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7-12:正当なる守護者 ●

「貴様ぁっー!」


 転倒している状態から機体を跳ね上げ、リバーセルが叫ぶ。

 黒金の機体は、”ブレイハイド・弐”にプラズマソードを突き入れたままの体勢だった。

 ウィルを助けようと背後から、タックルをかける。

 だが、


「な…!」


 タックルは入った。

 その瞬間、異変が起きたのだ。

 

「機体が、…崩れる…!」


 接触した右肩部分から、砂のように装甲が崩れていく。

 損傷と制御不能のアラートがコックピット内に鳴り響く。

 

「くそっ…!」


 機体を離そうと操縦桿コントロール・ギアを引くが、すでに”ラファル・センチュリオ”は制御を奪われていた。

 同時にリバーセルの体内にあるナノマシンもまた活性化していく。

 

「が…!」


 再び血を吐き出す。

 身体の機能がおかしくなっていく。

 そして、


『――オ前ハ、同ジ…』


 声が聞こえた。

 ノイズ交じりの自分と同じ声。


「なにを…!」

『…俺ハ、イヴヲ守ル。オ前モイズレ、ソウナル…』


 けたたましいはずのアラートの音が遠のいていく。

 意識が薄れていく。

 まるで、眠りにつくように、リバーセルが前のめりに倒れそうになる。

 手の感覚がマヒし、身体から力が抜けていく。


「お前、は…」

『オ前ハ…』


 そうつぶやきかけた時、


『――沈めっ! 亡霊がっ…!』

「っ!」


 声が響いた。

 直後、コックピットを揺らした衝撃が、リバーセルに意識を引き戻す。

 いつのまにか黒金の機体と、”ラファル・センチュリオ”が引き離されていた。

 見ると、間には背面ユニットから光の粒子を放出する青い機体が割り込んでいた。


「お前…!」

『ウィルを助けろ…!』


 そう言うやいなや、青い機体が黒金の機体に激突する。

 右腕のブレードで切りかかり、黒金の機体が”ブレイハイド・弐”から剥がされる。


「く…」


 リバーセルが、ナノマシンの暴走冷めやらぬ身体を動かす。

 気力を持ち直すため、口に溜まった血の塊を外に向かって吐き出す。

 気が付けば、”ラファル・センチュリオ”は頭部から、胸部にかけて分解されていた。

 まるで、食われたような状態で、機能を完全に停止している。

 

「おかげで、簡単に出られる――なっ」


 吹き抜けになったコックピットから、身をかがめ、跳ぶ。

 ”ブレイハイド・弐”の腰部装甲に手をかけ、ぶら下がる形で飛び移ることに成功する。

 すると、背後にあった”ラファル・センチュリオ”が音を立てて、崩れ落ちた。

 役目を終えた愛機を、リバーセルは一瞬見据え、

 

 ……世話になったな…。


 そうわずかな感慨にふける。

 だが、すぐに上を見上げた。

 身体の状態は、さっきよりは軽い。

 ぶら下がった状態から、装甲をよじ登り、”ブレイハイド・弐”のコックピット近くまでたどり着いた。

 だが、緊急開放のレバーを引いても反応しない。

 みると、黒金の機体の攻撃で、装甲が溶けて歪んでいる。


 ……無事なのか、それとも…


 絶対強者のプラズマソードは、コックピット付近に突きこまれていた。

 直撃でなくとも、ウィルが余波で無事ではない可能性も考えられた。

 

「…っ、迷ってられるか…!」


 リバーセルは、コックピットの隙間に空いたわずかな亀裂に目をかける。

 熱で歪んだそこに手をかける。


「く、ぁ…っ」


 熱が残っている。

 それも金属が融解した時のまま。

 本来、人間が触れてはいけない温度だ。

 だが、リバーセルはためらわなかった。


「く、あああああああっ!!」


 渾身を込め、気迫と共にナノマシンで増強された腕力を発揮する。

 すると、コックピット付近の分厚い装甲がさらに歪み、強引にこじ開けられる。


「か、は…」


 力を込めた反動で、活性化したナノマシンを再び押さえつけながら、なんとか前を見た。

 リバーセルは呼びかける。

 

