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6-12:”共”にある者達

「なんというか、壮絶じゃったな…」


 アンジェは、そう言いながら空を見上げた。

 

「そうですね。この国にきてよかったと、そう感じています」


 隣にあるのはリファルドだ。

 会議が終了となる直前、西雀・シェブングと共にウィルが会議場に飛び込んできたのが、妙に印象的だった。

 

 ”俺を、この作戦に参加させてください!”


 その言葉に対して、ヴァールハイトは静かに頷いていた。

 その時、アンジェはリファルドの姿を重ねた気がした。 

 隣に立つリファルドを見る。

 遠くを見ていたその視線は、ふとアンジェに降りてくる。


「どうしました?」


 このとき、自分はどのような顔をしていただろうか。


「……リファルド。戦うことは怖くないか?」


 この問いは今さらだ。

 しかし、数々の戦場立ち、飛び回ってきたリファルドが何を思い、戦ってきたのか、自分は知らなかったから。


「怖いですよ。そう思わなかったことはないんです」

「そなたでも怖いことがあるのか」

「特に一番怖かったのは、怒ったアンジェですね。あれほど身の危険を感じたことはない」

「む…。あれはお前が悪い。半裸の女に婚姻申し込まれて手を出さんとは失礼な」

「じゃあ、今後は半裸の女性には手を出していいのですね?」

「ワ、ワシ以外はダメじゃ」

「はは。そうですか。では、その通りに」


 ふと強めの風が来る。

 アンジェの髪が吹かれ、暴れそうになり、


「あ…」「おっと」


 リファルドが、壁になるように前に立つ。 

 自然と向かい合う形になり、その表情が近く、アンジェはどこか気恥ずかしかった。

 すると、


「アンジェ…1つ、約束してくれますか?」


 リファルドが、少し神妙な表情で尋ねてくる。


「なんじゃ? 約束どおり今日はブラつけとるぞ」

「いや、そうではなく…、今後のことです」

「今後?」

「もし、私があなたの元に帰れないことになっても―――」


 その言葉の続きを言おうとして、


「……そういうことは、言うな。怒るぞ」


 アンジェが遮った。


「可能性の話です」

「それでもじゃ」

「すみません。しかし、あなたは”王”だ。民を導く者にとって、個人の感情に囚われてはならないこともあるでしょう。私は、あなたの覚悟を鈍らせる存在になりたくはない」


 リファルドは、これからもアンジェのために戦い続ける。

 その中で、自らが命を落とすかもしれないというリスクを常に考えている。

 もしそうなったら、アンジェに迷いを与えてしまうのではないかと、そう考えていた。

 

「では、約束する。お前が死のうがなんだろうが、ワシはワシのままに生きる。それでいいのじゃな?」

「ええ…」

「なら、こっちからも約束をつける」

「なんです?」


 言うと、リファルドの胸にアンジェは手を触れる。

 そのまま、身を寄せ、リファルドの胸の内に額を押し付けるように。


「帰って来てくれ。命ある限り、必ずワシの元に…。必ず…」


 互いの温かさを知った時から、約束したこと。

 ずっと互いが望んでいたこと。

 それが果たされていくことは、難しいかもしれない。

 それでも、


「約束します」

「うむ。いろいろ済んだら帰って結婚式せねばならんのじゃからな。妻だけの結婚式とかむなしくてテンションがた落ちじゃぞ」

「そうですね。帰りましょう。私達の国へ」


 ”西”の”王”と”騎士”

 1つの壁と越えた2人は、未来を創ると誓う。

 手を握りあう。

 指の間に互いの指を通し、強く握りあい、意思を込める。

 決して離れまいと望んで。

 


