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7-12:正当なる守護者【Ⅱ】

 ファナクティは、最下層に降り立った。

 通路を抜け、壁伝いに設置されたキャットウォークへと出ると、状況を見る。

 先に降りて行ったはずの”ソウルロウガ・R”の姿はない。

 

「行ったか…エクス」


 視線を、下層に到達するエレベーターへと向ける。

 膨大な熱で破壊されていたものの、機体が通り抜けられるほどの大穴が穿たれてた。

 腕の端末で、今、そこを通り上層へと上がっていく機体の反応があることを確認する。

 安堵もなにもない。

 しかしどこかで静かにほほ笑む自分がいることをファナクティは自覚する。 

 そして、視線を動かす。

 ”サーヴェイション”のそばに黒い機体の姿がある。

 

「…”絶対強者”…いや、リバーセルのなれの果て、とでも言うべきか…」


 ”絶対強者”は、”サーヴェイション”の前に、片膝をつき停止していた。

 まるで人間が、何かに祈っているように。

 

「”守護者”…とでもいうべきなのだろうな」


 エクスが”破壊者”ならば、あの死神は”守護者”だ。

 壊すことも、守ることも、どちらも正しい。

 何を大切に思うのか。

 世界か。

 家族か。

 

「…選べるものではない」


 だが、選ばれなくてはならない。

 その結果が何であろうと。


「エクス…お前は戦わなくてはならない。自らの目的を達するために、挑むしかない。この不可能に」


 ファナクティは通路を歩き、絶対強者へと近づいていく。


「”神”の定める必然の運命を否定して、壊せるか…」


 ”絶対強者”の目に光が奔った。

 近づいてくるファナクティに反応したのだ。

 機体を包むような装甲が軋む音をたてて稼動する。

 左目にあたる球状のセンサーが、赤い残光を引き、ファナクティに向けられる。


「この”正しきの歴史の守護者”を…」


 腕部にプラズマソードを展開し、”絶対強者”は一歩ずつ近づいてくる。 

 この”絶対強者”は、ファナクティを知らない。

 はるか過去に、ファナクティではない”同じ存在”によって創られたものだからだ。

 

「運命を受け入れる、か…」


 ファナクティは自嘲した。

 悲劇を生む者とわかっていて、何にも抗えず、自分の役割を終えようとして。

 だが、ふと先にかけられた言葉を思い出した。


 ”この世界で生きるんだ。多くの仲間から託されたものを、無駄にしないために”

「すまない…」


 ファナクティめがけてプラズマソードが振り下ろされる。

 膨大な熱が人間1人を蒸発させるのにかかる時間は、一瞬。

 ”ファナクティ”という男は、世界から消えた。

 それは”サーヴェイション”の開発者にして、世界滅亡という悲劇の生みの親。

 定められた最後は、―――自ら創造したものによって命を絶たれること。

 


 遺跡の外で、戦闘の音がやもうとしている。

 ”ヘヴン・ライクス”と”ヘル・ライクス”が戦闘を終えようとしていた。

 展開していた”アルフェンバイン”の部隊20機は、最後の1機を残し、皆中破している。

 そのどれもが、武装を失い、手足を切り飛ばされ、戦闘力を失っている。

 

『これで…ラスト!』


 リヒルが声を発し、プラズマ砲を構える。

 熱兵器であるプラズマ砲は、直撃以外でも使いようによっては制圧武装として使える。

 プラズマという要素が、機体に”機能障害”を発生させるからだ。

 未来製である”ヘル”と”ヘヴン”の2機は、対プラズマ仕様であるため影響はうけない。

 だが、”アルフェンバイン”はそうはいかない。

 出力を最低まで下げ、調整すれば余波で行動不能に追い込むことができる。

 だが、それでも直撃すればパイロットに危険がおよぶ可能性は高い。

 ゆえにリヒルは最新の注意をはらって戦闘を行っていた。


『これが、”両翼”か…。これほどの機体を保有していたとは…』


 ”アルフェンバイン”から、パイロットの声が来る。

 隙なくブレードとライフルを構えており、いつでも動けるようにしていることからも練度の高さがうかがえた。


『機体を降りてください…。これ以上戦う必要も、意味もありません』


 リヒルが、諭すように告げる。

 同時に、相手の背後に”ヘル・ライクス”が降り立つ。

 完全に挟み込んだ。


『無意味…そうは思っていない。だから、こうして戦っている』


 ”アルフェンバイン”のパイロットの声から虚勢は感じられない。

 

