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6-10:異変の予兆

 とある朝を迎えた場所がある。

 荒野のごとく、赤寂びた風がふく。

 都市の残骸があるそこは、東西国境線の”東”陣営駐屯地。

 ”朽ち果ての戦役”の際、戦闘の影響下に置かれた場所の1つ。

 東西国国境線とされるこの地帯は、暫定的に”東”の領地として世間で認識されている。

 15年以上戦闘が行われていなこの場所の防衛の任にあたるのは、南武家で要請された兵達だ。

 

「―――おい! 聞いたかよ!」


 若い隊員が1人声をあげた。

 応じるのは、休み時間を満喫中の同期。

 休んでいると行っても、常時、機体に待機している状態でもある


「なんだよ。貴重な休憩時間削ってくれてまで言いたいことでもあんの?」

「”東”の本国に現れた、金髪の美人観光客の画像が送られてきたぞ!」

「そいつは削って正解!」


 同期が飛び起きる。

 すると、


「―――外国人だと!?」

「―――美人だと!?」

「―――美脚画像あるか!?」

「―――写真プリーズ!」


 別の場所に待機していたはずの同僚達が一斉に集結してくる。


「出所はどこだ? まさかこの間みたいに、お前の脳内パラダイスの立体画像じゃないだろうな? まぁ、それもよかったんだが」

「安心しろ。我らが”南武槍撃隊”が独自入手したもんだ」

「それなら信用できるな」

「ああ、盗撮させたら”東”一番の連中だ」

「さて、皆様これが例の美人です」


 若い隊員が、画像を空間ウインドウで表示する。


「おおぅ! こいつは…いいね!」


 映し出されるのは、光を反射させる金糸のごとき長髪をなびかせる女。 


「こいつは”中立地帯”の装束か?」

「うほっ! 美脚、美脚!」

「だろうな。とはいってもあそこは何かと文化が乱雑だからな。”西””東”で該当しないなら、たいていは”中立地帯”の出だろうな」

「しかし珍しくもあるな。”東”ってこう観光地としては地味な気もするが」

「まぁ、派手さはないが、ほら観光名所と観光名物がいるじゃないか」

「”ホウヨウ”とゾンブルさんか?」

「だな」


 央間家当主、央間・ゾンブル。

 彼は”東”の隠密頭であり、観光名物でもあった。

 その認識には、明らかな矛盾がある気もするが、”東”では気にしてると疲れるのでみんなスルーしてるのだ。


「いいね~。本国に帰れるのはいつの日やら」

「美脚最高!」

「3日後に2ヶ月体勢の防衛が交代だ。それまで踏ん張れ」

「あ、ついでにこの画像もあった」


 映し出されたのは、着物を纏う、儚げで可憐な少女。

 ランケアの女装画像だった。


「おお! 最新版! 提供は”南武槍撃隊”か。ぶれねぇなあの人達」

「いつ見ても…女の子にしか見えん」

「あ、やべ俺何かに目覚めそう…」

「危険だ! この画像は危険だぞ!」


 そんなわけの分からないテンションになりかけたところで、


「おい! 隊長来るぞ!」


 周囲を見張っていた、若干真面目な隊員が駆け込んでくる。

 その数秒後、


「―――お前ら、何を見ている?」


 壮年の隊長が現れた。


「た、隊長! お早いおつきで!」

「お前! 報告遅いぞ!」

「いや、さっき500メートル以上先で見たはずなんだけどな…」

「数秒で来たのか…」

「隊長走るの速いからな」


 そんなことを言っていると、隊長はため息をつきつつ、


「何をごちゃごちゃ言ってる。持ち場に戻れ」


 静かだが、語尾を強めに言う。

 

「あ、隊長も見ます? 金髪美女画像」 

「いらん」

「さすが、隊長。彼女持ちはぶれませんね」

「そういうのじゃない」

「でも家に帰ると、おいしいご飯作ってくれていて、なおかつ”お帰り”って笑顔で迎えてくれるんでしょ? それ、なんというか」

「嫁だな」

「当然だ。自慢のな」

「惚気だしたぞ! くっそ!」

「この隊長野郎!」

「地獄に落ちろ!」

「話はここまでだ。持ち場に戻れ―――敵がくるぞ」


 隊長の発した最期の言葉に、隊員達が目を見開く。

 しかし、次の瞬間には、全ての表情を引き締め、


「「「御命のままに…!」」」


 声を合わせた。 


● 


 巨大な黒い人型の影がある。

 ”西”の機動兵器、通称”ライド・ギア”。

 ローブをまとったそれは、影の内に隠れた頭部のスリット型のセンサーで”東”の防衛地点を見下ろしていた。

 

