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2-4:花園の”待ち人” ●

挿絵(By みてみん)

 リファルド=エアフラムは、その場所で、感嘆していた。

 大穴の中に存在する都市。そこには、鉱物資源だけにあきたらず、天然のクリスタルや宝石の原石が岩場から露出していたりし、日光に照らされる地上とは別の幻想的ともいえる世界があったからだ。


「これが噂に聞く陥没都市”シア”ですか~。いやはや、なんとも美しいですね」


 そんなリファルドに、


「・・・騎士殿。当初の目的をお忘れのないよう頼みます」


 声をかけたのは少年だった。


「ええ、もちろんですとも。リバーセル殿」


 少年―――リバーセルは、だいぶ強い癖毛が特徴的だった。彼が身につけているのは”西国”の礼服ではなく、特殊活動用の戦闘服である。リファルドも自分専用のものだが、同様の機能を持った服だ。

 見た目には、それほど目立たないため、市街にもぐりこむ際に使用される。機能面でも充実しており、服の内側は多くの武器を隠しておけるうえ、防弾性にも優れる軽くて便利な一品である。


「しかし、きれいな場所だ。・・・今度、あの人も連れてきてあげたいですね。どうでしょうか?」

「・・・いえ、それよりも任務を果たすことが重要ですので・・・しかし、なぜあなたまでついてきたのか、私には疑問なんですが?」


 リバーセルがわずかながら険しい表情をしていた。

 元々、この任務はリバーセルの部隊だけで行われる予定であった。そこにリファルドが、半ば職権乱用気味に参入したのだ。

 しかし、この男、目の前の姿を見る限り、傍目からは風景に見とれる田舎者の観光客にしか見えない。

 ”あいつ”からは、意外と勘が鋭いから気をつけろ、と言われた。できるなら遠ざけておけ、との指示も受けている。正直、この任務で一番厄介な存在だった。

 リファルドは模範的で誠実で高い実力をもつ者多くの兵士達から信頼と尊敬を寄せられる男ではあるが、誰も彼もが彼を支持しているわけではない。老中達には、若いうちの成功者がなにかと疎ましいのだ。もちろん口には出さないが。

 とはいうものの、リバーセル自身は特にどうと思っているわけではない。強いて言うなら、その実力は認めるところだ。

 そんな考えを知ってか知らずか、リファルドはあっさりと返答した。


「いえ、ただ教え子というのはいつまで経ってもかわいいものでしてね。彼らの汚名をすすぐためにも、私が出向きたいと思っていました」


 疑わしいくらいまっすぐな男だ、とリバーセルは思いながらも、


「・・・それは結構ですが、”例のもの”はそのまま(・・・・)の状態で回収します。そこはご理解ください」

「承知しています。この現場の指揮官の判断には従うつもりです。よろしくお願いします」

「・・・先行部隊はすでに街中に潜入していますので、情報が入り次第動きます。そのつもりで」

了解(ヒア)


 

「え?この手紙の人がどこにいるか知ってるんスか!?」


 刃物屋から出るなり、ウィルはそう言った。


「そうそう、私達はその人とお知り合いですので~」


 答えたのは長髪金色ウェーブのニコニコ少女―――リヒルだ。


「いやー、運が良かった。意外と早く仕事終わりそうッスね、エクス!」

「・・・そうだな」


 エクスは一言で返答。別に機嫌が悪いわけではなさそうだが。


「・・・しかし、リヒルさんの背後に隠れた視線・・・どうにかならないッスか?」


 ウィルが言うのは、いまだに続くシャッテンという少女の眼光のことだ。

 リヒルが、なんとかなだめ、凶器をしまわせたものの、まだ憤りは収まっていないようだった。

 なぜ怒ったのかについては、リヒルが一言で説明してくれた。


「この子、背中の筋が性感帯みたいですので~」

「なんスかそれ?」


 ”セーカンタイ”?

 よくわからない単語なので、エクスに聞いてみたら、


「・・・そのうち分かる時がくる。むやみに触れるなとだけ教えておく」


 と、言われた。

 ・・・ならいっか。次から気をつけるッス。


「で、この手紙の届け先・・・えっと”日傘をさした女性へ”ってあるんスけど、どこに行けばあえるんスか?」

「この”シア”には、彼女のお気に入りの場所があってですね、たぶんそこにいると思いますよ?」

「どこッスか?」

「ここより下の階層にあるお花畑で、たいていはいるんで、すれ違うことは少ないです。きれいなお姉さんですよ~?」

「お、なんか楽しみになってきたッスね」

「・・・・・」


 ”きれいなお姉さん”という言葉に、興味が湧いてきたのウィルだったが、ふとエクスの視線の向きが周辺に向けられていることに気づく。


「エクス。どうしたんスか?」



 エクスはどことなく気づく。

 行きかう人の中に紛れ込んだ”特殊な人間”の気配。

 一般的な人々とは違う、ある目的を持って動く者達が放つ独特のそれ(・・)を感じ取っていた。


 ・・・この街、なにかあるのか・・・?


