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7-4:”稲妻”VS”槍撃”【Ⅳ】

 ”槍塵”が駆け抜けるのは、起伏の激しい、大地が隆起したエリアだ。

 この場所は布陣が難しく、配置されている部隊がいない。

 ”東”の部隊配置は、この場所がある故に大きく湾曲している。

 ”地の稲妻(ソル・ライフェン)”は、この位置を抜け目なく狙ってきている。


『若! 先行しすぎています!』

「すみません…!」


 槍撃隊の機体にはすべて”矛迅”があてがわれている。

 選りすぐりの10人は、すでに乗りこなし、こちらに追従している。

 しかし、やはりというべきか、”槍塵”の機動性と運動性と比較すると大きな差がある。


「自分が先行して、相手の脚を止めます!」

『無理せんでくださいよ!』

「はい!」


 駆ける先には、巨大な岩山がある。

 ”槍塵”の3倍はあるそれを、機体重量とランケアの技量を持って、起伏に踏み場に、軽々と飛び越えて見せる。

 そして、空中に機体がある刹那、


「見え――」


 た、と言おうとして、気づく。

 確かに”地の稲妻(ソル・ライフェン)”がいる。

 だが、その全てが、”槍塵”に照準を向けているのだ。


 ……読まれた…!?


 思考した瞬間、空中にある”槍塵”へ火器の一斉射が浴びせられる。


「くっ!」


 咄嗟に槍を高速回転させる。

 回転した柄は、擬似的な盾になり、襲い来る弾丸を弾き飛ばして見せた。

 しかし、突如として視界横が影で覆われる。


「っ!?」


 視界を埋め尽くしたのは、白銀の機体。


『――この岩山を駆け上がるとは、ただの機体ではないな。エクセレント…!』


 言うと同時に、正面からの一斉射が止まり、代わりに細身ブレードが横薙ぎに襲ってきた。

 ”槍塵”は、正面に対しての防御姿勢をとっている。

 側面に対応するには、すでに致命的なまでに遅れていた。

 斬られる、とそう覚悟した瞬間、

 

『――若っ!』


 声が来た。

 後続の槍撃隊員の声だと気づいた時、白銀の機体が弾かれたようにバランスを崩していた。

 ”槍塵”が重力を得て、地上へと引き寄せられる。

 岩山の側面を蹴り、大きく後退すると追いついてきた槍撃隊の前に膝をかがめて着地した。

 対する白銀の機体は、バランスを崩していたが、同様に岩肌に蹴り、1回転を加えて優雅に着地して見せた。

 

『――優秀な部下を連れているな』


 腰に手を当て、白銀の機体が声を放つ。

 その後方に、先ほど”槍塵”に一斉射をかけてきた部隊が並び、統率のとれた整列を見せる。


『ランケア殿…ご無事ですか!』

「ありがとうございます…。危なかった…」


 下手をすれば、あの初撃で落とされていた可能性があったかと思うと、いまさらながら身震いが来た。


 ……実戦は一撃で、とはわかっていたつもりですが…!


 実際に経験すると、冷や汗どころではないと感じた。

 ”槍塵”を直立させ、改めて前に立つ相手を見る。

 白銀の機体を筆頭に、異常な錬度を有する特殊部隊”地の稲妻(ソル・ライフェン)”だ


『――その機体、面影があるな』


 ふと白銀の機体から、声が来た。


「面影…?」

『問おう。君が、南武・フォルサの子か…?』

「…そうです。ボクの名前は、南武・ランケア…」


 ランケアは、一呼吸置く。

 血の繋がりなどなく、自分は彼女の子であることを強く意識し、誇りを持って。


「次期南武家当主。南武・フォルサの遺志を継ぐ者です…!」


 その言葉に、白銀の機体は、頭部を空に向け、天を仰いで見せた。

 

