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8-3:”百年条約”

 ”東”と”西”の会談。

 その記録は、エクスの時代には存在しない。

 ここから世界は破滅に向かっていく。

 その分岐。


「エクスさん、無理をしないでください」

「無理はしない。ハッキングするだけだ」


 身体が動くとはいえ、満身創痍と言える状態で”紅”を起動する。


「…っ」


 頭痛がする。

 完成型のナノマシンといえど、自身にかかる負荷がゼロではない。

 それでも、


 ……俺は知りたい。この瞬間に世界が何を決めていくのか…。


 目を閉じ、無数の情報のラインを辿っていく。

 情報の流れをつかむ。

 西の”王”と東の”長”がいる場所へと、意識を潜り込ませる。

 

 ……いたか。


 場所は、東の強襲艦”カヤリグサ”の1室だった。

 会談は始まっている。



「……ワシらは、帰るべきじゃろう」

「……やっぱり、そうなるわね…」


 西の”王”アンジェの提案に、東の”長”スズは頷いていた。


「今の戦力で、あの軍勢と戦うことは不可能。なら――」

「自国にこもって、戦力を整えるね」


 互いが同じ答えを持っていた。

 いや、それしかなかったのだ。

 

「でも…わかってるわよね」

「ああ…」


 何も解決しない。

 戦いは続く。

 自分達は戦いの歴史を終わらせるためにここに来たはずだった。

 倒すべき敵を見定めて全て終わりにするはずだった。

 あと1歩だった。

 今、別れれば時間が経つにつれあらぬ噂や疑心が互いの民に生まれるかもしれない。


「嘆くか…? 東の”長”」


 アンジェの声に、スズは首を横に振った。


「今は、泣いていい時じゃないから」


 アンジェはその言葉に、フッと笑みを返す。

 そして、


「提案したい」


 そう言い、


「長く会えなくても、その理由を知るための決まり事をじゃ」

「なに?」

「約束。協定。宣誓…まあ、なんでもよい。わしらは”王”と”長”であり、友達じゃ。それを時間が忘れさせないように――これを締結しよう」

「世界規模の友情ね」

「悪くなかろう? ――ウィズダム」


 アンジェが部屋の外に向けて声をかけると、扉が開き”知将軍”と呼ばれる老人が入ってきた。

 彼は2枚の書を静かに、机に置いた。


「失礼」


 一言だけ告げ、ウィズダムは退室。

 2人の前には2枚の書が残される。

 そこに書かれているのは同じ文書。

 その冒頭に書かれていた文字は、


 ”百年条約”



 エクスは、その内容を知った。

 それは約束。

 それは誓い。

 それは想い。

 全てがそこにあった。

 戦い続けた歴史を終わらせるために。

 今、ここだけのものとして終わらせないように。

 データではなく、互いの直筆の署名をもって締結される。

 アンジェリヌス=シャーロットの意思。

 東雲・スズの意思。

 今、この時をもって意思は交わされる。 


 ”100年間の不戦協定”


 必ず”王”と”長”は、再び出会うのだ。

 例え、自分達の命が尽き、次の世代が会うことになっても、この場所にあった思いがなくならないように。

 そして、再び出会う時、争うことなく笑顔であるように。


 ……これが本当のこと…。


 エクスは理解した。

 自分が生まれた時、世界を認識した時、人々は殺しあってた。

 機械だけでなく、互いに。

 疑心の憎しみのある世界。

 だが、


 ……違ったんだ。


 始まりに、悪意はなかった。

 純粋に互いを想う意思があった。

 捻じ曲げたのは時間の流れ。

 あるべきであった歴史。


 ……充分だ。


 この世界は守られるべきだとエクスは確信を得ることができた。

 意識を自分の身体へ浮上させようとして、ふと、


 ……なんだ。

 

 途中、その部屋に向かう人影を通路のカメラ越しに見る。

 一見、黒装束を纏っている。

 央間のニンジャにも見えるが、違う。

 殺気だ。


 ……狂神者か…。


 会談の場を狙うつもりだろうか。

 エクスは、意識を飛ばす。

 彼女らを救うべき者達の元へとこれを知らせる。

 充分に間に合う位置だ。

 自分は、正しき歴史の破壊者。

 破滅の流れを断ち切れる唯一の存在。


 ……壊してやる。破滅を、絶望を…。


 希望を繋げるために。

 


「――互いの名と意思を、各々の国へ残そう」

「伝える。必ず…」


 2人は互いの指紋を捺印し、1枚の書を交換しあう。

 ここに100年の約束は成立する。


「帰ろう。自分達の国(家)へ」

「また会いましょう。私達の世界で」


 ”王”と”長”は、手を握り合った。

 かつて、先代”王”アルカイド=シャーロットと先代”長”東雲・イスズがそうであったように。

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