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2-7:”魔女”の”両翼” ●

挿絵(By みてみん)

 種を植える、という仕事を終えたエクスとウィルの2人。そして地下で出会った迷子のアウニールが1人。

 あわせて3人で、”2階層”を目指していた。

 しかし、そこで1つ問題が、


「・・・まさか裸足とはな」


 アウニールは、靴を持っていなかった。

 ”棺”から出たときから、素足であり、岩だらけのこの場所を歩くにはかなり厳しい状況だった。

 そこで、


「おんぶッスか」


 ウィルがアウニールを背負って運んでいたのだった。


「靴を貸していただければ、私がウィルさんを肩に担いでいきますが?米俵のように」

「い、いや、オレも男ッスから、女の子にそうされるのは遠慮したいッス。だから、ここはドンと任せてほしいッス」

「・・・ではお願いします」


 アウニールは見た目よりかなり軽かった。

 ウィルにとっても、背負い続けて負担と言うほどでもない。

 それに、これは男冥利に尽きるというもの。なぜなら、彼女の体温と、


 ・・・背中に、やわらかいふくらみが当たって、よっしゃって感じッスよ! やっほい!


「・・・なにやら邪念を感じますが?」

「え?き、気のせいッスよ!アハハ」


 ウィルにとっては、同年代の女の子と触れ合う機会というのはかなり新鮮であった。

 なにせ、”シュテルン・ヒルト”の乗組員は、9割が高齢者だ。

 それはそれでいい。みんな強引だけど、ほとんどいい人達だし、家族みたいなものだ。

 若い女性もいるにはいる。しかし、エンティは見た目こそ幼いが、中身が計り知れない。


 ・・・ていうかあの人、何歳なんだ?


 それにもう1人―――


 ・・・あれ?誰だったっけ?


 ―――いたような気がするが、記憶が曖昧で思い出せない。


「アウニールさん、オレ達”1階層”目に戻るんスけど、そっちはどうします?」

「・・・私には正直、分かりません。この場所にはおそらく私の知っている人はいないでしょうから・・・」

「なら、一度”シュテルン・ヒルト”に乗るのはどうッスか?」

「”星の光(シュテルン・ヒルト)”とは、なんですか・・・?」

「オレの家ッス!」

「・・・いたいけな女子を、見知らぬ髪フェチ野郎が家に呼ぶ・・・邪念がヒシヒシと」

「じゃ、邪念なんか、これっぽちもないッス!」


 髪フェチなのは否定しないのか・・・、とエクスは思ったが黙っておいた。


「オレも昔、アウニールさんと同じような状況だったッス。でも、”シュテルン・ヒルト”の人たちなら受け入れてくれるッスよ」

「・・・そうですか。迷惑になりませんか?」

「大丈夫!オレも迷惑かけまくってるけど、なんとかなるッス!いや、なんとかさせてみせるッス!」

「・・・なんか不安ですね」

「なんで!?」

「・・・あなたが、いい人すぎるので・・・」

「そうッスか?」

「・・・人間は、本質的にはどこかで打算している生き物です。自身にとって、面倒であったり、損であったり・・・そういった条件下では他者に手を貸すというのは考えづらい―――」


 でも、とアウニールが続ける。


「―――それは、人間として正しい姿です。そうして、人は文化を創り、時として争い・・・これまで歩んできているのだと・・・そう思います。だから、あなたの姿勢は、どこか不自然で、間違っている気がしてならないのです・・・」

