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7-20:"成すべきことを"

「もう、戦闘は始まっているようです。急がないと…!」

「ちょい落ち着きなよ、デカパイ眼鏡」

「だんだんあだ名がひどいことに…!?」


 シュテルンヒルトのブリッジ内で焦るヴィエルとやけに落ち着いているエンティがそんなことを言っている。

 

「あの規模の要塞が戦場に到達したんですよ!? どれだけ被害でてると思うんですか!?」

「仮に追いついたとしても、あれ止められたとは思えないけどね」

「それは、そうですけど…!」


 いかに改造されているとはいえ、シュテルンヒルトは旧型艦。しかも大型だ。

 巡航速度ではどうしても後れを取る。

 

「エンティはみんなが心配じゃないんですか!?」

「あらま、言うね。昔は”みんなぶっ殺す”とか言ってたのにかわいくなっちゃって、このメガネは~」

「む、昔の話はなしぃ!」


 エンティがため息をつく。


「ま…心配はしてるよ。でも、向こうはこっちと違って軍隊だからね。私達よりずっと戦いのプロなんだよ。信じるしかないでしょ」


 そういって、エンティは空間ウインドウを開き、通信を開く。

 場所は、ヴァールハイトの書斎だ。



「……」


 ヴァールハイトは、開いては消える膨大な情報の山へと視線を動かし続けていた。

 ”インフェリアル”が”西”と”東”のある戦場へと到達した。

 相当な被害状況があることもリアルタイムで送られてきている。

 この事実はすでに周知だ。

 巨大要塞の起動阻止に失敗した以上、次の手を講じようと様々な過去の情報を引き出し続けていた。

 以前から興味があり調べていたことがある。


 ……過去――中立地帯の始まり…。


 歴史。

 中立地帯は、長きに渡る”西”と”東”の戦いの中から弾きだされた者達によって創り出された。

 そう伝えられている。

 だが、


 ……本当にそうなのか。


 今でこそ、独自の文化圏を構築している”中立地帯”。

 もし、その構築が当初から計画されて始まっていたのではないか。

 ヴァールハイトはそう考えていた。

 戦争から逃げ出した者が、果たして自らの国に帰らず、新たな場所を望むだろうか。

 可能性はなくはない。

 だが、今、自分の前には巨大な要塞の存在がある。

 今の世界のあらゆる技術レベルを超えた不明なものだ、実在している。


「”英雄”…”指導者”…、か」


 自分の中で何かが繋がろうとしている。

 その時、通信が開いた。


「…エンティか」

『そうだよ』


 通信越しにある彼女の表情は、いつもと変わらないように思える。

 だが、


 ……不安は隠せていないな。


 エンティは、何か不安を感じるとやや半目がちになる。


「ちょうどいい。少し話しておくことがある」

『なに? 見つかったの? あのデカい奴止める方法』

「いや、これから言うのは独り言と思ってくれていい。私が調べていたのは、中立地帯の成り立ちとあの兵器には関連性があるのかどうかだ。この通信は、向こうにも聞かせる。通信を開いてくれ。オープンでだ」

 

 ヴァールハイトは、座り直すとコーヒーを一口すすった。


「我々は、この世界の起源を知らない。全ては過去のことだ。あらゆる出来事の繰り返しと流れてきた時間こそ、今。私達は、現在いまを生きる者として責務を果たす必要がある」



 ”ナスタチウム”の格納庫では、急ピッチで作業が続いていた。

 ハンガーに固定された3機の修繕が行われている。

 ”ヘル・ライクス”と”ヘヴン・ライクス”は、消耗が激しいがまだ戦闘ができる状態にある。

 だが、問題は”ソウルロウガ・R”の方だ。

 ”花翼”と右腕のメイン攻撃ユニットは、オーバーヒートしており、現在、冷却しながら対応処置がとられている。

 装甲はナノマシンによって直されているが、それでも各部パーツの損傷が大きい。


「普通なら、やられてますよ…」


 リヒルは、作業を見上げながらそうつぶやく。

 通常の機体であればすでに停止しているレベルの損傷だ。

 それでも動いていたのは、エクスの技量とこの機体の特異性によるところがあるかもしれない。

 

「…俺の、機体は…」


 その声に驚いて振り返る。

 エクスだ。

 格納庫につながる通路から、包帯だらけのエクスが顔を見せたのだ。

 左目まで覆うように頭部に巻かれた包帯には、血が滲んでいる。


「エクスさん! そんなケガで!?」


 リヒルが慌ててエクスに駆け寄る。

 

「構うな。動ける。軽い傷だ」

 

 そう言いながら、呼吸は荒い。


「見張ってたテンちゃんはどうしたんですか!?」

「あいつは今、俺のいた部屋に閉じ込めてある。少し扉のセキリュティをいじってな。あと数分すれば自動で解除される。心配するな」

「あなたが心配なんです! すぐに休んで――」


 言おうとして、リヒルは気づく。

 エクスの視線が、こちらを見ていない。

 それどころかどこを見ているのかも定かではない。

 これは、


「エクス、さん? まさか…目が…見えてないんですか?」

「気づくか。”絶対強者やつ”のプラズマ砲とこちらの障壁をぶつけた時にフィルターが破損した。それで視神経をやられたらしい…、ぼやける程度には残ったがな」

「じゃあ、もう…戦えないんですか…?」


 視力の損失、それは戦いにおいて致命的な欠点となる。

 だが、エクスはその事実に対して、いや、と否定の言葉を発した。


「俺の目は、あそこにある…」


 そう言って、ぼやけた視線を向ける先には修繕を続けられる愛機の姿がある。

 エクスの左目”紅”は、”ソウルロウガ・R”との接続機能を持つ。

 機体のセンサーがあれば、機体に乗ることでエクスは”見る”能力を得ることができる。

 だから、いち早く機体の無事を確認する必要があったのだ。 


「どうなんだ。機体の状態は」

「……損傷は、大きいです。武装の損失はありません。ですが各部パーツの損傷がひどいです。”ナスタチウム”の出した計算では、出撃できて、なおかつ戦闘できるのはあと――、1回が限界です」


 そうか、とエクスは静かに一言呟く。


「充分だ」


 そういった後、エクスの身体がよろめいた。


「エクスさん!」


 リヒルが慌てて支えに入るが、エクスは思いのほか重い。

 結果、


「わ、わっ!?」


 共にバランスを崩して倒れた。

 

「すまん…」


 エクスが頭を抱えながら、フラフラと立ち上がり近くの壁に背を預けて座り込む。

 リヒルもすぐに起き上がると、腰を落とすエクスに寄り添う。


「やっぱりこれ以上は無理です。すぐに休んでください」


 無駄だとわかりながら、告げられるその言葉。

 間違ってはいない。

 エクスの身体はもう、限界だった。


「……リヒル」


 ふと名前を言われる。

 

「なんですか? 横になれる場所に運びますか?」

「言いたいことがある」

「やめてください。死ぬ間際みたいじゃないですか」

「死なんさ。だが、今言っておかないと、いろいろ後悔しそうでな…」


 少しせき込みながら、エクスは思い返す。

 自分の生まれを。

 自分の戦いを。

 自分の出会いを。

 自分のこれから歩む運命を。 

 そして、、


「ここから俺を、動かすな。あと…ユズカを、頼む…」


 そう言って、意識を閉じた。

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