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6-11:命運の話し手達【Ⅷ】

「ワシとスズが切り札…か」

「そう。君達の力は、永きに渡る”西”と”東”の戦いに終止符を打つきっかけとなるだろう」


 会議は終盤に入っていた。

 ”西”と”東”の衝突は時間の問題だ。

 ”東”の防衛がどこまで堪えられるかもだが、それ以上に、


「アンジェリヌス=シャーロット。”王”の存在は”西”にとって象徴だ。”狂神者”はその影響力を嫌っている。ここで知りえたことを持ち帰り、後に活かすことができれば”狂神者”の力を大きく削ぐことができるだろう」

「ワシの命が、後の”西”を作ることになるのじゃな…」

「その通りだ。そして、この”朽ち果ての戦役”の終結を、”王””長”の口から宣言しなければならない。全てのすれ違いに決着をつけることには、時間がかかるだろう。しかし、今はその始まりが必要だ」


 布陣の構成はすでに完了しつつある。

 東勢は、全当主で話し、持ち場と役割を決めていく。 



「―――”東”の陣営はこの通りに配置するわ」


 スズの声に従い、ウインドウが展開する。


 【旗艦】

 ”東雲”。高速強襲艦”カヤリグサ”。

 【主戦力】

 ”機羅童子”部隊。20の部隊長には、南武槍撃隊から1名ずつ配置。それらには、ロールアウトした”矛迅”を支給。

 【砲撃支援】

 ”北錠”。戦術級砲撃戦艦”バクレッカ”と、中型艦による混成航空艦隊。

 【中核戦力】

 ”南武”。守護戦機”槍塵”1機と先行生産”矛迅”10機で構成された南武槍撃隊。

 【戦術級戦力】

 ”東雲”。守護戦機”武双”。


 主力である”機羅童子”の部隊を各部に配置するのは基本として、


『武装として、強化防盾を配備。最前衛の機体には積層装甲を取り付けます。急造ですが、凌ぐにはうってつけで生存性も向上します』


 補助戦力として、”バクレッカ”が配置される。


「カバーできる範囲に難があるね。これだと…」

「旗艦”カヤリグサ”の防衛が薄いのでは?」


 皆が見る。

 布陣としては基本的な扇型の陣形。

 だが、中央の布陣が少ない。

 中央突破された場合のリスクが高めの布陣だ。


「―――そこを守るのはボクの役割です」


 ランケアが言い、スズが詳細を告げる。


「今回は攻め落とすのではなく防衛を主軸にしているわ。左右の壁を厚くしたのは、回り込まれるリスクを考慮したの。皆が臨機応変に動けて、そして―――」


 スズがウインドウに指を走らせ、ラインを作る。


「敵の狙いを”カヤリグサ”に集中させるの。いくら攻めに秀でていても、戦力が限られるのは”西”も同じよ。なら狙ってくるのは短期決戦。消耗の頃合いを見計らって投入される”地の稲妻(ソル・ライフェン)”と”Sコード小隊”をどういなすのかが鍵になるわ」


 ”地の稲妻(ソル・ライフェン)”に対して、ぶつかるのはランケアの役割だ。


「ランケア。お願いね」

「勝ちます…!」

「Sコード小隊はどうすんだよ」

「その前に戦いを終わらせる」

「どうやってだ?」


 スズとアンジェがは、互いに視線を交わし、頷きあう。


「”王”と”最速騎士”の帰還。それによって、”西”に停戦の号令をかけるの」

「軍の中にも、”狂神者”は隠れているだろうからの。帰る途中で襲われたらかなわん」

「戦力の消耗を前提にした帰還作戦ですか…」

「騙されてきてばっかじゃ癪だからね。こんどは”東”で総力をあげて、”狂神者”共を欺いてやろうじゃないかね」

「どれかが失敗すれば、それだけ被害は大きくなる。だけど成功すれば、多くを得ることができるはずよ」


 おそらく司令官は、数々の戦闘の指揮をとった”知将軍”ウィズダム=ケントニスだろう。

 情報の流れと指揮系統に時間差が生じやすい戦場を知略を用いて、秒単位で統括するその手腕はスズもよく知っている。

 歴戦の将軍相手に、新しき”長”として感じるプレッシャーは計り知れない。

 だが、


「私たちが本当に戦うべきは、理不尽な強制力そのもの。後の世に遺恨を残さず、この戦いをやり遂げないといけない。それが、私たちをこの場所に導いてくれた先代達の遺志に応えるということだから」



 ”西”と”東”の戦闘に関する話し合いが終了する。 


「―――では、最期に”中立地帯”は、古代兵器”インフェリアル”の起動阻止に動くこととする。戦力として、”シュテルンヒルト”と、新造艦である”ナスタチウム”を指定する」

「ナスタチウムって?」

「リヒル達の乗ってきた艦じゃな」


 視線がリヒルに向く。


「はい。あれは、ユズカさんが、後に必要になるとして造り上げた戦艦です。私達は彼女から託されたものがあります」

「”魔女”ユズカ氏から貸し与えられた戦力として、”両翼”を加えたい。西の”王”に異論はあるかね?」

「ない。各々が、必要と思ったことを成しにいくのじゃから」


 うむ、とヴァールハイトが頷き、ウインドウを表示する。

 古代兵器”インフェリアル”の起動阻止に動くメンバーが表示される。

 

