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6-11:命運の話し手達【Ⅵ】

 ……”インフェリアル”…


 エクスは聞く。

 会議の中で交わされる全ての声。

 そして、現れたその言葉。


 ……”インフェリアル”。それが、人を滅ぼすものの正体、か。


 ユズカの言葉が思考の片隅から離れない。

 これまで、”サーヴェイション”こそ、人類の最大の敵と考えてきた。

 機械軍の頭脳であり、全ての元凶である、と。

 だが、違った。


 ……俺は、何も知ってなどいなかったのか。


 ”サーヴェイション”が”インフェリアル”を目覚めさせる、とユズカは言った。

 その正体を、知らなければならない。

 ”可能性”である自分が出来ることを成すために。

 

 ……お前は、知っているのか。ヴァールハイト…。



「ヴァールハイト殿。”インフェリアル”…とは?」


 リファルドが問い、皆が、ヴァールハイトに視線を向ける。

 あらゆる者が初めて聞く単語だからだ。

 

「古代兵器、と言ったな。それを得ることが”狂神者”の狙いであると」

「いったいなんだよ。そりゃ」


 疑問の思考が飛び交う中、ヴァールハイトは、右手を上げて場を鎮めてから、話し始める。


「どのような古代兵器であるかについて、現状では情報が圧倒的に不足している。私から言えることは、この古代兵器が実在していること。そして、先ほどゾンブル氏の告げた小規模な”西”と”東”の武力衝突の報告から、それは確信できたと言える」

「どういうこと?」

「これを見たまえ」


 ヴァールハイトが、手元の小型化した空間ウインドウに指を奔らせる。

 指の通った後を、赤いラインが続き、”東”の部隊駐屯地が重なる。

 それは、ある地点で分岐する。

 2つに別れた内、1本は、


「”西”の部隊駐留地か…!」

「”東”の駐屯地を襲撃した後、その進路で”西”を急襲したわけかい」

「問題は、このもう1本だ」


 ヴァールハイトが言って、もう一方の線が辿りついたのは、山岳。

 赤い点となり、点滅するその地点。


「ここにあるのって…”ジャバルベルク”…ですか?」


 山岳都市”ジャバルベルク”。

 ”東西国境線”のちょうど中間に位置する文明から切り離された広大な面積を誇る巨大な農産業都市だ。


「こんな場所でその”インフェルノなんたら”を造ってるってのかよ? おい」

「”インフェリアル”です。ムソウ殿」

「しかし、ピンとこないね。この都市は農産業か酪農が中心の都市だったはずだよ。アタシも一度寄ったことがあるが、文明レベルが低すぎる。お土産の野菜とか肉とかたくさんくれたけどね」

「そうよ。ここは、兵器関連の技術とは無縁よ。住人だって温厚で有名だし」


 誰も彼もが、その不自然さを拭えずにいた。

 ヴァールハイトは、その声に頷き、続ける。


「無論、建造されているわけではない。古代兵器”インフェリアル”は、この都市の真下に眠っている。おそらく、建造当時の姿のままで、だ」

「まさか…!」

「驚くのも無理はない。まさか、は世の常。この事実は、おそらく極一握りしか知らぬものだ」


 そう言って、ヴァールハイトの視線が動く。

 その先は、


「そうでしょう? 東雲・アリア殿」


 これまで、ずっと口を閉ざしていたスズの母へ向けられていた。


「母上が…? 本当なんですか?」


 スズが、驚きと疑念にかられた目を向ける。

 アリアの表情は、いつもどおりだ。

 優しげな笑みを、スズに返し、


「ええ。お話だけなら聞いたことがあります。その名称を聞いたのは初めてですけど」


 答えた。

 

「おいおい、マジかよ」

「とは言っても、深く知っているわけではありません。あの人…東雲・イスズから、聞かされたことのみです」

「詳しくお話いただけますか? どのような情報も今は貴重なのです」


 アリアは、微笑のままに目を閉じ、告げる。

 それは、たったの二言だった。


「”山岳都市には、我々の知らないものが眠っている。それはおそらく、いずれ私たちの子に害を及ぼすものだろう”と」


 実在する。

 東雲・イスズも、そのことに気づいていた。

 正体も詳細も不明な何かが、”ジャバルベルク”には眠っているのだ。


「ワシの父も、知っていたのか…?」

「今となっては、分かりません。ですが…可能性はあります。東雲・イスズ氏と交流のあったアルカイド王なら」


 先代の”長”と”王”。

 彼らが、なぜ”狂神者”に狙われたのか。

 それは、知ってはならないことを知ったからだ。

 誰も知らないことを知ってしまったが故に。


「私は、1週間ほど前に”ジャバルベルク”の長老に会う機会を得た。その際、現”代表”である私に、先代の”代表”からの全てを明かすように取り決められていたらしい」

「じゃあ、その長老とやらはずっと知ってたってのかい」

「そうだ。この事実は彼らに一子相伝でのみ伝えられてきたようだ。だからこそ、あの場所はあらゆる発展文明から切り離された環境としてあったのだ。住人が、古代兵器の存在そのものを理解できないようにするために、だ」


