表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
234/268

7-17:王の宣誓‐‐”ハルディン・ロワ” ●

挿絵(By みてみん)

 アンジェは、光の球体の中に身を浮かべていた。


 ”王の宣誓(ハルディン・ロワ)


 そう呼ばれるシステムだ。

 戦場の情報をすべて知覚し、参戦するすべての機体への指示を思うままに行う。

 この戦いの場にあるすべての視点をアンジェが共有する。

 同時にアンジェの処理能力が格段に増加。

 高度な頭脳と化した彼女は、まさに戦場の王となる。


『――リファルド、ムソウはうまく機体に乗り込めたようじゃな』


 言葉が奔る。

 しかし、アンジェの口も眼も閉じられている。

 眠るように浮く彼女の意識は、戦場という空間に浸透するように存在している。

 


「ええ、成功です! 戦端は開きました。このまま行きます!」


 ”リノセロス”のコックピットで、リファルドは隣に浮かぶアンジェの意識体の声に応じる。

 そして、すぐに視線を剃らす。


『なんじゃ。顔を赤くして』

「いえ…、わかってはいましたが…やはりいざとなると慣れがいるようです」


 アンジェの意識体が裸体なのだ。

 ”王の宣誓(ハルディンロワ)”はアンジェの意識のみを情報化している。

 よって、本人の纏う衣類は再現できないのである。

 

『何を今さら。あの夜、これでもかというまで見たじゃろ』

「いや、あの時はややその場の空気とかもあってですね。改めて堂々とされると」


 そんなやり取りの間にも、”リノセロス”によるの対応攻撃は続いていた。

 マイクロミサイルの雨が敵の群れを砕いて崩す。

 ”武双”が、近づいてきた敵を斬り倒し、薙ぎ払いながら、頭部を回し、肩のコリをとるような動きをしているのも見て取る。


『! リファルド! 前方60度!』


 アンジェが叫び、視線を上げると合体した状態の巨大杭が”リノセロス”に飛来してきていた。

 直撃コース。

 だが、リファルドは機首を上げる操作と、トリガーを引く動きをすでに終えていた。

 ”リノセロス”の全長の半分を占める長大な機首。

 その機構が上下に展開。

 青白いスパークが溢れ、次の瞬間、膨大な熱量を持つ白い閃光プラズマが発射された。

 杭に正面から衝突する。

 いや、衝突というには生ぬるい。

 黒い巨大な杭が、プラズマの砲撃に触れた瞬間、蒸発した。

 そのまま貫通し、威力が落ちるまで軸線上の杭の弾丸を全て消滅させる。

 10キロ近い直線上の敵軍を消失させた白い閃光は大気によって減退し、最後は光の粒子を散らせて霧散する。


「――再チャージまでしばらくかかりますが、この場は乗り切れます。アンジェ、今のうちに皆に言葉を!」

『景気のいいのを頼むぜ! 王様よ!』

 

 ムソウとリファルドの声を受け、アンジェが頷く。

 

『リファルド、そろそろ消える。この投影は、意外と神経を使うからの』

「こちらも、敵の排除に集中します。どうか、無理をなさらず!」



 戦場に声が響く


『この戦場にあるすべての兵士よ! 私は、”西国”の”王”…アンジェリヌス=シャーロットである!』


 全ての機体の通信を介して、声が響く。

 凛々しく、強く。


『”西”の兵は、これより”東”と共闘戦線に入る! 今、この場で最も優先されるべきは、過去の遺恨ではない。生き残り、未来へと進もうとする人としての意思だ!』


 ”西”の兵の1人が通信越しに聞く。

 ”東”との共闘という言葉に、わずかばかりの抵抗を感じる。

 だが、今、地上の敵を薙ぎ払い、空からの砲撃を穿った閃光を見た。


『これよりそなたらを救いに参じるのは、”王の”剣たる”最速騎士”! そして”東”最強の武士もののふである”東国武神”! この旗本に集え! 道を開く救済者がそこにいる!』


 2人の攻撃は、同じ方向を向いていた。

 かつてぶつかり合った両国最強の力は、今、揃い、正体不明の敵の軍勢に向けられているのだ。

 そして、新たなデータが送られてくる

 撤退地点を示している。

 その位置は、


「”東”の本陣…」


 そして、”リノセロス””武双”の戦闘地点もマーカーで表示されている。

 周囲の敵マーカーがまるで、塵をはらうように消えていくのが分かる。

 

『皆に言おう! 誇りに死ぬな! 生きて勝て! この戦いにもはや”西”も”東”もない。全てが終わった時、この大地に立っている者全てが勝者となる。これは”王”命であり、”東”の”長”の願いだ。この使命、果たす気概を持つ猛者は返答せよ!』


 兵士たちの答えは決まっていた。


了解ヒアッ!」


 戦場に同様の声が響き渡る。

 敵の数は増え続けている。

 生きることすら至難と化したこの戦場にあってなお、戦うもの達の火は消えない。

 ここに、史実初となる、”東””西”の共同による撤退戦が開始される。



 ……やはり、きついのう…。


 意識体いには現れていないが、アンジェの本隊たる身体には冷や汗がにじみ出ていた。

 ”王の宣誓”というシステムは、本来、長時間稼働していいものではない。

 無数とも言える戦場の情報は、人間の脳では処理しきれない。

 旗艦”シナイデル”によるシステム補助を受けていても、アンジェという個人にかかる負荷は大きすぎた。

 彼女は、すさまじい頭痛に苛まれていた。

 下手をすれば、脳の機能にも影響がでる可能性すらある。

 

 ……まだ、止めはしない…!


 それでも、彼女は皆を導くために気力をしぼる。

 今、彼女は戦場の”目”となっている。

 ”最速騎士””東国武神”に進行ルートを示し続ける必要がある。

 

 ……父君よ。私は、”王”としてありたい。皆のために、強い”王”に…。


 偉大なる父。

 先代の”王”。

 かの意思を継ぐ者として、アンジェは意思を貫く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