「・・・アウニールさん、オレ・・・」

「はい」

「今の話・・・7割ぐらい分からなかったッス」

「・・・・・はぁ」

「あれ、”話にならないですね、このバカ”的なため息が聞こえる!?」

「・・・簡単に言えば、あなたのやさしさは”変”だと言っています」

「変ですか?」

「ええ、変です」


 他者がきけば、失礼な言葉ではある。しかし、


「でも、それがオレッス」


 ウィルは、なんてことない、と笑ってそういった。

 自分が優しい人間であるなんて、思っていない。


「確かに、そういう人もいるかもしれないッスけど」


 それは人間を、全体に見すぎている結論だ。

 人は皆、”個人”だ。


「オレは、オレッス。迷子の女の子を助けたいって思ってる、ただのウィルていう人間ッスよ」


 ウィルという”個人”はアウニールという少女を助けたい。

 それは、間違いなく彼自身の本質からの結論。

 損得勘定のない、打算のない、自分に不利益になろうとも関係ない。

 お人よしなだけの、単純明快な結論だった。


「・・・わかりました。あなたを信用してみます」

「ありがとうッス。アウニールさん」


 ふとウィルは、自分の背中にかかる体温の面積が広がったのを感じた。

 彼女が、身を預けてきているのだ。

 さっきより、より身を寄せてきている。

 彼女は不安だったのだ。

 起きたとき、1人ぼっちで。

 初めて出会った人間が信用できるのかわからなくて。

 少女は、ウィルの背中ごしに告げる


「・・・私の名を呼ぶときは、”アウニール”でいいです。以後、それでよろしくお願いします」

「じゃあ、オレも”ウィル”でいいッス」


 どうやらアウニールの信用を得られたようだ、とウィルは内心嬉しくなる。それに加え、


 ・・・背中にふくらみが当たる感覚が!


「・・・やはり邪念が」


 ・・・鋭い!?


「き、気のせいッス。よろしくッス!」


 またも、アハハ、とごまかすウィル。

 彼女の直感を内心”邪念センサー”と命名することにした。

 そんなやり取りをしていると、”2階層”目にたどり着いた。

 照明の光に照らされた居住地に再び戻ってきた。


「さ~て、ユズカさんのところに報告にいくッスよ」


 ウィルが、先をいこうとした時だった。


「・・・待て」


 これまで口を開かなかったエクスが、不意に呼び止めの声を発した。


「どうしたんスか?」


 ウィルは問うも、エクスは応じず、周囲をうかがう。

 すでに気づいていた。自分達をの様子を伺う者達が潜んでいることに。



 リファルドは、”2階層”と”1階層”の連絡通路付近を巡回していた。

 すでに10人近くを撃退してる。それでも彼の周辺には、死体はひとつもない。

 全て生かして返したからだ。

 彼の実力をもってすれば、命を奪い、この場に畏怖の血をまくこともできただろう。

 しかし、彼はそれをしない。

 ここは戦場にすべきではない。

 幾年月、鉱石や独特の植物達が織り成した、自然の芸術。

 それを汚したくなかった。


 ・・・いずれあの人を連れてきてあげたいものですね。


 ”西国”にいるであろう相手のことを思い浮かべる。

 そのとき、新たな気配がした。すぐさま警告する。


「―――ここは、一時的に”西国”の管理下に入っています。知らずに来たのなら、すぐに立ち去ることをお勧めします」


 しかし、今度の相手は予想外であった。


「―――立ち去るべきはあなた達だと思うけど?」


 意外な人物であった。


「・・・まさか、あなたにお会いするとは・・・なぜここに?」

「私はそういう人間。だから、それに見合った称号がついてるんでしょ?」

「そうですね・・・あなたなら、不自然ではない―――」


 その人物は、持っていた日傘をおろす。日傘は、おろされる動作と持ち主の意志にあわせ、花弁のように閉じた。


「―――3大戦力の1人であり、通称”魔女”と呼ばれるあなたなら―――ユズカ殿」


 ユズカは、閉じた日傘でリファルドを指し示す。


「私は、この先に用があるのだけれど、通してもらえるかしら?」

「・・・私は任務があります。現場指揮官に”ここを誰も通すな”というものですが・・・」

「”西国”の”最速騎士”なら”王の掟(レーグル・ロワ)”は理解できてるわね?」

「―――”西国の3大戦力は、王の下にひとつであり、争ってはならない。互いを信じ、互いを助けあえ。生涯の友であれ”―――」

「私もそのつもり。あなたが排除すべきは”西国に不利益をもたらす者”でしょう?なら、私はそれに当てはまらない。なにか問題があるかしら?」


 その問いにリファルドは、武器を下ろして応じた。


「いえ、ありません。あなたは、私と同じく”王”に選ばれた者。共に”王”のためにある存在だ。私達が敵対することがあれば、それは”王”への反逆も同義。・・・お通りください」

「なに言ってるの。あなたも来るのよ」

「・・・はい?」


 リファルドは、呆ける。


「任務は終わり。私ともに来なさい」

「い、いや、ですから任務が―――」


 ユズカは、リファルドの横をとおり、背中越しに続ける。


「命令を出したやつはあなたより偉いのかしら?」

「いえ、そうではありませんが・・・」

「なら、問題ないわ。”最速騎士”私と共に来なさい。あなたも見ておくべきよ。”西国”のためにね」


 ”魔女”が微笑を浮かべた。

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