7-11:白い世界【Ⅲ】
……ドコ、ダ…
その存在は、覚醒し、状況を知ろうとする。
……フレーム、損傷多数。右腕欠損。各部装甲損失。
自分の状態を診断し、
……修復開始。
力を取り戻すべく、ナノマシンを散布する。
周囲にあるあらゆる金属が砂のように崩れ、集まってくる。
……修復速度、”低”。完全修復必要時間――
あらゆる数値の算出が瞬時に行われていく。
そして、その存在は1つの名を思い出す。
……イヴ…ドコダ…ドコニ、イル…?
自分が守るべきもの。
その反応が微弱であることに、気づく。
……ドウカシタノカ…ヨワッテ…
全身を軋ませながら、立ち上がっていく。
脚部の損傷修復を優先し、直立が可能となる。
……イヴ、今、行ク…
守らなければ。
たった1人残された大切なものを。
”イヴ”の反応はここよりもさらに下層。
同時に周辺を索敵し、ここがどこであるかを理解する。
……”サーヴェイション”内部…格納庫。
脚部が70%復元する。
機動が可能になり、下層に向かおうと1歩を踏み出した。
その時、
……熱源、感知…
格納庫の入り口が、吹き飛ばされ巨大な影が粉塵を突き抜けて乗り込んできた。
青い装甲を持つ人型。
……コイツ、ハ…
あの時、自分を沈めた機体と酷似している。
『――目覚めたのか』
青い人型から、声が来る。
あの時、聞いた声だ。
『貴様を下層に行かせるわけにはいかん…。ここで沈め、”絶対強者”っ!』
また行く手を阻もうとしている。
させるわけにはいかない。
……邪魔ハ、サセン…!
●
『邪魔ハ、サセン…!』
……なんだ? この声は…。
エクスに聞こえたのは、ノイズの混じった”声”。
”絶対強者”の”意思”が音ではなく、波長を通して伝わってくる。
『そうか…。やけに人間染みて妙だと思ったら…、貴様は元々人間だったなっ!』
咆哮をあげる敵に対して、”ソウルロウガ・R”が”花翼”を展開する。
躊躇なく最大出力のプラズマ刃を連射。
相手の”再生”が開始されているとはいえ、直立が可能になった程度。
まだ避けるほどの機動性は取り戻せてはいない。
狙い通り、プラズマ刃が”絶対強者”の装甲に突きたち、穿ち、砕いていく。
脚部を破壊された”絶対強者”が、前のめりに転倒する。
『起きて早々だが、消えてなくなれ!』
”ソウルロウガ・R”は追撃の手を緩めない。
この過去の世界で”絶対強者”が力をふるえば、対抗できる戦力は存在しない。
だからここで確実に落とす。
完全な状態にまで復元される前に、一気に勝負を決めにいこうとする。
だが、
『貴様ノ相手ハ、後ダ』
『!?』
”声”が、聞こえ、赤い光が周囲を照らし、破砕音を響かせる。
その数秒後、粉塵の向こうにあった機影が突如として消失した。
”ソウルロウガ・R”が、右腕のブレードを展開し、粉塵の向こうへ飛び込んでいく。
視界をふさぐ粉塵を切り払い、見ると”絶対強者”の姿はない。
代わりそこにあったのは、下層に向かって崩落した巨大な穴。
淵は強力な熱で焼き切られている。
『プラズマ砲か…!』
”絶対強者”は、脚部の修復を停止し、プラズマ砲の修復を優先したようだった。
自身の現状では、”ソウルロウガ・R”と戦えないと判断し、床を破壊してこの場を離脱したのだ。
しかも、ただ逃げるのではなく、下層に向かっている。
すなわち、ウィルのいる場所。
そして、”サーヴェイション”のある場所。
『逃がすか…!』
”ソウルロウガ・R”が、追撃のため巨大な穴に飛び込む。
コックピットでエクスは浮遊感を得る。
穴の中は暗闇。
だが、周囲を視界ではなく、空間認識で見ることができる今のエクスは、周囲の物体に衝突することなく正確に機体を降下させていく。
その時、
……下層の動きが止まった…?
最下層にあった2つの熱源。
その反応が重なり停止したのだ。
……ウィル、勝ったのか?
この場ではわからない。
ウィルを信じ、エクスは”絶対強者”を追う。
その時、暗がりの奥に赤い光が灯る。
そして、
『っ!?』
一気に膨れ上がった、
それは、圧縮されたエネルギーの暴風。
……プラズマ砲…!
思考が走ると同時に、赤黒い閃光が”ソウルロウガ・R”に襲い掛かった。