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7-4:”稲妻”VS”槍撃”【Ⅱ】

 降下する”エーデルグレイス”が右腰にマウントされていたサーベル型のブレードを抜刀する。

 見る先には、こちらに向く銃口があり、それらが一斉に光を放つ。


「かくも美しき、アドルフの血筋…」


 リッターは、落下に等しい降下の勢いに乗り、1人呟きを放つ。


「それに新たに融けあうは、グレイスの純潔…!」


 サーベルを、後方へと反らし、


「今、我らは戦場の華とならん!」


 槍のごとく投擲した。

 敵は回避し、剣は地に突き刺さる、が、


「華ひらけぇっ!」


 突き立ちの勢いのままに、地を穿った力は、周囲に巨大なひび割れを引き起こした。

 


「なに!?」


 迎撃体勢をとっていた”矛迅”の乗り手が、目を見開く。

 ただの剣の投擲と思っていた以上の状況を作り出された。

 理由は、一瞬で理解できる。 


 ……断層の亀裂を狙ったのか…!


 大地を崩落させる、見えない”ひび”。

 それは本来、見ようとして見れるものではない。

 しかし、


 ……それ以外にない…!


 空から降ってきた存在は、それをやってのけた。

 周囲の隊員が乗る”機羅童子”も残らず転倒している。

 そこに、稲妻のごとき衝撃が奔った。

 全ての機体が直立に戻っていく中、再び対衝撃体勢をとる。

 土煙が舞い、それはすぐに吹いた横殴りの突風によって吹き飛び、彼方へと流れていく。

 そして、見た。


「――戦場への歓迎、まことに喜ばしい限りだ。隊列の整った、華麗なる迎撃。そなたらも美しき戦士であると認めよう…」


 ただ1機の戦機が、地に入ったひび割れの中央に直立し、腰に手をあてて言葉を放っていた。

 繊細な構造と金色の装飾を施されながらも、どこか強靭な存在感を放つ、白銀の機体。

 荒れ果てた地に降り立つ、銀の彫像ともいえる芸術性を持ったそれは、戦場にあるにはもったいないともいえる神々しさを感じさせた。


「見とれているな。それも当然。我が名はリッター=アドルフ。駆る機体の名は、伴侶の写し身たる”エーデルグレイス”」


 ”矛迅”と”機羅童子”が直立し、銃撃の構えをとる。

 たった1機の戦機は、包囲のど真ん中に立っている。格好の的だ。

 だが、


「お見せしよう。美しき”愛”の力っ!」


 銀の彫像が、一瞬身を低くし、戦場に銀の残像を奔らせた。

 

「撃てぇっ!」


 隊長機の指示が飛び、全機の銃口が光る。

 


「――無事着地したのであるな」

「は。現在、敵の部隊と接触、単機で戦闘に突入しています」

「後続の隊員は?」

「あと1分後に、着陸予定」


 うむ、とウィズダムは頷き、かつての戦いを思い出す。


「前”戦役”でリッターと相対したのは、”東”で最も白兵に秀でた当主であったな」

「”東国武神”ではないのですか?」

「そう”東”の最大戦力は確かに”東国武神”。だが、その影に隠れたもう1人の”無双”を誇る者がいたのだ」

「それは…」

「南武・フォルサ。当時、”東”における最強の白兵戦士。彼女の単機突撃を止めるためだけに、特殊部隊も編成されたこともあったが、結局それを止められたのはリッターの率いる”地の稲妻(ソル・ライフェン)”のみであった」


 槍を持った怪物。

 ウィズダムは、そう認識している。


「リッター殿って、かなり凄い人なんですね」

「ま、そうなるであるな」


 だが、南武・フォルサは前戦役で失われた。


「報告! 敵本陣より新たな部隊の出撃を確認!」


 南武槍撃隊だ。

 

「見せてみよ。かの怪物を継ぐに満たぬ者に、”地の稲妻(ソル・ライフェン)”は止められぬぞ…!」



 ……なんだ、この機体は…!


 ”矛迅”で銃撃をかける部隊長は、白銀の機体の挙動に目を見開く。

 残像を残す、ということが見間違いではない。

 こちらの銃撃に対して、相手はただ駆け抜けているだけ。

 

 ……銃口の補正が、落ち着かない速度だと…!?


