7-14:その意思、限りなく【Ⅱ】
一番近くにいた刃の人型が、両腕のブレードを振り上げて”青肩”の部隊に襲い掛かる。
「こいつ…!」
とっさに手持ちのマシンガンを照準し、浴びせる。
金属で構築されているが、マシンガンの銃撃の中で刃の人型はたやすく砕け、崩れ落ちた。
見た目以上に脆い。
しかし、
『後ろだ!』
「!?」
振り返った時、別の人型が飛びかかってきていた。
照準するには間に合わないと判断した部隊員は反射で、腰のブレードを抜き放つ。
抜刀の軌道で、相手を叩き斬ろうとし、人型のブレードと正面から衝突する。
だが、その瞬間、
「なに!?」
相手のブレードが、こちらのブレードを抵抗なく断ち切ってきた。
その切っ先が、そのままコックピットを切り裂こうと向かってくる。
斬られる、と覚悟した時、
『――墜ちろっ!』
叫びと共に、宙にいた刃の人型が横殴りに吹き飛び、砕け散った。
「隊長! ありがとうございます…!」
『近づかせるな! こいつらのブレードの切れ味は、多少いいどころではないぞ!』
そう言うと、”青肩”の部隊は3機で背中合わせになり、迎撃の陣形をとった。
●
”青肩”の隊長機が、残弾を確認する。
……ゼロ、か。
さっき部下を救った1発で最後だった。
”4本持ち”に叩き込む予定だったが、部下を救えたならよしとする。
だが、どうするのか。
火器を構えることで、刃の人型はうかつに踏み込んではこない。
こちらの隙を伺っているようだ。
『…隊長、予備弾倉は』
「さっき、落とされた右腕だ」
『この状況から離脱を推奨します』
「…俺が旗艦に向けて、包囲に穴を開ける。その隙にお前たちは行け」
『拒否します』『おなじく』
「隊長命令だ」
『…っ』
部下が、声を詰まらせるのがわかった。
他に方法がないのだ。
周囲は、一撃でこちらを仕留めるブレードを備えた人型で埋め尽くされていた。
”4本持ち”を追ってきたことで、自分たちの部隊は本隊から離れた位置にいる。
つまり、迅速な救援は期待できない。
自分たちから動かない限りは。
『…包囲を破る任務、私に任せてはいただけませんか』
「却下だ」
『残弾がまだある自分は、隊長よりも戦闘を長引かせられるという確信があります!』
誰が犠牲となるのかを選ぶ。
一番は、自分であるべきだ。
部隊を率いる者として。
その時、
『――ならば、誰1人として失われない手段をとるべきであろうっ!』
声と同時に、1つの機影が斬りこんできた。
刃の人型が放った斬撃を、回避し、横一文字に斬り飛ばして見せた。
適格な踏み込みと、必殺の一太刀を見せつけ、敵の集団をわずかに後退させる。
「”4本持ち”…! なんの真似だ!?」
『最後の1発…本来、私は敗るはずのそれで、お前は部下を救った』
「俺は、部下を死なせるために戦場にいるわけではない」
『私もそうだ。ゆえに、共同戦線を望む』
「チームを組む…。俺と貴様が…?」
『迷っている暇はない。斬りこむ。我らは前衛を張ろう。背中から撃ちたくば、撃て』
正気なのか、と一瞬考えるが、有無を言わさず、”4本持ち”が敵集団の先端へと斬りかかっていく。
すると、
『隊長に続かせていただく!』『御命のままに…!』『おうさ!』
後から3機の”機羅童子”が、抜刀して、駆けていく。
”青肩”の部隊には目もくれず。
「こいつら、何を考えて…」
『隊長。さっきの”機羅童子”が、予備弾倉を…!』
部下に言われ、見ると”青肩”の機体の足元にはさっき斬りおとされた左腕が落ちていた。
すれ違いざまに、置いていったとしか思えない。
本気なのだ。
先まで雌雄を決しようとしていた相手が、こちらに背中を預けている。
”お前を活かすことができれば、私の勝ちだ”
”4本持ち”の言葉が、脳裏に反復する。
「…装填は」
『完了しました!』
残弾の表示は、最大まで回復している。
”青肩”は、右腕を振り上げ命令を下す。
「敵を撃て。標的は――」
照準をつける。
その先にあるのは、
「――刃の人型だ! ”機羅童子”への誤射に注意を払え!」
『了解!』