 ”ジャバルベルク”には、数多くの遺跡がある。

 しかし、それは形骸的な観点から”遺跡”と呼ばれているに過ぎない。

 

「”ジャバルベルク”の表層に点在する”遺跡”にはこのような壁画がある」


 画像が切り替わる。

 それは、


「あ、あの時私が見た奴」


 ”メガネさん”が指差す先、そこには”傘の下から雨が降る”という不可解な構図のレリーフがあった。


「これが、”インフェリアル”だって言うの…?」

「私はそう考えている。そして、最期にこの映像を見せる。エンティ、頼む」


 はいはい、と端末から何かのデータが転送される。

 そして、さらに切り替わりを見せたのは記録映像だ。

 そこに映っていたのは、ヴァールハイトの背中と、


「機兵…じゃと!?」

「いや、しかし我々が見たものとかなり違うようですが…」


 アンジェとリファルドの声があった。

 映し出されたのその躯体は、前に見た試作型や流線型の人型のものとはまた違う。

 それらより一回りも大型で、4本の腕部に個別に武装を取り付けられた機兵だ。


「我々は、これを”守護者ガーディアン”と呼称している。これが配備されていたのが、”ジャバルベルク”のとある”遺跡”から地下へと続く階段の先。最下層のゲート前だ」

「社長さんよ。映像にあんたの背が映ってるってことは、この”守護者ガーディアン”とやらと一戦交えたってことかよ?」

「その通りだ」

「そして、哀れ”カナリス”の社長は、社員を守り、その命を散らせたのです…」

「エンティ、私は、生きているからこの場に立っている。この後、秘書と協力してこの”守護者ガーディアン”の撃破には成功している」

 

 すげぇ、という声にも平静を保ったままヴァールハイトは続ける。


「しかし、”守護者ガーディアン”の破壊がゲートロックのトリガーだったらしく、映像のゲートへは一切のアクセスが遮断されてしまっている。他のゲートもおそらく存在しているだろうが、この映像にあるゲートを見つけるにも半月を浪費した。時間の猶予もなかったので、これ以上の捜索は断念している」

「じゃあ、この先に…」

「我々は、早急にこの遺跡の奥へと足を踏み入れねばならない。そして、おそらく次は”狂神者”とされる者達とぶつかることになるだろう」 


 古代兵器”インフェリアル”を”狂神者”より先に確保すること。

 それが、ヴァールハイトが示したかったこの会議の目的だった。


「…いったい、いつ、この古代兵器は造られたんだい?」

「それは長老でも知らなかった。…これは私の予測だが、我々が知らない”中立地帯”が生まれた当初になんらかの動きがあった結果なのではないかと考えている。今、論ずるには意味のないことだが」


 ”中立地帯”の文明レベルは都市ごとに異なる。

 異常に発達した機械文明都市もあれば、農産業が発達した都市まで千差万別なのだ。

 過去に、異常技術が生まれていても不思議はない。


「そうね。今は、この争奪戦に勝つ必要があるわ。”東”は、”中立地帯”協力します。いいわね」

 

 スズの言葉に、周囲の”東”勢は頷きを見せる。


「もちろんです!」

「しょうがないね」


 ”西”もまた、互いに頷きあう。


「このようなところで協力とはの…。実に熱いの!」

「先代”王”の無念、晴らす機会と考えます」


 皆の目的が重なりを見せた。

 しかし、


「―――…なに! それは本当まことか…!?」


 ゾンブルが声をあげた。

 彼は耳に手をあて、手首の端末に声をあてている。

 新たな報告があったらしい。


「どうしたの?」

「今しがた、”西国”より通告があったとのことだ…」

「……内容は?」


 スズの問いに、ゾンブルは答えた。


「…宣戦布告。”西”は”東”に対して、武力を持って応じる、と…!」


 恐れていたことが現実となる。

 停戦していた”朽ち果ての戦役”。

 その再開が、静かに告げられた瞬間だった。

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