 全ての機体がたった1機をロックし、銃撃を浴びせている。

 ロックしている表示が正常を示しているのに、そこに相手がおさまっていない。

 

『速いぞ…!』


 隊長が声を飛ばす間に、味方機が1機両腕を落とされている。

 近くの隊員が追いすがろうとするが、


『な…!?』


 ”エーデルグレイス”は、瞬時に懐に入り、身をかがめ、バネのごとく跳ね、銃身を斬り飛ばす。

 そのまま、”機羅童子”の背を越えるほどの跳躍を見せた。


『飛び越える…だと!?』


 常識離れした跳躍力で、背後をとり着地に合わせて剣が振るわれる。

 脚部を一閃され、2機目が沈む。

 通常の構造ではまず実現できない。

 しかし、それだけではない。

 パイロットの能力も、自分達の手に負えるレベルではない。

 どうする、と隊長は思考する。

 その時、


『――聞こえますか!』


 通信が来た。

 司令部のオペレーターだ。 


『そちらの隊で交戦しているのは”地の稲妻(ソル・ライフェン)”の隊長です! 退却してください!』


 そういうことか、と隊長は納得を得る。

 かつて、南武家の当主と渡り合ったとされる”西”の剣将。

 

 ……不利はいたし方なし、か!


 考える間に、銃を捨て抜刀する。


『そちらにランケア様の率いる”槍撃隊”が向かっています! 早く撤退を…』

「できん」


 隊長は、3機目の味方に襲い掛かる”エーデルグレイス”へと斬りかかる。

 

「ランケア殿だけに、この強大な将を押し付けるつもりはない…!」


 ”エーデルグレイス”が3機目の腕を斬り飛ばす。

 銃を落とし、もう片方の腕を落とそうとしている。

 完全に背後を取っている。

 襲われている味方機も、隊長の動きに気づきそれを悟らせまいと、銀の機体を引きつけている。

 数秒しかない。

 だが、


 ……それで充分…!


 ”矛迅”が近接間合いに入る。

 横薙ぎに刀を一閃する。

 

『――銃撃の音が減ったか』


 声がした。


「っ!?」


 隊長が、己の刀を止められたことに気づく。

 相手は振り向いていない。

 剣を背後に回すほどの時間も隙もなかった。

 その状況下で刀を止めたのは、


「鞘…か!」


 サーベルを抜き放った後の空となった鞘。

 それを跳ね上げ、防御に使用している。


『一度、この剣が抜かれた以上、戦いの終わりまで納められることはない。ゆえに…!』


 鞘が、切り離される。

 その際の慣性による回転が、”矛迅”の手から刀を払い落とし、バランスを崩される。


『最初に私に立ち向かった諸君らに敬意を評し、我が半身の一部をこの場にくれてやる! そして…!』


 ”エーデルグレイス”が正面の3機目の脚部を薙いだ勢いで旋回し、宙にある刀を左手に掴む。


『認めよう! 美しき戦利品であると!』


 剣と刀。

 2本を持って放たれる”エーデルグレイス”の2本の刺突。

 隊長は”矛迅”の装備する2本目の抜刀にかかる。

 しかし、速度でかなうはずもない。

 

『遅いっ!』


 時間差で来た刺突に対し、隊長は受ける。

 一撃目のサーベルに、右腕を捉えられ、斬り飛ばされる。

 だが、二撃目の刀に対して、


「く、おおおおっ!」


 左腕の肘で刀身の横腹を打ち、強引に軌道を反らした。


『む…!』


 懐に入る。

 振りぬいた後、がら空きとなった胴体にこちらからの一閃を奔らせる。

 その捨て身の一撃は、

 

『見事…!』


 回避されていた。

 ”エーデルグレイス”は、機体を横に反らし、刀を手放す。

 その手を、”矛迅”の肩に置き、宙に浮いた。

 まるで人間がするそれのように、機体での宙返りを易々と行ってみせる。

 

 ……ランケア殿、この者は別格すぎる…!


 思考の奔り。

 その直後、”矛迅”は背後から脚部を斬り飛ばされる。

挿絵(By みてみん)


機体名:エーデルグレイス・B


武装:コーティングサーベル×2


特記:近接戦闘特機

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