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7-8:少年、叫ぶ!

 ウィルは、”ブレイハイド・弐”でエクスの”ソウルロウガ・R”の後に続いて動く。

 エクスの示す侵入口に向けて、静かに動き続ける中、出撃前に聞いたヴァールハイトの言葉を思い返していた。


 ”アウニールという名の少女は、ジャバルベルクはおろか、この世界のどこにも登録されていない”


 前にジャバルベルクを訪れたとき、アウニールが泣いていたのを思い出す。

 もしかしたら、この場所に何か理由があるのではないかと思い、ヴァールハイトに調査を頼んだのだ。


 ……代償は、高かったなぁ…


 ただ働き3年分を契約。

 ヴァールハイトに情報収拾を依頼できる金額など用意できるわけもなかったので、仕方ない。

 確実な情報が欲しかったので、妥当な代償…と思うことにする。

 だが、確かに欲しい情報は全て知ることが出来た。


 ”アウニールに酷似した子がいたことは判明した。関係があるのではないかと私は考えている”


 ヴァールハイトが示したのは、黒い髪に笑顔の映える少女。

 そしてその隣に移る、同じ髪色の少年。

 かなり幼い時期のものだった。


 ”――2人は兄妹だ。兄の名は、リバーセル=アルバンス。妹の名は、イヴ=アルバンス。2人とも、過去にあった事故で命を落としている”


 兄と妹の顔つきを成長予測でシュミレーションした結果を得て、最期にもう1つ尋ねる。

 それは…



『――ウィルっ!』

「っ!?」

 

 張り上げられたエクスの声が、ウィルを現実に引き戻す。

 その瞬間、目の前で爆発が生じていた。


「うお…!?」

『ぼっとするな! 奴らだ…!』


 気がつけば、”ブレイハイド・弐”の前に発光する薄い光の壁があった。

 その根元は、”ソウルロウガ・R”の背面で開いている装甲から伸びていた。

 ”花翼フリュー・ブラット”だ。


『入り口の出迎えは万全のようだ』

「え?」


 ウィルが周囲を見回すが何もない。

 気がつけば、前方から火器を構える機体が数機向かってきている。

 その機体を見て、ウィルは目を見開く。


「奴らって…、どうして”機羅童子”が!?」


 ”東”の量産機である”機羅童子”。

 ”知の猟犬”が数機を鹵獲していたのは知っていたが、


「一体、誰が乗ってるんスか!?」


 ”知の猟犬”の部隊戦力は全て、リヒルとシャッテンが請け負っているはずだ。

 なら、目の前にいるのは、


『躊躇する必要はない…。ただの自律AI共だ!』


 向かってくる敵機に対して、”ソウルロウガ・R”が視線センサーを飛ばす。

 地を蹴り、”ブレイハイド・弐”を置いて、前方へと加速する。


「あ、ちょ、エクス!?」

『”花翼フリュー・ブラット”!』


 ”ソウルロウガ・R”背面装甲がさらに大きく展開し、粒子が噴出する。

 光の洪水が宙を舞い、そこから光の刃が弾丸のごとく放たれ、敵を穿ち、切り刻んでいく。

 巻き込まれた木々も、砕けるか、斬り飛ばされるかだが不思議と燃えることはない。

 唯一行動不能にならなかった敵1機が、残った右腕でブレードを抜き、”ソウルロウガ・R”に切りかかるが、


『――ふん』


 エクスが鼻をならした。

 回避と同時に、ブレードの刀身を右手で捕らえ、まるでガラスのようにあっさりと握り砕く。

 ”ソウルロウガ・R”の圧倒的な性能差を見せつけ、蹴りを叩き込む。

 敵機は、衝撃に耐え切れずに四肢が千切れ飛び、木々をなぎ倒しながら停止する。


「す、すげぇ…」


 ”機羅童子”は、決して弱い機体ではない。

 近接寄りの調整が基本である”東”の量産機として、良質な柔軟性を備えた名機でもある。

 それが、ほんの数瞬で鉄の塊に成り果てた。

 これは単純に”ソウルロウガ・R”の機体性能が圧倒的というだけではない。

 操縦するエクスの能力も合わせてこその力なのだろうと感じる。

 

『どうした。何を呆けて――、ウィルっ!』

「え?」


 ”ブレイハイド・弐”のコックピット内に警報アラートが鳴る。

 

 ……後ろ…!?


