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7-3:新しき”長”VS古き”知将” ●

      挿絵(By みてみん)

 ”西”の砲撃に対して、フォティアが対応に動く。


「砲撃の家系をなめるんじゃないよ!」


 彼女の駆る”バクレッカ”はすでに前進している。

 前線の歩兵達の上空にあり、正面から迫る砲撃に対して、艦の上部に5点の光が灯る。

 それらが線を結び、五角形の光の面を作り出した。

 直後、砲撃が来る。

 絶大な破壊力を持つプラズマ砲弾は、


「弾いた…!」


 その力を見せつけることなく弾かれ、はるか後方へと逸れて飛んでいく。

 ”電磁防盾プラズマシールド”。

 対プラズマ兵装用の、防御システム。

 対実体弾性能はそれほどでもないが、プラズマ砲弾の場合は物体との接触時に、爆発が衝撃が発生する。

 その性質上、プラズマの障壁で相殺して弾くことで、破壊力そのものを無効化し、被害を抑えることができる。


「前線の”機羅童子”! 頭上はアタシが塞いでやるよ! 前だけ見てな! 対応砲撃開始!」


 横隊を組んだ”バクレッカ”が、シールドを展開しつつ、敵艦隊左右に、牽制砲撃をかける。

 敵を正面に釘付けにし、地表の部隊に対応しやすくするためだ。


「チビ姫。敵の初撃は避わしてみせた。こっちは対応に集中する。次は地表部隊との衝突がある。後の指揮をまかすよ」

『わかった。ありがとう』



 スズは、瞬きすら忘れ、迫ってくる赤いマーカーの線を見る。

 青い線である地上部隊同士の接敵まで、残り10秒。

 猛然と駆けてくる”西”の前線部隊は、大型の対装甲ブレードを槍襖のように構えている。

 対して、”東”はその場に踏みとどまり防盾を構えている。


 ……残り、8、7秒…!。


「防盾、打ち付け開始!」


 スズの声が飛ぶ。

 同時に前衛部隊の盾が変化を見せた。

 下部が変形し、杭が出現。

 盾を持つ”機羅童子”達がそれを一斉に地に下ろす。 


「防衛体勢、”大地樹”、展開…!」


 ”機羅童子”が、盾を支えるように身をかがめ、そして―――衝突が起こった。

 


 ウィズダムは、艦のブリッジで報告を聞いた。

 しかし、それよりも前に戦域を表示したウインドウのマーカーの全てが止まったのを見る。


 ……初撃への対応、見事である。


 ウィズダムは、目を細め相手を称賛した。

 衝突の直後、最大望遠で”東”の部隊が盾を地に打ち付けるのが見えた。

 

 ……機体の出力ではなく、大地そのものを味方にした、か。


 単機の基本性能では”西”の”アルフェンバイン”が勝る。

 対応するには、”東”側はただ同等数を並べるだけではだめだ。

 だからこそ、あの防御手段を用いたのだろう。

 突破力重視の先鋒に対して、防御重視の敵防衛線の初手は、”東”に軍配が上がった。


「――先鋒部隊、敵前線と交戦に入りました…!」

「押されているのはこちらであるな」

「は、…はい。お分かりになるのですか?」

「先鋒の兵装は、大型ブレードであった。盾を突き破れなかった以上、細かな取り回しがきかぬであろう」


 ウィズダムの言うとおり、突撃の勢いを殺された先鋒は、盾の後ろから出現した”機羅童子”の部隊に襲い掛かられている。

 敵の装備は、”刀”と”ライフル”。取り回しやすい白兵戦用の武装だ。

 対してこちらの大型ブレードは、障害物などを排除するには有効だが、直接戦闘をするには重過ぎるのだ。

 中には、不利と見るや即座にパージして、敵の武装をカウンターで奪ったり、そのまま応戦している機体も見えるが、開幕が”西”の不利で始まったのは言うまでもない。


「次の戦線を投入する。増援投入までの時間を計算せよ」

「125秒後です」

「よろしい。先鋒に通信。100秒耐えた後、一斉に後方に下がれ」

了解ヒア!」

「先鋒の部隊は直列隊形に移行せよ」


 

 ……初手は防いだ…


 防御には成功している。

 盾役として配置していた”機羅童子”は、一部が衝撃で弾き飛ばされたりもしているが、最小限の配置で次の攻撃に繋げている。

 大型ブレードを装備した先鋒に対して、標準装備の”機羅童子”部隊は優位に動けている。

 それでも、対応してくる機体が多くいる。


 ……先鋒にあてがわれているのは、錬度の高い兵…!


