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7-10:”守護者”激突【Ⅱ】

 まだだ、とリバーセルは視線を細める。

 突撃してくる”ブレイハイド・弐”に対して、動きながらの射撃は効果が薄い。

 なら狙うは一点。

 鎧通しのごとく、装甲の隙間を撃ち抜く。

 中破させた”ブレイハイド”に追加装甲を取り付けているだけなら、装甲さえ剥がせれば、撃破は簡単だ。

 そして何より、自分自身が人質だ。

 自分が死ねば、情報は引き出せない。

 それに、


 ……こいつはお人好しすぎる。


 ウィル自身の性格から、最大速度での突撃はしてこないと考える。

 そして、見る。

 ”ブレイハイド・弐”の脚の動きが一瞬変化した瞬間を。

 速度を落とそうと、僅かに上体が起きる。

 

 ……そこだ…!


 リバーセルが、トリガーを引いた。

 狙い済ました弾丸が入ったのは、――左肩の装甲の継ぎ目。

 音速を越え、内部に侵入した弾丸が炸裂する。

 相手の左肩の装甲が内側から吹き飛び、宙へと四散する。

 これで、バランスを、


「なっ!?」


 崩していない。

 それどころか、


『うおおおっ!』


 雄たけびをあげて、突っ込んでくる。

 突撃速度も変わっていない。


 ……まさか、装甲は自分で…!

 

 大槍のひと突きが飛んでくる。

 ”ラファル・センチュリオ”が、咄嗟に回避運動を取る。

 大槍の攻撃は、頭部装甲の数センチ右をかすめる。

 だが、すでに、インファイトの間合いだ。

 2撃目が来る。

 


 助かった、とウィルは思う。

 弾丸が、装甲の隙間に入り込んだ瞬間、緊急のパージ機能が動いた。

 これはクレアが、組み込んだもので装甲が使用不能になった瞬間、強制的にそれを捨て、機動性をあげるための機能だ。

 おかげで、衝撃を最小限に、バランスを崩すことなく前へと向かうことができた。

 そして、


 ……入った!


 ”ブレイハイド・弐”が得意とする間合い。

 近接戦だ。



 銀と黒の機体が、剣の間合いで激突する。


『おおおおおっ!』


 壁に突き入れた初手の大槍を手放し、もう一方の大槍を”ラファル・センチュリオ”へと突きこむ。


『なめるなっ…!』


 ”ラファル・センチュリオ”は、逆に踏み込む。

 後ろに行こうと、大槍の振り回しの範囲から逃れられないと判断したからだ。

 片側の銃剣で、槍の軌道を逸らしながら、銃口を”ブレイハイド・弐”の胸部に照準する。

 ゼロ距離連射で一気に装甲を削り取るつもりだ。

 だが、


『っ!?』


 リバーセルが驚きの声を飲み込む。

 トリガーを引こうとした瞬間、銃身が断ち切られた。

 ”ブレイハイド・弐”が抜刀からの一閃で、斬り飛ばしたのだ。


『この間合いなら!』

『く…!』


 刀の振り下ろしに対して、”ラファル・センチュリオ”が、銃身下のブレードを展開し、受ける。

 鍔迫り合いになり、しかし、


『な、に!?』


 刀の刀身が、銃剣の刃を徐々に通過していく。

 刀自体の精度が桁違いなのだ。

 ”ラファル・センチュリオ”が動く。

 断ち切られる寸前で、ブレードを倒し、刀の軌道を逸らす。

 同時に、銃剣を手放し、腕部の固定武装である機関砲を向ける。

 だが、それも跳ね上げられた。

 ”ブレイハイド・弐”が、抜刀後の鞘を射出して、こちらの腕に当ててきた。

 そして、ついに”ラファル・センチュリオ”に隙が生まれる。

 

『せああああっ!』


 気迫と共に刀による下方からの一閃が奔った。

 断ち切る。

 ”ラファル・センチュリオ”の右腕を、半ばから斬り飛ばしていた。

 一切の抵抗なく、真っ直ぐに斬撃が入ったのだ。

 だが、次の瞬間、


『――”サーヴェイション・システム”…っ!』


 リバーセルの声と同時に、黒い機体の装甲の隙間に金色の光が灯る。

 そして、大槍が押し返される。

 

『これは、”ブレイハイド”と同じ…!?』

『そうだ…! ”イヴ”の力だっ!』


 出力の上昇に伴い、押される側が逆転する。

 ”ブレイハイド・弐”が腹部に蹴りを受け、吹き飛ばされる。


『しまった! 離され…!?』

『逃がすか…!』


 ”ラファル・センチュリオ”は銃撃しながら、肉薄してくる。

 あれほど近接を避けていたはずの相手が、一気に踏み込んできたことでウィルの反応が遅れる。


『っ!』


 姿勢をたてなおし、咄嗟に大槍を盾にする。

 だが、”ラファル・センチュリオ”は防御を気にも止めず、真正面から大槍の表面に蹴りを叩き込む。

 圧倒的な質量差があるはずの”ブレイハイド・弐”がたやすく吹き飛ばされた。

 大槍が砕ける。

 ”ブレイハイド・弐”が金属の床を転がり、削り火花を散らせていく。


『お前に、勝利はない…!』


 ”ラファル・センチュリオ”が、床を蹴り、追撃のために飛ぶ。

 


 ウィルは、コックピット内を襲う衝撃に、翻弄されていた。

 装甲の耐久力はあっても、本体の消耗が広がっている。

 

 ……だめ、だ…。


 3度目の衝撃が襲う。

 機体が吹き飛び、壁に叩きつけられる。

 

「か、はっ…!」


 背中からつきぬけ、激しく揺さぶってくる衝撃に意識が飛びそうになる。

 ふと、右の視界を塞ぐものがあった。

 触れる。

 血だった。

 どこかでぶつけて、額を切ったようだった。

 意識がぼやけ始めていた。

 

 ……アウニール、俺…。


 ”あなたに傷ついてほしくない…。そうでないと、私は苦しくなる。あなたが傷つくたびに、私は苦しくなるんです”


 自分が苦しめば、アウニールは苦しむ。

 なら、どうして、自分は戦おうと、もう1度会いたいと思ったのか。

 どうして、と刹那に何度も繰り返す。


 ”私を追わないでください”


 これはアウニールの望んでいることじゃない。

 これは、


 ……そうだ。俺が、自分で選んだこと…!