 スズは、アリアと共に墓地を訪れていた。

 ”西”との衝突は、3日後に迫っていた。

 対応に追われる中で訪れた、戦いの前の最期の墓参り

 イスズの墓の前に立ち、身をかがめ、手を合わせる。


「父上…。私は、戦います。今度は、勝つためじゃない。すれ違いで起こった過ちを正すために…。だから、どうか見守ってください…」


 父の願い。

 それを果たすことが自分にできるだろうかと、迷った事は多くあった。

 だが、


「―――あれ、スズさん。いたんですか?」


 声が聞こえた。

 振り返るとランケアが、墓地参りの道具を持ってこちらに歩いてきていた。

 しかし、彼だけではない。


「チビ姫、やっぱり来てたのかい」

「この坂の傾斜、ベルトコンベアーにしたいですね」

「この前無断で家の縁側をベルトコンベアーにしやがったばかりだろうがぃ」


 フォティア、クレア、シェブングも一緒だった。


「どうしたのよ。みんな揃って」

「願掛けだよ。先代の”長”へのお礼参りも含めてね」

「―――私もいるぞ」


 また新たな声。

 ゾンブルだ。

 

「わ。墓の後ろから怪しい黒装束が!」

「怪しいとは心外だ。これは、央間家の由緒正しき正装だニン」

「また変な語尾つけてる…」


 スズは、そんな光景にフッと微笑み、墓所を見渡す。

 ここは、多くの人の意思が眠る場所だ。

 天寿を全うした者。

 志半ばに倒れた者。

 または、それ以外の者もいるだろう。

 それだけの命の繋がりを経て、自分達はここにいる。

 だから、決める。

 全てを果たそう、と。


 ……父上…、私には、たくさんの家族がいます。


 支えてくれた母、アリア。

 共に武を学んだランケア。

 マイペースで、どこか憎めないクレア。

 尊敬できる賢人であるシェブング。

 姉のようなフォティア。

 影で走るゾンブル。たまに殺したくなるが。

 そして、最期に浮かぶのは兄であり、師でもある男。

 1人で多くを抱え、皆を守ってくれていた大切な人がいる。

 

「スズちゃん。今、ムソウのこと考えてるでしょ」


 アリアの言葉に、スズは頷く。

 もう、過度に否定することはない。

 ムソウはかけがえのない存在だと、今なら自信を持って言えるのだから。



 皆でひとしきりお祈りをした後、アリアだけがその場に残っていた。

 もう少しこの場の清掃をしてくる、と言って。

 そして、皆の影が見えなくなったところで、


「―――ムソウ。出ていらっしゃいな」


 どこにでもなく声を投げかける。

 

「…なんだよ、気づいてたのかよ」


 言われ、ムソウが木の上から飛び降りてくる。

 ため息をつくようなその様子に、アリアは微笑み、


「みんなと一緒に墓参りしたって罰は当たりませんよ?」

「今回までだよ」


 言うと、ムソウは腰の”炎月下”に手をかける。

 ボロボロの包帯に包まれたそれを腰から鞘に収まったままに抜き、東雲家の墓に向き合う。


「…”東国武神”の称号を、今こそ返したい。もう、俺様が名乗るにはふさわしくねぇからよ」

「どうしてそう思うの?」


 アリアの問いにムソウは、苦笑いを浮かべて答える。


「かつて、イスズの奴に言われたことだ。”この東を守る者。その最たる強者として、これを名乗れ”ってよ。そして、俺様より、もう強い奴がいる」


 泣き虫で、自分を頼ってばかりの子供だった。

 だが、もう違う。

 だから、


「スズこそ、次代の”東国武神”だ。俺様は喜んで引退させてもらうぜ」

「あの子には、まだ多くの経験が必要です」

「それは時間がなんとかしてくれんだろ。あいつは、もう自分で成長していける」

「あの人との約束ですか?」

「そうだよ。俺様がイスズから託されたもう1つの約束だ」


 ”娘の成長を見届けてやってほしい”


 ”長”ではなく、1人の”父”としてのイスズの言葉。

 我が子への、最期の思いが込められた約束だった。

 

「…行くのですね」

「ああ」


 ”狂神者”の思惑をたたき潰す。

 そのために、アンジェとリファルドに同行することにした。

 戦場に立てる力は、自分に残っていない。

 だからできることをする。

 無事に”王”を”西”に帰すことで、”朽ち果ての戦役”を、”西”と”東”の戦いを終わらせる。 

 親友との約束を果たした今こそ、ムソウは動く。

 己がしたいと思うことを。


 ……今度は、こっちの因縁に決着ケリつけさせてもらうぜ…!


 隻腕隻眼の侍は、東雲の宝刀を前に掲げ、そう誓う。 

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