7-19:”機蟲竜”【Ⅲ】
Sコード小隊が突撃する。
10匹に増殖した黒い竜が、小隊3機へと襲い掛かる。
片足を失っている”リノセロス”よりも、Sコード小隊を新たな敵として認識し、優先して撃破しようというのだ。
直線で隊列を組んでいる小隊は、竜の群れとぶつかる直前に散開する。
そして、
『撃て!』『墜ちろ!』『かかりやがった!』
3人が手持ちの火器を3方向から同時にぶち込む。
10匹中、3匹が形を保てず、霧散。
銃撃の雨の中、残った7匹が3機それぞれを追いにかかる。
”アキュリス”3機が即座に反転。
各々が別方向へと加速する。
『”リノセロス”は体勢を整えているか――、各機、敵は機雷の塊だ。接触を避けて、殲滅しろ!』
S1の”アキュリス”が加速しながら指示を飛ばす。
『了解!』
S2が応え、加速からエアブレーキをかける。
そのまま機体姿勢を逆さに、大口径のライフルを追ってきている竜の顔面へと発砲する。
当たり所によっては戦艦すら一撃で沈める弾丸が、竜の頭に接触した瞬間弾ける。
首を失った竜が霧散する。
それを見て、S2は確信の声を飛ばす。
『S1。あの竜の目はやはり統括指令機だ。あれを撃ち抜けば敵の形態を無力化できる』
黒い霧の竜。
その赤い目は、無数の機雷を誘導し、あの姿を形成しているコア。
看破された弱点を見逃さない。
残った竜が、S2に追いすがる。
すると、
『わかりやすい弱点ってな!』
上空からマシンガンの雨が降り注ぐ。
竜の頭部に集中して撃ちこまれ、赤い目が残らずつぶされる。
竜が霧散し、S2は上へとカメラを向ける。
『S3、フォローが遅いぞ』
『はいはい。俺は銃撃が苦手なんだよ』
声を発したS3機がブーストを光らせ、急降下するようにS2の目の前を通り過ぎる。
S3を追うのは、3匹の竜。
『手本を見せてやる』
言うなり、S2機が迫撃ライフルを左手に残った右手でレールガン”レーゲン・ボーゲン”を装備する。
3匹の内1匹がS2へと狙いを変えてくる。
『おい、狙われてんぞ』
『それでいい』
S2機が、ライフルとレールガンを同時に発砲する。
静止状態から9発の銃声が響く。
狙いを変えながらの予測射撃。
その1秒後、3匹の竜が霧散する。
『マジでか』
『お前も射撃を磨け』
言うなり、S2機がS3機に追従すべく加速する。
『あと2匹――って、うお!?』
『む…!』
S1機の援護に回ろうとした2機の前に、すさまじい光景が広がっていた。
S1機を追う竜が2匹どころではなくなっていたのだ。
『10匹以上いんじゃねぇか…!』
『見ればわかる』
言う間にすでに2機は加速している。
背面のブースターを光らせ、背後から来た新たな竜の群れを迎撃する。
S3が宙返りから上空へと逃げる。
それを追おうとした竜の群れにS2機が、反転し、正確に弾丸を撃ちこむ。
数匹を撃破した後、S2機は正面から食らいついてくる竜の目を片手のライフルで打ち抜き、無力化。
同時に、片側のブースターのみを噴射。
マニュアル軌道により、回転し、そこからブースト。
2匹同時の食らいつきを避わし、そこからさらにS3を追う竜を落とす。
『こいつらぁ!』
S3機が追われながら、背面に装備されている予備の火器を稼動させ、追ってくる敵に浴びせる。
そしてS2と同じく片側ブースターを光らせ、回転機動をとりそのまま銃弾を四方にばらまく。
『でたらめな射撃だな』
『よく見て言え!』
S2に再び襲い掛かろうとしていた竜2匹が霧散する。
『射角も計算してんだよ』
『珍しく頭を使ったな』
言い合いながら2人は、互いをカバーする。
最大限の動きで敵を引き付けるS3。
最小限の動きで撃つS2。
