7-4:”稲妻”VS”槍撃” ●
「――敵、増援を投入。こちらの第2陣営と衝突しました」
ここまでは、ウィズダムの予測範囲内で進んでいる。
消耗の度合いは、こちらが優勢なのも含めて。
だが、荒野の中央で衝突している両陣営のマーカーを見て、不可解を感じる。
……敵陣営に飲み込まれた機体のマーカーが消滅していないとな…?
マーカーがついているということは、搭乗者が生存しているということ。
”西”陣営が潰した”東”のマーカーは一点たりとも、残っていないというのに。
……詰めを誤っている、と見るには数が多いであるな…。
下手に敵軍を生かした状態でいれば、戦場の状況を知らせることになるというのに。
……東雲・スズ…。東雲・イスズの1人娘であったな。戦術眼はどれほどのものかとも思っていたが…。
そこまでを見越すほどに余裕がないのか、とウィズダムが思考していると、
「――報告! 敵戦線が再度、前進。戦線が押し返されつつあります」
「む。”槍撃隊”が投入されたであるか…」
”東”でもトップクラスの地上部隊”南武槍撃隊”の戦力が投入されたとなれば、さらに狙いは達成されたと感じた。
だが、
「いえ。依然として、”南武槍撃隊”の姿は見えず。敵は、”機羅童子”と少数の”新型”で小隊を組んで、戦線を押し返してきているとのこと…!」
「”新型”であるか」
情報はすぐに送られてくる。
映像には、”機羅童子”と異なり、鋭角なシルエットを持つ”新型”が、長刀を振るっている。
……近接仕様の機体であるか。
ウィズダムは即座に分析する。
機体の形状と動き、僅かな被弾痕などから、状況の再分析まで繋げる。
……戦況を変えるほどの性能を有しているようには見えぬ。機体性能は良いようだが、押し返されている理由は、この機体のためではあるまい。
数の優勢でもない。
ならば押し返されている理由は、1つ。
「……”東”の民の結束の侮りは、やはり怠ってはならぬか…」
東雲・イスズの消失で、崩れたと思っていた”東”の団結力。
しかし、それが失われてはいない。
「いや、たてなおした、と見ても良いのであろうか…」
東雲・スズ。
彼女は、まだ20にも満たない少女であるはずだ。
その幼さを持って、これほどのカリスマ性を有していることに末恐ろしさを覚える。
同時に、
……強き力を理解している。よき若人である。
内心で称賛を送る。
”東”の若き力は失われてはいない。
ならば、余力を残そうと加減をすれば、こちらは手痛い返しを食らうことになると確信する。
「――”地の稲妻”の出撃準備は整っているか確認せよ」
指示を飛ばし、通信席の兵が応じると、応答はぐに来る。
『――こちらリッター=アドルフ。先鋒からの兵のさばき、美しく思います。”知将軍”殿。実に、ん~~~~、エクセレンット!』
高揚している変態からの称賛の声が聞こえた。
「…出撃は可能であるな。定刻に遅れるとは、あまり良き行為ではない」
『私としたことが、大変な失礼を…。この汚点、戦場にて華々しい戦果を挙げ、美しく、華麗に返上してごらんにいれます! なにせ、このときのために我が半身は新たな姿となりました。映像をお届けできないのが、悔しいぃぃ!』
「では、戦場でその美しき姿、見せてもらうのである」
『なんと! 了解! ”知将軍”殿のお言葉は、”王”の言葉と同義! なら、今の私と”エーデル”は、”王”の称賛をいただいたと解釈しても!?』
「さっさと行くのである」
ウィズダムが、アイコンタクトでハッチ開放を指示する。
”地の稲妻”は、前線にいる一隻の航空艦を砲艦に偽装してまぎれさせている。
ちなみに、投下方法は、下部のハッチをひらき、パラシュート装備でハンガーのロックを解除する方式なのだが、
『いいのです。真に美しき花とは草葉の陰にこそあり。つまり、目立たぬことこそこれからの我が美徳とすべき、はら~~~っ!?』
望遠で確認したのは、パラシュート未装着の”エーデルグレイス”が、開いたハッチから機体1つで落ちていく光景だった。
「って、パラシュートが装備されてないであるぞ!?」
「なんか、さっきまで機体でポーズ決めてたそうです。他の隊員機は装備万全のようですが」
遅れて、というより正式な投下が行われる。
隊員機が、合計10機、次々と投下されていく。
「ええい! この際しょうがない、リッター機はどうなったであるか!?」
「現在降下中。機体各部のブースターをふかして姿勢調整をしているようです。あと――」
「なんであるか」
「敵が気づきました。滞空射撃を開始」
この際、撃ち落とされた方がいいんじゃないかと一瞬思ったが、あれが”西”の切り札の一角を担っているのだと思い出して、さらに頭を抱えた。
「仕方ない。支援を送って、着地地点の確保をせよ。着地は自力でやれ、と…」
『その心配には及びません! このリッター=アドルフの華麗なる戦場は、すでに始まっているのです! とくとご覧あれ!』
見る先、リッター機は姿勢を地に向けて頭部から効果していく。
その体勢は、地表の獲物を狙う猛禽の姿を連想させた。
そして、”地の稲妻”の筆頭は、上空から稲妻のごとく敵陣営の一角へと降りかかる。
●
「スズ様! 緊急事態です!」
「なに…!?」
突如の、悲鳴にも似たその声を聞く。
「空から、高笑いする変態が降ってきたとの情報が…!」
「誰よ! そんなデマ流したの! ふざけてるんじゃ…」
ない、と言いかけて、
「降ってきた位置は…!?」
「左翼です。現在、戦線を立て直してる中に、――異常な突破力の一機あり!」
「その変態は”地の稲妻”の隊長よ! く、こんなふざけた情報で、対応を遅らせてくるなんて…!」
てっきり”西”の本陣から出てくるものだと思っていたが、それは、思い込みだった。
切り札の戦力を奇襲用に前線に隠していたのだと気づく。
そして、驚くべきは、その降下速度だった。
「しかも、機体降下にパラシュートなし…!?。”地の稲妻”の隊長機の損傷についての情報は?」
「ありません。武装のブレードを1本損失しているのみのようです」
……戦線への侵攻速度優先であえて、パラシュートをつけなかったようね。いろいろへんな噂があっても、”地の稲妻”の隊長してるだけのことはあるわ。
降下地点周囲にいた、味方機が円状に一掃されている。
そこに、新たに10機のマーカーが表示される。
「ランケア! まかせる!」
『わかりました! 南武槍撃隊、出撃します!』
「武運を託すわ…!」