7-19:”機蟲竜”【Ⅱ】
”リノセロス”の周囲にあった竜の群れが瞬時に霧散した。
包囲に穴がいた瞬間、リファルドが機体を加速させる。
機蟲竜を撃った者の正体をリファルドは瞬時に見極める。
「来てくれましたか、アイン…!」
『遅れましたリファルド殿! これよりSコード小隊が支援します!』
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最終調整を終えた”アキュリス”のコックピット内で、アイン=ヴェルフェクトが声を放つ。
「各機、我々の作戦目標は変更されている。復唱せよ!」
S1の声に応じ、部隊の2機が続く。
『こちらS2。撃破対象は、”東”の機体以外とする』
『S3。”リノセロス”の援護、および戦場における全僚機の救援! そして、帰ったらキアラと仲直り!』
『S3、お前は死ぬ気がするな』
『なんでだ!?』
「補助ブースター切り離しと同時に、散開。”リノセロス”の支援に回る!」
『『――了解ッ!』』
3機の”アキュリス”が、背面にある使い切りの補助バッテリーを同時にパージする。
武装の安全装置全てを完全解除。
レールガン、迫撃ライフル、マイクロミサイル、頭部チェーンガン、ブレード。
各々の特性、役割に合わせた武器が展開する。
「――Sコード小隊、突撃機動!」
アインが叫び、敵へと加速する。
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”武双”のシステム復旧を待つ中で、ムソウが叫ぶ。
自分の周囲に展開する部隊”南部槍撃隊”へだ。
「てめぇら! 何考えてやがる!」
槍斧で敵を砕いた”矛迅”が、横から来た新手に蹴りを入れる。
他の槍撃隊機も同様に、高い運動性をもって回避と迎撃を展開する。
”機羅童子”を越える運動性と機動性が、いかんなく発揮される。
『若に頼まれたんです。あんたを助けてほしいって』
『右に同じく』
『俺も俺も』
総勢10機。
槍撃隊の3分の1がこの場に馳せ参じたことになる。
「弾薬尽きてんだろうが」
『全員のかき集めれば、10機分ぐらい満タンですって』
『最も節約はすっけど、な!』
2丁持ちで長いバレルの”芝辻・改”を発砲し、接近する敵を穿ち、吹き飛ばす。
正確な射撃。
牽制などしない。
必要ないとばかりに、容赦なく弾丸をぶち込んでいく。
『”東国武神”の窮地を救ったとありゃ、”東”じゃ英雄間違いなし。こいつは女の子にモテること間違いなしよ!』
『名声最高!』
『おらおらぁっ! なめてんじゃねぇぞ!』
『各自、離れるなよ!』
通信越しに聞こえるのは、ほとんどが若い連中だ。
その中に、1人年を経た落ち着きの声がある。
槍撃隊の中でも古株の部隊長1人がいるようだ。
『ムソウ殿、我らが援護いたします。もうお1人で背負うことはおやめください。誰も、あなたを憎んでなどおりません。それが”東”の者達の意思です』
1人で背負う、という言葉。
ムソウは、目を閉じ思い返す。
イスズを死なせた後、自分は1人、”東”を出た。
誰も巻き込まないために、自分だけが知る秘密を自分の中だけに封じて。
”狂神者”の情報を求めて、その正体を探ろうと5年以上世界を彷徨った。
自責の念と誰も巻き込まないという思い。
だが、その中で無意識に、
……憎まれることが、怖かったのかもな。
”東雲”に拾われ、初めて家族ができた。
自分が安らげる場所。
そこでの心地よさをせめて、自分の中にだけでも残そうと。
だが、
……スズは、恨んでくれなかったな。
恨まれて当然だと思っていた。
恨まれたくもないと思っていた。
大切だったから、拒絶されることを内心恐れていた。
”あなたはもう、大切な人なんですよ”
アリアの言葉を思い出す。
大切な人。
スズにとって、アリアにとって、そして”東”にいる人々が、自分を迎え入れてくれた。
ったく…、と言いながら、ムソウの口の端には笑みが浮かんでいた。
「本当に、バカばっかりだな…、おい」
システムが回復する。
”武双”の目に再び火が灯る。
口元の装甲が開き、陽炎と熱を吐き出す。
四肢に力を取り戻した機体が三度、立ち上がった。
『戻りましたか!』
『おっしゃ! 突破だ突破!』
『蟲どもが、かかって来いや! こちらには”東国武神”様がついてんだぞ!』
槍撃隊が奮起する。
「血の気の多いバカ野郎共! この先、命がいらねぇ奴だけついて来やがれ! 俺達の手で、敵を残らず叩き潰す! わかったか!」
『『『『御命のままにっ』』』』
皆が一糸乱れず返答する。
巨大な武者と、従者の部隊が再び進軍を開始する。