 思考すると同時に、機体が動く。

 振り向きながら視界の端で見たのは、もう1機の”機羅童子”が加速してくる姿。

 こちらに向けて駆けながら、腰の刀を抜刀しようとしている。

 

 ……なら…!


 ”ブレイハイド・弐”が、ウィルの操縦に反応する。

 両手に持つのは大槍。

 相手が間合いに入った瞬間、機体を回してフルスイングする。

 だが、


「いっ!?」


 避わされる。

 槍の動きを見切られ、さらに間合いを詰められる。

 すでに相手の攻撃範囲だ。

 抜刀が来た。

 


 ……っ!


 エクスは、見た。

 奇襲を受けた”ブレイハイド・弐”が、大槍の振りぬきを回避されると同時に動く。

 すばやく槍を手放し、身を低くし、相手に向けて身を回したかと思うと、肩部分の装甲を正面に向けたのだ。

 敵の刀は、堅牢な装甲を斬ることはできなかった。

 弾き返され、バランスを崩す。

 驚いたのは、それが”ブレイハイド・弐”の動きの流れにおいて、ほんの一瞬の過程であったこと。

 瞬間的な防御。そして、”ブレイハイド・弐”は腰にある刀の柄に手をかけていた。

 抜刀。

 鞘から奔った斬撃が、無防備な隙を数瞬さらしていた敵機の胴体に入った。



 ……自然に、動いた…


 ウィルが、自分の動きを知覚したとき、すでに目の前の状況があった。

 いつも、稽古では初撃を回避されていた。

 その隙をつかれて負けていた。

 だから考える。

 回避されたら、どうする、と。

 負けてはその繰り返し。

 最期まで、スズとランケアに一太刀も与えることはできなかったが、それでも身体は覚えていた。

 戦いにおける動き。

 思考を経て、動きへと変え、それを継続する力を。

 加えて”ブレイハイド・弐”が持つのは、クレアが幼少期に試作した白銀刀”切”。

 ”バカみたいに斬れる”ほどに研ぎ澄まされたものだが、製作コストやサイズの割りに重量がありすぎて使用されていなかった攻撃力抜群の武装。

 それが、今、相手の胴体に入っている。

 ならやるべきことは1つ。


「っ、でああッ!」


 機体の出力を上げ、気合と共に斬り抜ける。

 腕だけでなく、機体そのもので斬る。

 機体のパワーに任せるのではなく、全ての動きを乗せて攻撃の形とする。

 そして、敵の背面へと抜ける。

 一瞬の静寂の後、


「――よしっ!」


 ウィルが、ガッツポーズをとると同時にスパークを帯びていた敵が爆散した。

 刀を腰の鞘に戻し、”ブレイハイド・弐”が、”ソウルロウガ・R”へと振り返る。


 ……これなら、戦える!


 確信を得て、ウィルはエクスに声を向ける。


「どうッスか! 俺もそこそこ強くなってるッスよ!」

『ああ、そうだな…。だが、考えなしなのは相変わらずだ』

「へ?」

『見ろ』


 ”ソウルロウガ・R”が入り口へと頭部を向ける。

 続いて、ウィルが視線を向け、


「げ!?」


 入り口から、ワラワラと機体が出てくる。

 ”機羅童子”もだが、”アルフェンバイン”も、次々と。


『さっきの爆発で連中に探知された。それを遅らせるために、俺は相手を爆散させないように対応して、木も焼かなかったわけだが…』

「あはは…。…すみませんでした!」

『…まぁ、遅かれ早かれ気づかれていたには違いない。それが早まっただけだ。――突破する! ウィル、続いて来い!』

「りょ、了解ッス!」


 ”ソウルロウガ・R”が、身を低くすると同時に、地を蹴った。

 ”ブレイハイド・弐”が、大槍を拾い、それに続く。

 ”花翼フリュー・ブラット”から放たれる光の刃の連射が敵の集団に向けて撃ちこまれる。

 出力制限なしの攻撃が、敵の密集を砕き散らし、突破口をこじ開ける。


『――ウィル!』

「な、なんスか…?」

『俺は、1度アウニールを殺そうと思ったことがある』

「そう…って、え!?」

『だが、お前がアウニールを想っていることを知って、思いとどまった。それは正しかった』

「エクス?」

『お前は全力でアウニールを救え。おそらくそれを助けるために。俺はこの世界じかんに来たんだ』

「それって…どういう」


 ウィルが問う間もなく、入り口を越え、2機は内部へと突入する。

 救うべき者が待つ場所へたどり着くために。

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