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8-6:”対極者”

 ”絶対強者”

 未来において、自分を倒せる者など存在しなかった。


 ――妹を助けたいだろう。


 自分は誰も憎んでなどいなかった。

 ただ、家族を、目の前で死に瀕している妹を救えれば、それだけでよかった。

 縋りたかった。


 ――だが、世界はお前達を否定するだろう。


 かつて世界を否定した男は、そう言った。

 男こそ、最も世界を否定していた。


 ――敵はくるぞ。お前達を否定しにくる。また奪われたいか?


 理不尽だった。

 この世界はどうしようもなく。

 何かを得ようとするなら、


 ――否定しろ。お前達を否定するものを、全て否定しろ。


 それしかないと。

 

 ――力の用意はある。あとは選択だ。


 男が、少年に与えたのは黒い力。

 体内のナノマシンに同調し、最高とも言えるスペックを発揮する機体。


 ――”ラファル・センチュリオ”…それがこの機体の名だ。


 少年は、戦い続けた。

 自らを否定する者を排除し続けた。

 たくさん、殺した。

 途中、妹を想う誰かがいたような気もする。

 だが、もう覚えていない。

 自分が排除した。


 ――そうだ。たった1人が生きるために、必要な犠牲は多い。


 男はそう言った。

 いつからだろうか。

 どうでも良くなっていた。

 排除する。

 その意識だけが、少年の思考に張り付いて離れなくなっていった。


 ――未来を創るのは、お前だ。


 そのうち、操縦桿を握らなくても思考だけで機体を動かせるようになっていた。

 最後に機体から降りたのはいつだったのか。

 もう覚えていない。


 ――敵が来るぞ。


 そう聞こえる。

 

 ――お前達を否定しにくるぞ。


 そうだな。


 ――どうする?


 排除する。


 ――なら、行け。全て、消せ。


 わかっている。

 俺以外、全て――敵。



 ”サーヴェイション”の前で、”絶対強者”のセンサーに光が灯る。

 頭部を上げると、駆動音を金属が軋む音がする。

 人なら”夢”を見ていたと言えたかもしれない。

 だが、もう彼は人ではない。

 

 ……イヴ…。


 目の前に眠る者を見下ろし、残された思考を動かす。

 リバーセルであった頃の人格はもうない。

 それでも、覚えているのはイヴという少女が、自分にとって大切であったということだけ。


 ……来ル、ゾ。敵、ガ…。


 この箱舟の上部に、衝撃を検知。

 艦内の監視設備を動かし、その姿を捉える。

 前方がひしゃげた戦艦。

 すでに配置した刃の人型(ドゥエ)で囲んでいる。

 だが、次の瞬間、大破した艦の中から無数の光刃の雨が飛来し、刃の人型(ドゥエ)の軍勢を吹き飛ばす。

 瓦礫を押しのけ、姿を現したその青い機体を、”絶対強者”は知っていた。

 

 ……奴、カ…!


 あの時のことを覚えていた。

 自分と唯一、渡り合ったあの機体。

 

 ……危険、ダナ。


 否定しに来た。

 自分があった中で最も恐るべき者。

 