 通常、生存確率が最も低くなる先鋒の部隊にあえて、熟練の兵を配置することで不測の事態へ対応し、逆に生存性を引き上げてきている。

 熟練者というのは、応用力もさることながら、引き際の見極めもまた柔軟に行える。

 現に、破損している”アルフェンバイン”は、下がりながら周囲の味方機と連携をとり、うかつに踏み込んだ”機羅童子”を的確に落としている。

 ”東”も”西”も、互いに被害を最小限にしている。

 しかし、 


 ……有利な状況をつくれたのに、攻めきれないなんて…


 彼我戦力差は、”東”が4000近くに対して、”西”は2000近く。

 実質は2体1だが、単純な数で推し量れるはずもない。


「スズ様! ”西”の第2陣営が約100秒後に到達します」


 増援…!、とスズは目を見開く。

 予測はしていたが、しかし、


 ……対応が早い…!


 数10分先と思っていたことが、1分後に起きようとしている。

 ”知将軍”は、先鋒が防がれる事態を見越した上で、対応している。


「”機羅童子”第2陣営! 第3陣営の投入と同時に、後退し、援護にまわれ!」


 消耗の度合いを鑑みるに、”東”が押されている。

 五分に見えても、実際には全体の防衛線が徐々に下げられてきている。


 ……槍撃隊が参入すれば、戦力は増強できる。でも…


 ランケアを含めた南武槍撃隊は、地上戦力における切り札だ。

 ”地の稲妻”が動きを見せない内に、余力を消耗させることは可能な限り避けたい。

 しかし、このまま戦線を維持するには、相当な負担がかかる。

 この戦いは、”西”が潰しきるか、”東”が迎撃しきるかが勝敗の分かれ目なのだ。

 秒単位で戦場を操る”知将軍”の予測を上回る展開が必要だ。

 限られた戦力の選択を迫られるスズに報告が飛ぶ。


「――右翼の被害増大…! ”西”増援に対しての防御が間に合いません!」

「左翼も同じく! ”バクレッカ”の部隊は、”電磁防盾プラズマシールド”の展開維持中につき、支援砲撃へのエネルギーが充分に確保できていません!」


 読まれている。

 支援砲撃が出来ない状況下であると見破られて、波状攻撃を仕掛けられている。

 おそらく、槍撃隊を引きずり出し、消耗させることも狙いなのだろう。


 ……”武双”の砲断刀の出力なら、盛り返せる。でも、それじゃ…


 広範囲衝撃破壊は、もとより使う気はない。

 加減の利かない破壊力は、戦況を変えられても、相手の闘争心に火をつける。


 ……だめよ。この後のことを考えないと…!


 槍撃隊の投入をスズは迷う。 

 すると、


『――姫様…いえ、”長”よ。聞いていただきたい』


 声が聞こえた。

 第3陣の兵長のものだ。


『戦況が優勢でないことは、承知です。私を含め、皆も気づいている』


 しかし、と別の声が続く。


『我らを信じていただきたい。あなた程ではないが、我らもまた、あなたの力になろうと日々の研鑽を重ねてきました』

『かつての戦いを知らぬといえど、今、この戦いを制したいと思う心は皆同じです』

『私達は、”西”に対して恨みを持って応じるべきではない、とそう思っています』

『あなたは堂々としてよいのです。あなたは、イスズ殿ではなく、東雲・スズとして我々に指示を』

『勝利のための無茶なら、望むところ!』

『あなたの思うままに、成すべきことを。迷われず!』


 次々と声が届く。

 スズは、思う。


 ……みんな、私を…”長”だと認めてくれているんだ…。


 応えよう、と。

 

「…大3陣営に伝達する。”西”の狙いは、”南武槍撃隊”の戦線投入による消耗にある。だが、”地の稲妻”に対する迎撃戦力として、彼らの力は温存されなければならない。ゆえに、”長”として命じる。ただ一言、無茶を言う…”耐えて見せろ”!」

『――御命のままにっ!』


 全ての声が重なり、返答すると同時に第3陣営が飛び出していく。


 ……決めたのよ。みんなを信じて、勝つって!


 見えるのは、”西”の第2陣営。

 通常の白兵戦闘兵装を備えた、本隊だ。  

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