヘヴンライクス”がプラズマ砲撃を放つ。
出力をおさえ、連射するが、高い機動性と運動性を持って動き回る敵にはかすりもしない。
元々、多数戦力相手に作られた機体である以上、機動戦に一歩遅れるのは当然であった。
旋回した”イシュテル”が肘からプラズマブレードを光らせ、突進してくる。
『……させない』
”ヘヴンライクス”の不得手な近接戦に持ち込ませまいと、”ヘルライクス”が上方から激突する。
長刀による振り下ろしの一閃を、肘のプラズマブレードで受け止めた”イシュテル”が、近距離でプラズマ砲を撃とうとする。
だが、
『……単純…』
肩上の砲塔2つが、展開と同時に斬り飛ばされていた。
暴発によって、敵の背面が爆発を起こす。
見ると”ヘルライクス”の体勢が上下逆さになっていた。
切り結ぶと同時に、機体を回転させ脚部のブレードを展開していた。
勢いを載せて放たれた斬撃が、砲塔を両断したのだ。
『……効率ばかりで、退屈…』
シャッテンは、すでに機械の行動を見切りつつあった。
正確で、精密で、容赦がない。
効率よくこちらを仕留るために苦手な行動を率先して行ってくる。
それゆえに読みやすい。
シャッテンの適応が、機械を凌駕していた。
『テンちゃん! 離れて…!』
爆発で怯んだ”イシュテル”を蹴って、”ヘルライクス”が距離をとる。
同時に、”ヘヴンライクス”の砲撃が来た。
閃光が、きりもみする敵機の中央に突き刺さり、貫いた。
『――よし…!』『……ふん』
敵が、内側から膨れるように光り、砕け散った。
リヒルは、ふぅ…、と一息つく。
改めて白亜の船に向かおうとする。
その時、
『――リヒル! 上!』
シャッテンの声に反応し、ハッとなる。
反射的に”ヘヴンライクス”と”ヘルライクス”が散開する。
その間を、影が通り抜けた。
金属片が飛ぶ。
わずかに反応が遅れた”ヘヴンライクス”の足先の装甲だった。
『まだ、来るの…!?』
機影の正体は”イシュテル”だった。
先とは違い、背面の砲塔はない。
代わりに両腕に大型のプラズマブレードを光らせた近接仕様。
『別の機体…!』
『……リヒルッ!』
シャッテンが声と同時に、”ヘルライクス”が”ヘヴンライクス”を突き飛ばす。
『テンちゃ――』
リヒルが声を上げきらず、赤い閃光が目前を奔った。
プラズマ砲撃だ。
”ヘルライクス”が、左手の長刀をかざし、砲撃を受け流そうとする。
コーティングがあるとはいえ、防御に使うことは想定されていない武装だ。
受け流しきることはできず、左手首ごともっていかれた。
先に撃墜したものとは、また別の機体。
それも、
『砲撃戦仕様…!』
背面、両肩に細長い追加エネルギーユニットを連結し、通常より2回り大きいシルエットを持った機体だ。
”ヘルライクス”を見る。
左手首を持っていかれただけではなかった。
左肩までの装甲が融解している。
『……左腕、やられた…』
『助かったよ。ありがとう…』
敵は、2機ではなかった。
少なくとも6機はいた。
近接、砲撃、先に落とした標準仕様もいる。
加えて、
『機蟲竜が…』
焦熱弾で動きを止めていた機雷の竜が、再構築を終えようとしていた。
赤い熱の空に再び黒い靄が侵食し始める。
加えて、
『まだ、来るんですか…!』
”イシュテル”の数が増える。
増援だった。
型は先の近接型と、砲撃型がさらに2機ずつ。
今、合計6機の敵に囲まれつつある。
機蟲竜が動き出せば、自分達の行動範囲はさらに狭められる。
『……リヒル…逃げて。ここは引き受けるから』
『ダメ、そんなの…!』
『……このままじゃ、2人とも…死ぬ』
わかっている。
どうしようもない。
『……アインお兄ちゃんが、また自分を責める。だから――』
”イシュテル”2機が斬りかかってくる。
”ヘルライクス”が両足の、ブレードを展開し斬撃をもって迎撃する。
敵のもつれるように、離れていく。
『テンちゃん!』
”ヘヴンライクス”が、援護射撃のため追いかけようとする。
だが、3本の赤い閃光が同時に襲ってくる。
避けきれず、左脚部の膝に被弾。破壊される。
『――リヒル、お願い、逃げ――』
”ヘルライクス”が、敵1機の右腕を落とす。
だが、背後の敵がすでに避けられない間合いで、”ヘルライクス”に切っ先を突きこもうとしていた。
リヒルは叫ぶことができなかった。
『ッ!!!』
間に合わない。
そう思った。
その時、
『――迎えに来たぞ』
その声が届いた。
レールライフルの青い閃光が目前を奔った。
正確無比な射撃が、敵を貫く。
”ヘルライクス”と”ヘヴンライクス”を囲んでいた敵が1機ずつ撃ち落とされる。
警戒した機械達が回避判断のため、一斉に距離を取る。
『あ、あぁ…』
リヒルは、泣きそうになるのを必死にこらえた。
ひくつく声を押し留め、その人の名を呼ぶ。
『アインッ…!』
新たに飛来した機影は2つだった。
西国の誇る新しい最速の翼――”アキュリス”。
両手にライフルを持ち、”ヘヴンライクス”の前に壁となるように浮遊する。
操るのは、”S1”のアイン・ヴェルフェクト。
彼は、静かな声で告げた。
『これより”Sコード小隊”は、友軍である”両翼”の支援に入る』
”ヘルライクス”の援護に回るのは、近接用のブレードを多量に装備した”アキュリス”だ。
”S3”カイ・カリオロスがそこから声を放つ。
『時間制限ありだが、ラルフの仇討ちも兼ねてんだ。暴れさせてもらうぜ!』