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6-11:命運の話し手達【Ⅱ】

 ……会議ッスか…


 そんな思考を持って、ウィルは東雲家の周りをうろうろしていた。


 ……アンジェさん、”西”の王様だったんスね。


 そんないまさらなことを考えつつ、侵入場所を探す。

 会議の中で、社長からアウニールことについて話があがるかもしれない、と考えたのだ。

 しかし、


「だめか。どこもがっちり固められてる…」


 入り口も、裏手も、塀の回りも、屋根の上にも、軒下にも兵が配置されている。

 

「―――む! これは…、バストアップ体操の本!」

「―――なんと! やはり努力してあそばされているか!?」


 スズの部屋の方から、南武槍撃隊の声が聞こえる。

 やはり主の部屋を守るのは精鋭の役目だ。


 ……その代わり、重大な秘密が暴かれているような気がするッスね!?


 とりあえず聞かなかったことにしようと決めて、しかし、結局は解決できずうろうろが続く。

 すると、


「何をうろうろしてるんですか、バカウィ」


 いつもの作業服と溶接面に鉄面皮のクレアがいた。

 今日は小脇にプロペラのついた謎の機械を抱えている。


「あ、クレアさん。こんちわッス」 

「まさか東雲邸に侵入しようとか?」

「あれ、よくわかったッスね?」

「分かりやすいのです、あなたの行動は。では解決策を提示します」

「おお! 協力してくれ―――」


 途中まで言って、ふと考える。

 クレアのことだ。

 おそらく、壁をぶっ飛ばすか、謎の機動兵器を持ち出して破壊活動を起こすに違いない。


「ダメッスよ。壁壊したら」

「いくら私でも、いつも破壊活動をおこなうわけではありません。失礼ですね」


 なんでかは知らないが、以心伝心が成立していた。


「じゃあ、どうするんスか?」

「これを使います」


 クレアが脇に抱えていたプロペラのついた球型の機械を地面に置く。


「おお! つまりこれを飛ばして、音声受信するんスね!」

「何を言っているんですか?」

「え、違うんスか?」

「言うより見るのが早いです。スイッチオン」


 クレアが、作業着の胸にあるポケットから黒い長方形の薄型端末を取り出し、表面を数回指で打つ。

 プロペラが回転を始め、次に本体が浮き上がる。

 そして、

 

「”プロペラ丸”、ゴー・トゥ・ヘル」


 クレアの操作に従い、”プロペラ丸”が急上昇から、急加速して塀の向こうへと消える。

 いつの間にかクレアは溶接面を被っている。

 いや、溶接面に見えてそうではない。

 ディスプレイだ。

 内側には、”プロペラ魔箱”に取り付けられたカメラからの映像があるのだ。

 外側からだと鏡写しで見えるその映像には、


「あ、スズの部屋に侵入して…」

「ゴッツーン」

「ああ! 槍撃隊の方の頭に突撃! そして強打した!」


 その数瞬後、屋敷内から声があがった。


「―――しゅ、襲撃だぁ!」

「―――箱型の突貫強打兵器が襲ってきたぞ!?」

「―――今度は回転、いやフォークか!?」

「―――頭か股間を集中攻撃してくるぞ!?」


 主にスズの部屋の槍撃隊の悲鳴だった。


「遊ぶのはこれぐらいにして、本丸に行きます」

「今の遊びッスか!?」


 そう言いつつ、ウィルは鏡写しのディスプレイにある映像が、ストン、と落ちるのを見る。


「自動操縦で設定…自律飛行の囮は、”頭部、股間を集中狙い”に設定。本体を分離…」


 クレアの端末操作が高速になる。

 音声入力もあわせて、精度を上げていく。

 傍目からだと、溶接面を被ったクレアが、独り言をブツブツいいながら、端末を操作するという異様な光景であるが、気にする者はいなかった。


「超、小型他脚カメラの潜入に成功しました。会議場への侵入を始めます」

「おお! やっぱ、すげぇッス!」


 ウィルは、”西雀”の技術に改めて感動する。

 クレアの当主権限で堂々と正面から入れる、ということを思いつく奴は、残念ながらこの場にはいなかった。



 ヴァールハイトは宣言と共に、言葉を発した。


「最初に言っておこう。この会議において、”中立”は全ての金銭的利益面を考慮しないものとしている」


 金銭的利益を考慮しない、というその言葉。

 それに対して、”西””東”の陣営から、僅かながら動揺の息が漏れた。


「ヴァールハイト。あなたが利益を求めない、というのはいささか信用がおけないんだけど」


 そう言ったのは、スズだ。

 半目で疑うばかりのその視線に対して、ヴァールハイトは涼しげな顔で応じる。

  

「私は”金銭的な利益”と言ったはずだ」

「つまり、別の利益になるものがあると考えてもよいのかの?」


 反対から声が来る。

 リファルドの膝の上に座って、脚を組んでいるアンジェの声だ。


「別の利益って…」

「こやつの言葉はしっかり聞いておくべきじゃ。ワシらの対決を止めたときの言葉を含めての」


 言われ、スズは思い返す。


 ”世界を解く”


 ヴァールハイトは、そう言ってこの会議を提案したのだ。

 ”中立地帯”を牛耳る事実上のトップたる男が虚言を吐くはずもない。

 必ず理由があり、意味がある。

 皆が待つ中、一度目を閉じ、数秒後に意を決するかのように開かれた鋭い視線。

 ヴァールハイトの言葉が来る。


「私がこの度求めるのは、…この人類全ての利益だ」


 その表情はいつもと変わらない。

 しかし、その言葉には、静かな圧があることを誰もが感じ取れた。


「例外はない。”東””西””中立”。この世界に行きとし生ける者達。その全てに利益を与える」


 言われる意味に誰もが耳を傾ける。

 そして決定的な一言が問いとなって放たれる。


「この場の全ての人に問おう―――」


 それはかつてヴァールハイトが言われた言葉。

 世界の裏に気づくきっかけになった、一言。


「―――世界が滅ぶと知ったらどうする?」



 ヴァールハイトの開始宣言より少し前に戻る。


「―――つきました。会議場です」


 道の真ん中溶接面をつけた異様な風体のクレアが、そう告げた。


「おお! さすがッス!」

「聞きますか?」

「お願いするッス!」


 手を合わせてお願いポーズしてるウィルに、イヤホンが渡される。

 クレアの溶接面型ディスプレイに繋がっており、これで内容をウィルが聞くこともできる。

 しかし、ふとウィルが気づく。


「あれ、これ盗聴なんじゃ…」

「何言ってるんですか? バレなければ犯罪じゃないんですよ。世界共通で」


 クレアがさも当然のごとく言ってのけた。

 それに、と続ける。


「あなたには知る権利がある。ムソウにそう言われました」

「え…そうなんスか?」


 その言葉を少し不思議に思った。

 自分の意思でここに来たと思っていたのに、まるでムソウもこの行動を望んでいるかのように感じられたからだ。

 しかし、深く考える間もなくクレアが告げてくる。


「始まります」


 ウィルは慌ててイヤホンを耳につける。

 違和感もなにもない、と今はそう考える。

 聞いてどれだけのことが理解できるのかも定かではないが、とりあえず聞くことにした。

更新遅れました。

申し訳ない…。

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