『なぜです。あなたも”世界は滅ぶ運命”なんていうのを受け入れてるんですか…!?』

『違う。俺たちが戦うのは、――隊長のためだ』

『どういう――ッ!?』


 さらに先を問おうとして、リヒルは目を見開く。

 ”アルフェンバイン”が、身を沈め、飛び出したのだ。

 不意をついた突進だ。

 背後にいた”ヘル・ライクス”が即座に反応し、圧倒的な加速力をもって追い縋ろうとする。

 だが、”アルフェンバイン”が、背後に向け、肩ごしにライフルを撃った。

 狙いはついていない。

 だが、”ヘル・ライクス”の加速をけん制し、動きを鈍らせるには十分に効果的だった。

 その間にブレードを構え、近接戦の体制に入っている。


『く…!』


 ”ヘヴン・ライクス”がプラズマ砲を撃とうとして、


 ……撃てない…!?


 躊躇する。相手はあえて銃口に向かってきている。

 撃てば――パイロットに余波が直撃してしまう。

 

『甘いぞ、”両翼”ッ!』


 近接の間合いに入られる。

 飛んで逃れることも間にあわない。

 

『ならッ!』


 ”ヘヴン・ライクス”が動く。

 プラズマ砲を、手から落とし、両の手をあけた状態で、”アルフェンバイン”を迎撃する。


『な…!?』

『はぁっ!』


 ぶん殴った。

 ブレードの一閃を、左肩の装甲に1太刀を受けながら、カウンターで右拳をもって相手の胸部に打撃を叩きこむ。

 ”アルフェンバイン”が、宙に浮かされ、そのまま地に背面から叩きつけられた。 

 両腕の武装が、衝撃で手から放れ、落ちる。 

 元々、射撃用の精密機構を組み込まれた”ヘヴンライクス”の手は打撃の反動に耐えられるようにはできていない。

 実際、指の数本が曲がり、千切れ飛んでいる。

 だが、それでもリヒルはこの手段を選んだ。

 

『…あなたの思いがわかります。私にも大切な人達への思いがあるから…』

『それがぶつかるなら、どうする? 力で抑えるのか…。強いものが正しい、と』

『正しさなんて、みんな持ってます。あなたを間違ってるなんて言わない。だけど――』


 ”ヘヴン・ライクス”がコックピットを開放する。

 そこからリヒルは身を乗り出した。

 それは機体の操作を放棄したということ。

 自らが、戦いをやめるということ。

 眼下の”アルフェンバイン”を見つめ、直接言葉を投げかける。


「それは、本当に”隊長さん”のためになることなんですか…?」

『……』

「”隊長さん”とあなたが本当に望んでいることなんですか」


 その言葉に、相手パイロットは沈黙する。

 静かに十数秒が過ぎ、


『――わかっているさ』


 パイロットが呟くように言う。


『俺たちは、”朽ち果ての戦役”で戦友や、大切な人を失ったんだ。だから、隊長がたった1人の妹を生きながらえさせようとすることに、どこか感慨深いものを持っちまった。世界が滅ぶとか、でかすぎてよくわからないことより目の前のことだけを見てたのさ』

「どうして…。止められなかったんですか…」

『そういう奴らもいたが、放れていっちまったよ。隊長は、望んで1人になろうとしてたんだ。”誰も巻き込まないように”ってな。だがよ、あんな子供が、たった1人で何をできるってんだ』

「だから残って協力したですか…」

『ああ、どこかで目を醒まさせてやれないかと思ってはいた。だが、無理だった。結局、俺たちは隊長の思いに引っ張られちまった。それがこのザマさ』

 

 仰向けに倒れた状態の”アルフェンバイン”がコックピットを開放した。

 それは戦いをやめることを示す行動だ。

 相手のパイロットは、コックピットから機体の装甲の上へと昇り、両手をあげ”ヘヴン・ライクス”を見上げた。


「隊長は冷たく見えて、だが本来は優しい奴だ。だから、――助けてやりたかった」

「まだ、間に合います。私たちに協力してください』

「何を協力するんだ。一緒に、隊長を説得でもしてくれるのか」

「必要なら。ですが、今はその前にやることがあります」

「なに?」


 その時、――地が震えた。


「!?」 「なんだ!?」

『――リヒル! 山が、崩れる…!』


 シャッテンの声が、通信越しに来る。

 その言葉がさすのは作戦が失敗した可能性だ。


「失敗…!? エクスさん達は無事なの!?」

『…待って…、脱出してる。”ロウガ”は空を飛べない…迎えに行く…!』

「お願い…! ――”ナスタチウム”!」

『はい。もう真上につきます。対空砲撃怖かったですね~』

「この場から離脱します! ”知の猟犬”のパイロットはみな無事です。収容を!」

了解ヒア

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