 ……あの駐屯地か。


 パイロットは、目を細め、思考する。


 ……悪いが、ここで落とさせてもらうぞ。


 機体の出力を戦闘を行使するまでに上昇させていく。

 機体が握るのは、銃身下部にブレードが取り付けられた、銃剣一体の武装。

 それが一対。

 内側からの熱と外部からふきつける風いよってローブが不規則にはためく。

 周囲には、黒い機体以外の姿はない。

 単機。

 それで充分、とすでに結論づけている。

 

 ……何を敵にまわそうと―――


 機体が身をかがめる。

 身を深く、脚部に力を込め、跳躍する。

 ローブの隙間から、金の残光を見せ、肩部のブースターを噴射させつつ、崖下へと着地。

 大地を踏み、土を打ち上げ、前を見据える。

 市街地の入り口。

 そこには敵がいると意識する。

 

 ……お前が生きるためなら、俺は…全てと戦う…!


 パイロットの思考はここにない。

 この戦いは、通過点でしかない。

 自分の望みを果たすため、そして、大切な者の未来のため。

 

『”ラファル・センチュリオ”…!』


 パイロットの名は、リバーセル。

 彼は、自らの機体の名を呼ぶ。

 一対の武装を携え、今、戦闘へとその巨躯を飛ばす。

 見据えるのは、廃墟となった市街地への入り口。

 だが、目標地点に到達する数十メートル前で、


『――曲者を通すわけにはいかん』


 声が来た。

 オープン回線。

 同時、”センチュリオ”への太陽光が別の何かによって遮られた。


『っ…!』


 ”センチュリオ”が頭上を見上げる。

 そこには声の主がいた。

 ”東”の生産機の特徴である爪型の脚部。

 しかしその全体のシルエットは、量産機である”機羅童子”と大きく異なる。


『新型か…!』


 鋭角な影を持つ”新型”が、2本の刀を腰から抜き、落下の勢いを乗せての斬撃を落としてくる。


『後の先だ!』

『ちぃっ…!』


 ”センチュリオ”の迎撃の刃と、”新型”の先制の刃が衝突する。

 重力を味方とした”新型”が初手を制し、”センチュリオ”の脚部が地に沈む。

 だが、


『なめるなっ…!』


 ”センチュリオ”が刀身を倒し、力を受け流す。

 勢いと共に、”新型”が姿勢を崩し、僅かに背をさらした。

 一瞬の隙だ。

 

『もらったぞっ…!』


 ”センチュリオ”が刃を返し、斬りかかる。

 とった!、とそう感じた。

 だが、


『一筋縄とはいかんさ…!』


 ”新型”が、片手の刃を落とした。

 その自由になった手が手刀となり素早く”センチュリオ”の斬撃の軌道へと動く。


 ……腕を犠牲に軌道を変える気か…!

 

 リバーセルは、そう思い、しかし、


『なに…!』


 違った。

 止められた。

 ”センチュリオ”の振り下ろされたブレードを、”新型”の手刀が受け止めている。

 

『近接特化機だ。これぐらいの技はたやすい…!』


 ”新型”の乗り手はそういうが、実際には受け止める直前まで”センチュリオ”の攻撃は視覚外だったはずだ。

 機体の性能と、乗り手の技量がかみ合ってこそ、この防御は成立している。


『呆けている暇は与えんぞ…!』

『…っ!』


 言われるより先に、”センチュリオ”が動き、後方へと飛ぶ。

 それと同時に、片腕にあったブレードが砕けた。


『…狙撃か!』


 ”センチュリオ”が、動く。

 1発に見えたが、実際は2発。

 1発目を避けたが、2発目にブレードを砕かれたのがその証明だ。


『ここは、すでに”東”の地。我らは、主君に代わり、この場所の守護を任された身…』


 狙撃に対応すべく動きを活性させる”センチュリオ”のローブが風に流れ、はためく。

 それに対し、冷静に堂々と立ち”新型”は守護を宣言する。


『我らを倒さずして、易々と越えられると思うな…!』


 ”新型”が、身を低くし、大地を後方へと蹴った。

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