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2-4:花園の”待ち人”【Ⅱ】

 陥没都市”シア”には、3階層あり、”ミステル”のエントランスのある場所がもっとも地表に近い”1階層”になる。

 主に観光目的の店舗が並んでおり、この街にやってくる人々はこの場所を目的に訪れる。

 ”日傘をさした女性”のいる場所は、”2階層”。

 ここは主にこの街の住民が住まう場所だ。

 日の光は届きにくいが、物資の流通が多いことから、暮らしには困ることがない。この場所にある特殊な鉱物のおかげか、一年を通して気温が変化しにくいことも魅力の1つだ。 

 大国から、この場の土地を買い、移り住む者もいるらしい。それぐらい快適な場所であるのだろう。

 


 エクスとウィルは、”2階層”目に歩みを進めていた。

 ”1階層”目とは打って変わり、周辺には岩肌が露出しているところが多く見られる。しかし、独特の照明設備のおかげか、それほど閉塞感を感じないから不思議だ。

 道中エクスは、ふと


「1つ聞きたいことがある」


 ウィルに疑問を投げかけていた。


「なんスか?」

「お前が、なぜ率先して人を助けようとするのかが気になっている」


 それは短い付き合いの中で、いつも感じていたことだ。

 普通の人間というのは、他者にそこまで献身的にはなれない。誰でも自分の都合が優先。それなのに、そうではないウィルの行動には正直、納得がいかない。

 とはいっても、それは自分の価値観に過ぎないのだが。


「・・・実を言うと、自分でもよく分からないッス」


 ウィルは頭の後ろに両手をやり、上を見上げる。日差しがわずかに漏れる程度の岩の天井を、どこか遠い目で見つめていた。


「オレ、エンティさんに拾われて、”カナリス”に入ったけど、その前のことあまり覚えてないッス。でも、覚えてる言葉もあって―――」

 少し間をあけ、


「―――”後悔しない生き方をしろ”って誰かが。それだけはハッキリ覚えてる」


 ・・・後悔しない生き方、か。


 誰でも目指そうとして、しかし現実の壁に阻まれる生き方。

 社会の中に溶け込むにつれ、その環境に適応して、自分を曲げ、順応していくのが人間の通常だ。

 そのためには自分の主張を違えることになっても、いずれ慣れてしまう。

 そして”後悔”を重ねていく。

 自然なことだ。周囲の目を気にして、人は変わる生き物なのだから。

 しかし、ウィルは違うようだ。自分の中で決めたことを曲げない。他者の目があろうとなかろうと関係なく自分のやりたいと思ったことを成し遂げようとする。軽そうに見えて、昔の教え守り続ける、頑固者だ。 


「まあ、気にはしてないッス。そのうちヒョッコリ思い出すかもしれないし、思い出せなくても困らないだろうし。なるようになれ!って感じッスかね」


 世間では、そういう輩をこう言って表す。


「・・・やはり”バカ”か」

「え?なんでそうなるんスか?」


 悩みは人によるのだろうが、このバカがそう思ってるなら、


「褒め言葉だ。受け取っておけ」


 尊敬できる類の”バカ”だ。

 少なくとも自分には、ないものをこいつは持ってる。それは称賛するべきだろう。

 そう言ってるうちに、ふと先にあるそれに気づく。


「ん?」


 ウィルが、先に見えるそれに目をやる。

 エクスも気づいていた。


「あれって・・・なんスか?あそこだけ光ってるッスよ?」

「・・・見れば分かる」


 そう光だ。

 その場所から発せられる光。

 照明とはまた違う、繊細で柔らかな、抱擁の光だった。


「・・・おそらくあそこだな」



 そこは一面の花園であった。


「・・・すげぇ、花が光ってるッスよ・・・」


 ウィルが、感嘆の声を漏らした。

 そう、光を発していたのは、眼前に広がる花達だった。

 淡い水色の光が神秘的な雰囲気を作り出し、あたかも幻想の世界に迷い込んだかのような錯覚を覚えさせる。

 植物に対してさほど、興味のないエクスだったが、


「・・・確かにな」


 これには、情緒を動かされる。


「どうやって光ってるんスかね?」


 見れば見るほど取り込まれていくようであった。



「―――その花の名前は”イルネア”」



 声が聞こえた方を、2人は見た。

 その女性は、花園の中を歩き、こちらにやってくる。


「―――この場所にしか咲かない。世界で唯一の花。互いに寄り添い、光りあうことで、日の届かないこの場所でも栄えることができる」

  

 少し、癖の強いショートカットボブの艶やかな髪。目つきは少し、切れ目。

 シンプルな装飾の施された、スカーフのついたシャツと、ロングスカートで身を包んでいる。

 そして、”それ”は地下では不要であろうというのに、その女性が持つと、それすら彼女を引き立たせる一部であるかのように違和感がほとんど感じられない。


「いらっしゃい。私の花園へ。お客様」


 ”日傘をさした女性”は微笑んで、2人を迎えた。

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