『ああ…、そうか。嬉しいな…。無念があった、しかし…、嬉しいぞ…!』

「?」

『失礼した。美しくも悲しき過去にひたってしまい、つい目頭が熱くなってしまった。――私も名乗ろう』


 言って、相手が剣を構えた。


『我が名は、リッター=アドルフ。そして、我が半身であるこの機体の名は”エーデルグレイス・B”と言う。”B”はビューティフルの”B”だぞ! いいか!?』

「え? あ、はい…!」


 ランケアは、少し調子を狂わされながらも、専用槍の”夜叉”を構える。


『これより始まるのは、この戦いにおいて最も優雅で、誇り高き戦いとなろう! 南武家当主は、”東”最強の白兵の者である以上、これを打ち倒すは私の誇り! そして、この場を制する者が勝利の一角を掴むのだ! よいな!』

「ボクは――」

『待て! 私の話はまだ終わっていないぞ!』

「え…? あ、はい。すいません」

『うむ。素直なのはいいぞ。”武”の道というのは”東”と”西”にそれぞれのエレガントさがある! ”西”の剣というものには、華やかさが必要だ。舞うように、鮮やかに振るわれる剣技こそ、その最たるものである! そうであろう副官!?」


 リッターの声に対して、背後中央に立つ隊員機が、頷きを見せた。


『は。リッター殿の剣技はまさに、”西”の誉れ。その華やかさには、何者も敵いますまい』

『そうであろう! かつて、私の剣に挑むものは数多くいた。しかし、いずれも敵ではなかった。蹴散らしたのだ! なぜかわかるかね! ランケア少年!』


 ”エーデルグレイス”に、ビシリと指差され、コックピット内のランケアは、反射的にビクリと肩をあげる。


「えっと……分かりません…」

『いかん! その答えは美しくない! エレガントにもう一度!』

「ええっ!? も、もう1回…!?」


 えっと…、と律儀に考え込むランケアだが、


『…ランケア殿。これはこれは、好機では?』

「え?」

『なんかポーズ決めている内に、撃っちまえばいいんですよ』

「そ、そんな卑怯ですよ…!」

『戦は卑怯でナンボですって。ゲヘヘ』

『おいおい。それじゃすぐにやられるザコのセリフだ。かっこよく、正々堂々不意討ちするって言えよ』

「同じですよ!?」

『それに不意打ちしたの向こうが先ですし、文句言えんでしょう』

「それは…」


 ありかな、と一瞬思ってしまった。


「いやいやいや! だめ! 絶対にダメです! この勝負は正々堂々と! でないと意味がありません!」  

『――その通り!』


 リッターの声が飛んできた。

 え?、と呆けるランケア達に、素晴らしい、と声が来る。


『私に蹴散らされる者は皆、正々堂々としてはいなかった。ある者は、剣と偽り仕込みの銃を使い、ある者は決闘前に私を闇討ちすることもあった。しかし、そのいずれも私に敗北は与えられなかった。つまりこういうことを言いたいのだ。”悪に栄えなし”とな! その答えを、君達は持っている。見事と言わせてもらおう。実に、エクセレンット!』


 ”エーデルグレイス”が、親指を立てて称賛する。


『おい、誰だよ。闇討ちなんて言い出した奴。とんだ悪党だな』

『ははは。だから彼女できねぇんだ』

『最初に撃とうって言ったのお前だろうが! こっちは、”考え込むランケア殿可愛い”ってことだけ考えてたぞ!』 


 ああなんて駄目な人たちだろう、とランケアは内心で、諦めの息をついた。

 しかし、次の瞬間には、


「行きます…!」


 表情を鋭く、武器を構えなおす。

 それに応じて、槍撃隊の全てが武装を展開する。


『――”東”で最も勇猛なる、美しき戦士達よ…。その力を持って、止めるか否かの答えを示すがいい。このリッター=アドルフ、および”地の稲妻(ソル・ライフェン)”は、全力を持って、応じよう…!』

「挑みます…!」

『良き戦いを…!』


 その声を皮切りに、両隊長が駆ける。

 荒野の地に、両陣営の最たる白兵戦士達は激突した。

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