 目を開ける。

 全て、自分で決めてここまで来た。

 だから、


「俺は、2人を助けたいっ!」


 その瞬間、コックピット内を金色の粒子が満たす。

 コンソール”サーヴェイション・システム”の文字が灯る。

 ウィルの目が、機体の変化に呼応し、金色に輝く。

 

「戦おう、そして勝つんだ! ”ブレイハイド”!」




『”サーヴェイション・システム”…だと!?』


 リバーセルが、驚愕する。

 なぜだ、と思う間に、”ブレイハイド・弐”が、動いていた。

 先ほどとは比べ物にならない突進速度で、間合いを詰めてくる。

 刀の振り下ろしを、銃剣で受ける。 

 互いに金色の閃光を纏った黒と銀が激突する。


『どうして、お前が”イヴ”の力を使える!?』

『”イヴ”さんじゃない…! これは、”アウニール”が俺にくれた力だ!』

『戯言を言うな…!』


 ”ラファル・センチュリオ”が、刀を弾き返し、後退しつつ至近距離からの銃剣の射撃と左腕の機関砲の連射を撃ちこむ。

 ”ブレイハイド・弐”は、機体を旋回させ、残った右肩の装甲を盾に前進する。

 金閃を纏った銃弾と装甲が衝突し、火花を散らせる。

 

『く、弾切れ…!』 『装甲はだめか…!』


 ”ラファル・センチュリオ”の銃剣が、空撃ちになり、”ブレイハイド・弐”も砕ける寸前の右肩装甲をパージする。

 互いに退かない。

 再び間合いを詰めようと、一瞬早く動いたのは”ブレイハイド・弐”だ。

 


 ……どうしてだ、”イヴ”…!


 刀とのぶつかりあいで、銃剣のブレードが消耗していく。

 残った左腕の機関砲を撃とうとするも、近接に対応している中では照準を合わせる暇がない。


 ……なぜ、こいつに力を貸すんだ…!


 ”サーヴェイション・システム”は、”イヴ”の呼応がなければ、起動しない。

 まさか本当に、”ブレイハイド”に意思があるとでも、


 …そんなはずがあるか!


 リバーセルは、接近してくる相手を見据える。

 次の一閃を回避したら、蹴りを入れ、僅かに間合いが開いたところで、機関砲を撃ちこむ。

 装甲のない両腕を狙えば充分。

 だが、


「…っ!? が、はっ…!」


 不意に身体の奥から、何かが逆流する感覚があった。

 嘔吐する。

 吐瀉物の色は、赤い。

 血。

 膝にぶちまけたそれを見た瞬間、今度は意識が揺らぐ。

 いつの間にか、感情的が高ぶりすぎていた。

 体内のナノマシンのバランスが崩れ、発作が起きたのだ。

 その瞬間が決定的な隙となる。

 

 ……しま――


 なんとか前を見たとき、すでに”ブレイハイド・弐”は間合いを詰めていた。

 ”ラファル・センチュリオ”の懐。

 刀の一閃が入る絶妙な踏み込み。

 銃剣のブレードは、度重なる衝突で欠け、ひび割れている。

 次の一撃を受ける時には、砕け散る。

 つまり、リバーセルに防御手段はない。

 衝撃が襲う。

 コックピットにアラートが鳴り、激しく揺さぶられると同時にシートに叩きつけられる。

 だが、その後に衝撃は続かない。

 鮮明さを取り戻しつつある意識で、機体の状態を確認し、目を見開いた。


 ……な、に…?


 斬られていない。

 背面にダメージがあり、”ラファル・センチュリオ”が壁に叩きつけられている状態であることがわかった。

 正面を見ると、そこには”ブレイハイド・弐”の頭部が間近にある。

 

『――リバーセルさん…』

  

 声が来る。


『大丈夫ッス…か?』



 最期の一閃を入れようと踏み込んだとき、ウィルは”ラファル・センチュリオ”の動きがぐらついたのを見た。


 ……っ!


 咄嗟に刀を手放し、腕だけを突き出す。

 黒い機体の肩部に両手を突き、勢いのままに壁に叩きつける。

 衝撃が壁を伝わり、落ちてきた細かい欠片が機体の装甲を打ち、軽い音をたてる。

 そのまま、2機が停止する。


「ふう…」


 ウィルが息をつき、大きくうなだれる。

 刀を放してよかった、と思う。

 ゆっくりと顔をあげて見ると、黒い機体の手からも、砕けかけた銃剣が落ちていた。

 ”ブレイハイド・弐”は、相手の両肩部をおさえているので、動こうとすれば先手はこちらが取れるだろう。

 気がつくと、2機の纏っていた金閃が、徐々に薄まっていく。

 力の消失をなんとなく感じ、ウィルは小さく呟いた。


「――おつかれ、”ブレイハイド”」


 力を貸してくれた愛機にそう告げた時、


『――あの時もそうだった。どうして、お前は…』


 そんな声がきた。  

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