「ウィル…」


 無事か、と言おうとして、しかし直後に唇を噛んだ。



「これ以上はさせん…!」


 エクスが、右腕のブレードにプラズマコーティングをかけ、”躯”に斬りかかる。

 ”躯”は、自由になった右腕のプラズマソードで受け止めながら、回復している左肩のプラズマ砲をチャージする。

 だが、エクスの判断は迅速だった。


「あの時と同じと思うなっ!」


 ”花翼ブルーメ・ブラット”から、射出されたプラズマブレードがチャージ中の部位に突き刺さる。

 エネルギーの暴発で、”骸”の左肩が砕け散る。

 

 ……再生が完了している部位を潰せば…!


 ”ソウルロウガ・R”の優勢は崩れない。

 どれほど破壊すれば、この亡者は機能を停止するのかわからない。

 だが、それなら、


「完膚無きまでに、砕いてやる…!」


 エクスが目を見開く。

 集中力をさらに研ぎ澄まし”躯”の放った反撃の刺突を、頭部の数センチ右をかすらせる距離で回避。


「でぇああっ!」


 伸びきった右腕部を下方から跳ね上げたブレードの一閃で斬り飛ばす。

 ”躯”の武装は、これで全て落とした。


「ここで、終われ…!」


 叫び、ブレードにプラズマの刃を集束し、一刀両断に斬り伏せにかかる。

 だが、


『焦ッタ、ナ…』

「!?」


 エクスは見る。

 ”ソウルロウガ・R”が真っ向から振り下ろしたプラズマブレード。

 それが衝突した相手の右肩付近に、


「装甲が動いて、集中防御しただと…?」


 激しいスパークを散らしているそれは、プラズマコーティングがあることの証明。

 かつての”絶対強者”との戦闘で、有効だった”フリューゲル”と同等の防御機構。

 

『アノ敗北、忘レテハ、イナイゾ…』


 その瞬間、新たな影が”躯”の背面から奔った。


「…!」


 エクスが気づき、回避しようとして、


「が…!」


 くらった。

 横に回避したと思ったら、その影が鞭のようにしなり、”ソウルロウガ・R”を弾き飛ばしたのだ。

 機体制御が間に合い、片膝をついた状態で地をすべり、攻撃の正体を理解する。


 ……テイル型の武装か…!?


 ”骸”の背面から伸びていたのは、長大な1本の金属尾だった。

 尻尾のごときそれは、波打ち金属床とこすれ、火花を引く。

 おそらく、再生と同時に構築していたであろう急ごしらえの打撃武装。

 

「つくづく、厄介な奴だ…!」


 距離をあけられたこの間に”躯”の左腕は再生を完了。プラズマソードが再び噴出する。

 各部位の再生も同時に進行していく。

 脚部も完全ではないが、戦闘機動が可能なまでに組みあがっている。

 敵はかつての”絶対強者”へと戻りつつあった。

 時間を置けばおくほど、こちらが不利になる。


 ……どうする…?


 この黒金の”骸”を止めるには、やはりエネルギーの根源を叩くしかない。

 すなわち、今”骸”の背後で起動しかけている”サーヴェイション”を狙う。

 最大出力で、”雷撃光杭プラズマ・バンカー”を撃ちこむことも考える。

 だが、


 ……いや、ダメだ。


 考え直す。

 ウィルとアウニールが共に過ごした光景が、その意思を鈍らせる。


 ……これは、やってはいけないことだ…。


 その時、


『――聞こえるか、青い機体のパイロット…!』


 通信がきた。

 瞬時に出所を知る。

 ”ブレイハイド・弐”からだ。


『貴様は、ウィルの仲間と判断していいんだな!』

「ああ、そうだ! ウィルは無事か…!」

『危険な状態だ。すぐにここを離れて処置しないと、どうにも保証できん』


 離れる、という選択。

 それは”サーヴェイション”の起動を許すということ。

 全ての終わり。その始まりをみすみす見逃すということ。

 あの歴史の始まり。

 

 ……この機を逃して、次の機会があるのか…?


