7-10:”守護者”激突
”ラファル・センチュリオ”が先制の銃撃を放つ。
対する”ブレイハイド・弐”に即座に防御体勢をとって突進してくる。
「バカが…正面から!」
連射する。
この銃弾は、回転と炸裂を組み合わせ、装甲の貫通力、破砕を重視した特殊弾だ。
射程距離こそ従来のものより短いが、当たり所によっては並みの機体を一撃で破砕できる攻撃力がある。
強固な”ブレイハイド”の装甲ですら、たやすく砕いたことを忘れているのか。
防御にまわった時点で、勝敗は決している、と。
しかし、
「っ!?」
リバーセルは見た。
弾丸は確かに、”ブレイハイド”を捉えている。
だが、
……砕けない…!?
いや、砕けてはいる。
破壊されている面積が圧倒的に小さいのだ。
”ブレイハイド”の上半身を覆っている装甲、手持ちの大槍。
その強度が、以前とは比べ物にならないほどに強固になっている。
「ち…! 砕け散れ…!」
リバーセルは連射する。
目の前にあるものを砕こうとする。
相手の装甲の表面を跳ねて散る弾丸の欠片が、周囲を穿ち火花を散らす。
そして、
「…!」
空撃ちのアラートが表示される。
残弾ゼロ。
弾切れ。
銃身が硝煙を立ち上げ、沈黙する。
「おおおおおっ!」
装甲の塊が突進してくる。
「く…!」
リバーセルは、背後にあるゲートに突っ込ませまいと、移動する。
●
……いける!
ウィルは、突進の中でそう思考する。
追加された装甲に加え、大槍も盾として機能する。
”ブレイハイド・弐”に中距離用の装備はない。
だが、接近できれば大槍を初めとした近接武装、そして機体そのものが質量弾として機能する。
「これなら…!」
『調子に乗るなよ…!』
リバーセルが”ラファル・センチュリオ”に、回避機動を取らせる。
突進する”ブレイハイド・弐”に対して側面をとるように跳び、空になったマガジンを捨てる。
腰の後ろにある予備弾装を展開し、銃底をたたきつけ、装填する。
……追いかける…!
”ブレイハイド・弐”が、足底を滑らせ、急ブレーキをかける。
摩擦による火花と共に、機体の向きを無理やり修正する。
『どれだけ装甲があろうが…!』
連射が来る。
●
……どういう強度をしている…!?
リバーセルは、この場所での戦闘に絶対的な自信を持っていた。
中距離を保ちやすく、機動を妨げる要素がない。
障害物も大きすぎず、身を隠しながら銃撃戦ができる。
だが、
「おりゃあぁっ!」
『ちぃッ!?』
隠れることに意味はない。
強固な装甲と共に突進してくる”ブレイハイド”そのものが1個の砲弾と化している。
障害物も何もかもを吹き飛ばし、その前進を止められるものがない。
……これほどとは想定外だ…!
2つ目の予備弾装が空になる。
「くそ…!」
3つ目の予備弾装を展開する。
そして装填のため、機体を静止させるタイミングを計ろう動き回る。
「なぜだ…! 何がお前をそこまで駆り立てる…!」
『決まってる! あなた達のために…!』
●
”ブレイハイド・弐”のコックピット内で、ウィルは前を見る。
……分かっているんだ…。
リバーセルは、”イヴ”が死んだと、理解している。
だから”アウニール”という存在を認められない。
……それを認めてしまったら、自分の全てを否定されてしまうから…。
強い意志にあり、しかし歪みつつある執念とも思えた。
「リバーセルさんの考えは正しい、でも間違ってる…」
『――間違ってなどいるものか…!』
突進を避けられる。
姿勢を戻す間にも、”ラファル・センチュリオ”は距離を開けている。
近接の間合いに持ち込ませてはくれない。
「彼女は、もう生まれ変わったんだ。”アウニール”という新しい命として!」
『なら、お前は”アウニール”とやらをどうしたいんだ…』
「俺は、彼女を救いたい!」
『不可能だ。お前とあいつが、一緒の時間を生きることはできない』
「やってみないとわからない!」
『あいつが、――永遠に生き続けないといけない身体だとしてもか…!』
「…それって…!?」
言われたことの意味が分からなかった。
永遠に生きるとは。
『あいつのために、俺は生き続ける…! あいつを孤独にしないために…!』
どこか自分に言い聞かせているような言葉。
そう思い込むことで、自分を奮い立たせているように思えた。
『アイツの傍には、俺がいないといけないんだよ…!』
戦意を感じ取る。
3つ目の弾装の装填を終えた、”ラファル・センチュリオ”が、こちらに照準を向けるが、姿勢が先ほどと違っている。
片方の銃身の下に、もう片方の銃身を置いている。
精密な射撃を行う際の体勢だ。
『来い…。所詮装甲を増設しただけだろう。充分にダメージは蓄積した…。今度こそ砕く!』
互いの機体が静止する。
”ブレイハイド・弐”と、”ラファル・センチュリオ”がにらみ合う。
「――あなたが、本当に救いたいのは…、”イヴ”さんじゃない…」
『なに?』
「”イヴ”さんを救いたいと、そう思う自分自身。過去の過ちを、拭いたいと、そう考え続けて、今こうして戦ってる…!」
『黙れ…!』
「俺は、そんなあなたを止めたい。もう、過ぎてしまったことなんだ…。だから、、あなたも前に進まないといけない!」
『うるさい…! 俺は…!』
「リバーセルさん!」
『言うなっ!!』
先制の射撃が奔った。
”ブレイハイド・弐”の肩の装甲の表面を僅かに穿ち、跳ねる。
コックピット内にアラームが鳴り、装甲の各部が赤く表示され始めている。
元々、”ブレイハイド”の強力な出力のみを頼りに、取り付けられた重量過多の装甲。
強度こそあるが、本体である”ブレイハイド”は消耗が激しく、長時間の戦闘はできない。
それを悟られていないのは、リバーセルが冷静さを僅かでも欠いているからだ。
無論、ウィルがそれを考慮しているはずもない。
自らの思いを語り、そして相手の言葉を聞くことに集中する。
「どういうことなんスか? ”アウニール”がずっと生き続けるって…」
『……お前には関係ない…』
「いや、ある! 俺は知りたいんだ!」
通信越しに舌打ちが聞こえた。
リバーセルは静かに言葉を放つ。
『なら、俺に勝って見せろ。そしたらあんんであろうと答えてやる。聞くほど、お前は何も出来ないとわかるだろうがな』
「それを安心したッス。俺があなたを倒せば、話をしてくれる」
『やってみろ! 俺はお前を殺すぞ!』
「俺は死なないッ!」
”ブレイハイド・弐”が低く身を屈め、巨体を前へと飛ばした。