 ……排除スル。


 漆黒の機体が、動き出す。

 ひび割れながらも、何層にもなる装甲の再構築。

 新たに加わった長い鉄の尾を打ち鳴らし、駆動する。

 修復を終えたと言うには、あまりに歪でアンバランスな形状だった。

 動くたびに、細かな金属片が落ちていく。

 まるで、古い殻を捨てていくかのように。



 瓦礫を押しのけ、背面の花翼ブルーメ・ブラットを光らせた”ソウルロウガ・R”は炎上するその場に膝をついていた。

 周囲には先に吹き飛ばした刃の人型(ドゥエ)の残骸が転がっている。

 突入後、周囲に敵反応がないことを確認し、ウィルとリバーセルの2人を人員が出入りする扉の近くに降ろす。


『ウィル、リバーセル。今送ったのが、この艦の路図だ。ここから先は2手に分かれる』

「エクス、”ナスタチウムは”…」

「……今は先に進むぞ」


 ウィルは、燃え盛る”ナスタチウム”の残骸をしばらく見つめる。

 だが、思いを振り払い、気持ちを引き締める。


「よし。オッケーッス…!」

「エクス、お前は奴と戦う気か」


 リバーセルが指しているのは”絶対強者”のことだろう。


「対峙したのは一瞬だが、……妙な感覚だった。まるで自分がもう1人いるかのようだった…」


 リバーセルが、”絶対強者”と対峙した時に得た感覚。

 自分が、自分に語り掛けてくるような奇妙な経験だった。


「あいつは、いったいなんだ…?」

『……俺は知らない』


 エクスは嘘をついた。

 知っている。

 あれは、かつてリバーセルだった存在の成れの果て。

 リバーセルの辿りつく答えの1つ。

 だが、


『……あいつが何者であっても、お前はお前だろう』

「……そうだな」


 リバーセルは、目を閉じ天を仰ぐ。

 うっすらとではあるが、気づいているのだ。

 あの黒い機体は、自分と無関係ではない。

 どこか、何かが繋がっている。

 それでも、あれは自分とは違うものだと。


『ウィル…』

「なんスか?」

『俺は、必要ならアウニールを殺すつもりだった』


 エクスが不意に口にした言葉。

 リバーセルが、我に返り目を見開くが、反対にウィルは取り乱すこともなく応じていた。


「危険だからッスか?」

『そうだ』


 実際にこういう事態は起きた。

 もっと早くに、何かを変えることもできたはずだった。

 でも、


『お前達を見ていて、世界を見て、俺は考えを変えた。そして、答えを出した』


 守られるべきだと。

 滅ぼされるべきではないと。

 あの悪夢のような未来に、辿りつかせはしないと。


『……感謝している』


 エクスは、機体の頭部を前に倒し礼を示した。

 可能性ウィルがもたらしてくれたものに。 


「俺も、エクスがいなかったらアウニールと一緒に過ごせなかったかもしれない」


 ウィルは、”シア”の地下でアウニールと出会った時のことを思い出す。

 エクスがいなければ、進むことはできなかったのだから。


「一緒に帰るッスよ。みんなで」

『ああ』


 嘘をつく。

 帰れないかもしれない。

 アウニールが目覚めるということは、未来が変わるということ。

 自分の存在する場所みらいが消えてなくなる。

 そして、エクス自身もまた、消えるかもしれない。


『――そろそろ、分かれるぞ。強い熱源が来ている』


 ”ソウルロウガ・R”が直立する。


絶対強者やつは、俺が潰す。お前達は行け』

「おまかせしたッス!」

「頼んだぞ…!」

 

 ウィルと、リバーセルが扉の向こうへと駆けていった。

 それぞれが、行くべき道の先を見据えている。


 ……行け、お前達の未来へ。


 数十秒が経過する。

 前方にある巨大な隔壁。

 それの中央から、赤く灼熱する大出力のプラズマソードが突きだす。

 砲撃に耐える隔壁すらやすやすと切り裂き、こじ開け、その存在は姿を現す。


 ”絶対強者”――”ラファルセンチュリオ・Ver【X】”


 最強にして、最恐にして、最凶。

 ひび割れた、不気味な装甲を纏い、歩くたびに崩壊しながら、周囲の金属を分解して再生し続ける悪魔のごとき様相を呈した機体。

 

『リバーセル……いや、もう”絶対強者”でしかないか』


 青い装甲が、炎の輝きを反射する。

 頭部のグリーンとレッドのセンサー光が強く光る。


『――貴様のように存在できたなら、俺は楽だったかもしれない。』


 与えられた価値だけに身を委ねれば、何も考えず、守るもののためだけに戦うことができていれば、それで満足だった。

 だが、今となってはそれも叶わないことだ。自分達は交わらず、ぶつかることしかできない。

 永遠に対極なのだ。


『――貴様は、機械であることに辿りついた。だが、俺は人間であることを選んだ』


 ”ソウルロウガ・R”の背にある花翼ブルーメ・ブラットが強く光り、刃を形成する。

 大輪のごとく。


『――ここで全てを終わらせる。決着をつけるぞ…』 


 黒い悪魔と、青い巨躯。

 ”創造者”と”破壊者”は、誰にも知られぬまま、最後の激突を開始する。

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