互いの背後、周囲から襲いくる竜の群れをすさまじい連携で墜としていく。
●
S1の”アキュリス”が空を駆ける。
後方から追ってくる10体以上の黒い霧の竜。
身体の境目も曖昧なほどに揺らいでいるそれを一瞥すらしない。
……遅すぎる――
前方に新たな竜が形成され、正面から”アキュリス”に食らいついてくる。
アインは、目を細め機体を操作する。
背面の機動翼を広げ、空気抵抗を利用して回転し、竜の横を抜ける。
「リファルド殿に比べれば!」
アインは、”リノセロス”を敵に重ねる。
リファルド=エアフラムという師はこんなものではなかったと。
速度の中にある誇り高き剣。
”西”を守護する”王”の翼。
それが、
『アイン! 連携を!』
「は! リファルド殿!」
今、共にある。
●
”リノセロス”と”アキュリス”が戦闘軌道に移る。
速度が上がる。
『2時、群れ!』
『撃ちます』
並走していく2機。
”リノセロス”が機首を開き、プラズマ砲を発射。
白い閃光が、2匹の竜をまとめて消滅させる。
そこを超速で抜けたと同時に2機は別方向へ翼の向きを変え左右に離れる。
『アイン!』
『了解!』
それだけでよかった。
この後の動きもなにもかも。
”リノセロス”の後方から、6匹以上の竜が追ってくる。
だが、そこにレールガンの連射が突き刺さる。
残らず頭部を潰され、霧散した竜の残骸の中を、交差するような軌道で”アキュリス”が抜ける。
”アキュリス”の後方にも竜の群れが来る。
だが、今度はミサイルと機銃の掃射が、それらを砕く。
『体積が減少しています!』
『まとめさせません!』
無数に分かれた竜。
倒せば倒すほど数が増えているように見える。
だが、実際、初めに見たほどの巨大な竜はどこにもいない。
竜を形作るのは、無数の機雷。
だが、その総量には限りがある。
砕く度に体積が減っている。
いかに数が増えようと、1体ずつは徐々に小さくなっている。
撃破しやすくなっているのだ。
『押し切ります!』
『続きます!』
世界最速の2人が互いの軌道を交差させる。
無限を思わせるその軌道において、互いの武装を敵へと叩き込んでいく。
竜は翻弄される。
速度と連携を保ち、狙いを絞らせず、それでいて撃破してくる2機に対して、ただ愚直に追うことしかしない。
『…っ!』
”アキュリス”が不意に速度を落とした。
ブースターを逆噴射している。
チャンスと見たのか、これまで以上の数の竜が後方から殺到する。
だが、
『ぐぅ…!』
アインの唸るような声も一瞬、”アキュリス”の姿が掻き消えた。
あまりの速度に竜が標的を見失い、動きを止め、周囲へ赤い目だけを動かす。
そして見つける。
真上にいた2機を。
”アキュリス”は人型である点を活かした直角機動によって、上空へと瞬間的に回避していた。
『このまま!』
『同時攻撃を!』
2人の声が重なる。
機首を直下に向けた”リノセロス”が、55あるマイクロミサイルの発射口を全て開く。
直角機動から、”アキュリス”が後方にレールガンとライフルを構え、背面ユニットのミサイル発射口を開く。
言葉なく、斉射は同時。
火力の雨が、竜の群れに降り注ぎ、空に爆炎を光らせる。
断末魔か、それとも爆発による空気の膨張か。
耳をつんざく叫びのような音が鳴る。
『”リノセロス”このまま戦闘を続行します。引き続き連携を』
『こちらS1。了解、直衛に入ります』
『こちらS2。こちらにいた分は片付けた。これより合流する』
『こちらS3。相変わらずすげぇな。リファルド殿は。片足失ってそこまで動けるかよ』
”リノセロス”が飛び、その後方に3機の”アキュリス”が続く。
黒い霧が徐々に濃くなっていく中、彼らは空を駆ける。