 エクスは、一瞬で何度となく迷いを繰り返す。

 そして、


「……撤退するっ…! 後退と同時に拾う。タイミングを合わせろ…!」

『――任せた』


 撤退を選択する。

 賭けたのだ、ウィルの再起に。


「弾幕を張るぞ。…3――」


 ”ソウルロウガ・R”が”花翼ブルーメ・ブラット”を、最大展開し、プラズマの刃を形成する。


「2―――」


 ”骸”が、再生が完了した脚部を踏み鳴らし、前進してくる。


『無駄ダ。ソノ武装ノ特性ハ、モウ解析シタ…』

 ……1――


 無視する。

 プラズマの刃の先端を正面に、向け、


 ……ゼロっ!

「くらえっ!」


 一斉発射。

 数十というプラズマの刃弾が穿ち、破壊したのは、”骸”の足元とその真上の天井だった。

 足場を破壊され、同時に天井からの廃材が降り注ぐ。

 エクスは叫んだ。


「いまだっ!」


 ”ソウルロウガ。R”が爆発的な跳躍力を持って後退する。

 ひとっ跳びに”ブレイハイド・弐”の横につけ、コックピットを開放する。


「乗れ!」

「ああ…!」


 告げると同時に、コックピットに乗り込んできたのは銀色の髪の少年だった。

 少年は、エクスをみるや目をわずかに見開き、


「お前、あの時の…」


 エクスも、同様に思っていたが、それよりもまず気にすべきなのは、少年に抱えられているのはウィル。

 その状態を見て、表情を険しくする。


 ……く、遅かったか…!

 

 ウィルの身体には数えきれない裂傷と、火傷がみてとれた。

 出血も、リバーセルの服に染みついている量から危険だと判断できる。 


「…脱出する。掴まれ!」


 ”ソウルロウガ・R”のコックピットが閉じる。

 暗い空間に、無数のデータだけが表示される。


「おい、モニターカメラはどこだ?」


 少年が尋ねてくるが、エクスは答えない。

 答えている暇は、なかった。


「来るか…!」


 巨大な影が、廃材と粉塵を吹き払い、姿を現す。


 挿絵(By みてみん)


 そこにある姿は、もはや甦った”亡霊”でも、朽ちてなお動く”骸”でもない。

 歪で堅牢な装甲と、長大な金属尾。

 両肩にプラズマ砲を持つ、暗闇のように黒い金属で構築された悪霊。

 血のように赤く発行するセンサー

 左側のセンサー周囲だけの装甲が未だなく、内部機構である無数のコードを露出させている。

 それはまるで目玉のようにギョロリと動き、視線が、エクスを機体の装甲越しに貫いてくるようだった。

 ”絶対強者”は、完全に復活した。


『――消エロ…』

「ちっ!」

 

 ”絶対強者”の両肩装甲が上下に展開し、赤黒い光が集束する。

 チャージには、ほんの2秒もかからなかった。

 次の瞬間、空間を埋めつくすほどのエネルギーの塊が、”ソウルロウガ・R”めがけて射出される。


「”花翼ブルーメ・ブラット”!」


 エクスが叫び、背面のユニットを最大出力にプラズマの障壁を展開する。

 可能な限り集束させ、面積を機体ギリギリに隠せるまでに縮小。戦艦のプラズマ砲を防げる数値までもってくる。

 そこへ一瞬遅れで、障壁にプラズマ砲が衝突する。


「っ!!」


 出力の桁が違いすぎた。

 障壁は、数秒と抵抗できず、あっさりとひび割れ、――砕け散った。 

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