 【戦艦戦力】

 ・”カナリス”。多目的輸送艦”シュテルンヒルト”。

 ・”両翼”。高速機動艦”ナスタチウム”。

 【機動戦力】

 ・戦闘特化型ライド・ギア(戦機):4機。搭乗者:両翼、他2名。

 

「少数精鋭ね」

「他2名って誰だい?」

「私のよく知る友人だ。腕は確かで信用もある」

「戦機は”東”から貸し出すほど余裕ないよ」

「無論、こちらで用意している。西雀・クレア氏に事前に依頼していた1機も含めてだ。今回の作戦のために急造ではあるが確実な機体もある」


 言われ、小型機械がヴァールハイトにカメラを向けた。


『あれの搭乗者というなら、他1名の中にウィル=シュタルクも含まれるのですか?』

「どういうことだね?」

『違うのですか? クレアは、あれの乗り手がウィル=シュタルクだと思っていたのですが』

「私が依頼したのは、”ブレイハイドという機体の修繕、改修”のみだ。それ以上は言っていない」



「……」


 ヴァールハイトの言葉をウィルは聞いていた。


 ……ブレイハイドが、ここにある…?


 一緒に戦ったあの機体が、この”東国”にある。

 それも、修繕されている。


 ……俺は、また戦えるんだ…!


 だが、次の言葉に目を丸くした。


『ウィル=シュタルク、という人物は”カナリス”の関係者ではない。よって、私の指示で今回の作戦に参加することはない』

「…ぇ…?」


 今の言葉に呆ける。

 ウィル=シュタルクを戦力としない。

 どうして、と言いそうになった。

 だが、ヴァールハイトは次の言葉を口にする。


『かつて、彼は私の組織に属する社員だった。だが、彼は自らの意思で道を決め、どこかを歩いている。今の彼は1人前の人間だ。その彼に対して、戦いを強制する権利など誰にもない』


 ……1人前の、人間…。


 その言葉に、胸を叩かれた気がした。

 

『戦う意思は自らの中に生み出されなければならない。強い心で、力を振るう者こそ、真に戦うに足る存在であるからだ』


 ウィルは聞く。

 そして、”カナリス”を出るときに聞いた、記録音声を思い返す。


 ”どこでもいい。生きていろ。そして、可能ならまた帰ってこい”


 自分で決めろ。

 それが、ヴァールハイトがウィルに伝えたかったことだ。

 ウィル=シュタルクは、もう庇護を必要とする弱い子供ではない。

 自らの足で歩いていける。

 自らの意思で選択できる。


 ……なら、…


 自らの手で、誰かを救うことすらできるはずだ。

 ヴァールハイトが望むことではなく、ウィル自身が自ら望むことのために動かなければならないのだ。


『じゃあ、その彼が戦いたい、と申し出たなら?』

『彼の意思を尊重する。それだけのことだ』

「…っ!」


 ウィルが、立ち上がり走り出す。

 目指すべきは、会議場。

 正面の門から通るのが最短だ。

 だが、


「―――おい! 止まれ!」


 門番がいる。

 真っ直ぐに突っ込んでいくウィルに対して、驚きながらも冷静に対応する。


「申し訳ないッス!」


 ウィルは突進をやめない。

 門番と真っ向から衝突する。

 そのバカ正直な突進は、用意に受けられてしまう。

 しかし、

 

「な、に…!?」


 門番の身体が浮いた。

 勢いを殺しきれなかったのだ。

 そして、そのまま、


「うおおおお!」


 ウィルもろとも、正面の玄関へと吹き飛び、倒れこんだ。

 戸ごと割り倒して、中への侵入に成功したウィルは、


「よっしゃ!」


 と素早く起き上がり、下敷きの門番を踏み倒してダッシュする。


「し、侵入者あり! そのバカを捕まえろ!」


 門番の叫びを背中に、ウィルは駆ける。

 土足もなんのその。後で掃除しよう。

 そして、走りながら叫んだ。


「会議場って、どっちだー!?」 

「待て! このバカ!」

「止まれ! このバカ!」

「スズ様の下着の入ったタンスには近づかせんぞ! バカ!」


 バカバカ言いながら、屋敷内に配備されていた兵が集結してくる。

 止まれば捕まるのでとにかく走る。

 そして、角を曲がったところで、 


「どあぁっ!?」


 ウィルの身体がひっくり返された。

 曲がり角で待ち伏せしていた兵に脚をひっかけられたのだ。


「今だ! 捕らえろ!」


 2人がかかりでに兵が飛びかかられ、羽交い絞めにされる。


「は、放してもらいたいッス!」

「そうはいくかこの下着泥棒め!」

「なぜ下着ドロ扱いに!?」


 言い合いながら、なんとか振りほどこうともがくウィルだが、相手は精鋭である南武槍撃隊。

 行動こそ変態的だが、腕は相当な錬度を持つ”東”でも指折りの兵士だ。

 すると、


「―――何しとるんじゃぃ」


 老人の声が聞こえた。 

会議終了

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