 向こうはこちらには見向きもしない。もっと別の何かがあるようだ。


「―――あ、そういえば」


 リヒルがまた話し始めた。


「まだ噂程度ですけど、数日前この近くで”西国”のライド・ギアの戦闘があったらしいですよ~?」

 首を小さく傾け、口に人差し指をあて、そんなことを言った。

「ライド・ギア・・・人型機動兵器か」

「ですです。それで、なにかが”シア”のどこかに落着したとかなんとか」


そう言ってリヒルは下唇に人差し指をやり、首を少しだけ傾けた。


「通称”お宝”とか言われて、そんな情報が流れてるみたいですね~。あちこちからそれ目当てに集まっている人たちがいるかもしれません」

「・・・詳しいな」


 エクスは疑心の視線を向けるが、リヒルは特に気にすることなく、後ろのシャッテンをチラリとみやる。


「テンちゃんは情報通なんです。だからいろいろ教えてくれるんですよ~?」

「ほう・・・」 


 どこか煮え切らないエクスだったが、


「・・・まあ、こっちは手紙届けにきただけなんだから、”お宝”とかは関係ない話なんじゃないッスか?」


 ウィルはそう言う。


「・・・そうだな」


 確かにこちらには関係なさそうな話題だ。これ以上深くは入り込まず、切り上げる。それで終わりだ。

 しかし、疑わしい人間を追及しがちなのは、・・・性分だ。


「それじゃ、これで。リヒルさん、いろいろ教えてくれて助かったッス」

「いえいえ~、何かの縁ということで、今後ともよろしく。あ、さんづけはしなくていいですよ?気ままにリヒルで結構ですので~」


 そう言って、ちょこんと首を傾けるリヒル。

 ウィルがあと気になるのは・・・


「・・・あの、シャッテン、さん?」


 いまだにその背後からヒシヒシと感じる敵意と殺気の入り混じった視線。


「ほ~ら、テンちゃん。仲直り」


 リヒルとシャッテン。

 2人の少女は同い年らしいが、こう見てるとどうもリヒルのほうが姉で、シャッテンが妹のように見えてくる。

 すると、シャッテンがようやくリヒルの背後から、姿を見せた。

 表情は幾分か落ち着いており、そのままツカツカ前に出ると、スっと右手を差し出した。握手を求めているようだ。


「・・・リヒルが言うなら・・・許す」

「え? ああ、どうも・・・」


 ウィルが、その手を握り返そうと手を伸ばす。そして、あと数センチというところまで近づいた瞬間―――


「うおッ!?」


 シャッテンの袖口から、様々な刃物が、シャキンッ、という金属がすれる音と共にとび出した。

 危なかった。あと少し近かったら、手がなくなるところだった。


「許す気ゼロじゃないッスか!?」

「・・・ちっ・・・」


 シャッテンは、タイミングが早すぎたか、と言わんばかりの舌打ちで、後ろを向いた。手を何度か振ると、凶器の類が袖口に全て引っ込んだ。


 ・・・どういう仕掛けッスか?


「も~テンちゃん、根に持ちすぎ」

「・・・・・でも」

「今はダメ。あとで慰めてあげるから、ね?」

「・・・うん、わかった」

「よ~し、いい子だね~」


 リヒルはシャッテンを抱き寄せ、頭をやさしくさすった。すると、シャッテンは目をつぶって頬を赤らめ、恍惚の表情を浮かべる。


 ・・・まるで猫だな・・・


「・・・あれ?”今はダメ”って今度会った時、どうなるんスか?」


 ウィルのそんな素朴な疑問。


「それじゃ、私達はこれで失礼します。まだお仕事の途中なので~」

「え?ちょっと!? どうなるんスか!? 教えてほしいッス!」


 別れの言葉を告げ、”ニコニコ”少女は”刃物”少女の手を引き、さようなら~、と言いながら、また人の雑踏の中に消えていった。

 見送ったエクスは、


 ・・・この時代ではああいう奇抜な人間がよくいるのか?


 と、自分のことは棚に上げて、そんなことを思っていた。

 しかし、”手紙”の届け先は判明した。さっさと届けて、今度はライネの情報を探る時間をつくらなければ。


「・・・どうしたウィル?」

「・・・今度この街来るときは、命賭けないといけなさそうッス」


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