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6-8:温泉宿”ホウヨウ”へようこそ ●

      挿絵(By みてみん)

 東国内では有名な巨大温泉宿”ホウヨウ”

 東における観光の名所であり、現在は中立地帯からのお客も多い。

 中立地帯は、それこそ多種多様な外見の人々がいる。

 それが観光にくる場所なのだから、アンジェやリファルドも自然と風景に馴染むことができた。

 一行は温泉の入り口につくなり、男性、女性組に分かれることになった。


「おいおい、ここは混浴だろ!」


 とセクハラ侍が力説し、フォティアに止められた。


「しれっと”女湯”に入ろうとするんじゃないよ」

「冗談だって」


 と、笑いながら”男湯”に入っていったが、油断はできないとだいたいの女性陣はそう思った。

 ちなみに西の”王”は初めての御風呂体験だったので好奇心一杯に尋ねた。


「”こんよく”とはなんじゃ?」

「子狐と一緒に入浴することです」

「なるほど! かわいいな!」


 クレアが真顔で嘘を教えた。

 ランケアがすごく訂正したそうだったが、その前に”男湯”に連れていかれた。

 その他の人員はおおむね平和に入っていった。

 日が落ちていく。


● 


 そして、女湯。

 入浴場の開放時間はまだなのだが、フォティアの一声でしばらく貸切にしてもらっている。

 浴場は露天風呂。

 冬季でも利用客の多い名物だ。


「母上。1つだけ言いたいことがあります」


 スズは真剣な顔してそう言う。


「あら、スズちゃん、真剣な顔してどうしたの? あ、わかった。この間、ムソウにぶたれたお尻に痣があって、それを見られるのが恥ずかしいのね!」

「全然違います…! そしてそんなものはありません…!」 


 スズは、声を抑えつつ言う。

 

「ふふ。それにしても、スズちゃんの髪はきれいね。あれだけ動いてもこんなにサラサラで母上は、うらやましいわ~」

「ですから、母上…髪くらい自分で洗いますから…」

「あらいいじゃない。親子のスキンシップよ。小さな頃はムソウに洗ってもらってたのに、母上はダメかしら?」

「ムソウは…妙にうまかったから…」

「前から思ってたんだけど、スズちゃん、ムソウと一緒にお風呂は入っていいのね」

「なんか慣れてるから」


 というも、スズはふと疑問に思う。

 なぜムソウと一緒に風呂に入ることに抵抗を感じないのか。


 ……ランケアとなら、たぶん遠慮するわね。ウィルとは言語道断なんだけど…。


 ムソウは、抵抗がない。

 謎である。


「なんですか。まだお菓子泥棒(ムソウ)と風呂に入ってるんですか?」


 ペタペタと足音をたて、クレアが寄って来た。 


「ち、ちがうわ! あいつがいつも先にいるだけよ! それで、後から入るのもなんか癪だから…」


 そう言いつつスズは、クレアを見上げた。


「お、の、れ…!」

「なぜそのような親の敵をみるような目を?」


 クレアの素肌を見る機会は非常に稀だ。

 普段作業服に包まれているが、それを脱いだ彼女の肌は白く、傷もないさらりとした質感を感じさせる。

 作業で常に体を動かしているが、無駄なくスラリとしたスタイル。

 濡れた髪を後ろにタオルでまとめ、油汚れを落とせば、そこには麗しい令嬢たる次期当主がいる。

 そして、胸もスズよりあった。

 というかかなりあった。


「なんですか? 胸ですか? これ、最近大きくなってきたのか作業のとき邪魔なんですけど」


 と、ため息をつきながらクレアが自分の胸をつつく。 


「納得いかん!」

「あらあら、スズちゃん。お風呂場ではお静かに、ね?」


 そんな光景を遠巻きにみていたアンジェとフォティアは、湯船に浸かりながらぼやく。


「なんじゃ。スズは何をああ叫んでおるのじゃ?」

「コンプレックスを刺激されたんだろうね。気にするな、と教えてるんだけどね」

「コンプレックス?」

「胸」

「ああ、なるほど。これはワシもアドバイスしてやらねばの。気にするな、とな」


 そう言い、アンジェは湯船から出て、スズの元へ向かう。

 そして、


「―――私をいじめて楽しいかーっ!?」


 予測通りの声が聞こえた。

 内心ほくそ笑むフォティアに近くにいたエンティが言う。 


「あなた方は、いつもこんな調子なの?」



 そして男湯。

 そこでは和気藹々と平和な会話があった。

 シェブングとムソウが一足早く風呂に入り、残りは打たせ湯やら、身体を洗うやらだ。


「ムソウさん! スズさんと一緒にお風呂に!?」

「いやいや違うって。アイツから入ってくるんだって。今でも」

「今でも!? す、すげぇっ!」

「”東”とはなんとも不思議な国です。こうも女性と男性が抵抗なく共に浴室にあるとは…」

「ムソウさん! しっかり説明しないと誤解が広がってます!」

「あれ? 俺様、間違ったことは言ってないけどな?」


 と言いつつ、ククク、とほくそ笑む。

 

「そんなことよりよ、男の衆。この場にいて思うことはないか? おい」


 そういうムソウに対して、シェブング以外が首をかしげる。


「なんじゃぃ。はっきり言ってやれムソウの坊主。こいつらはこういうところでは勘がはたらいとらんからよぉ」

 

 シェブングは、湯船に浮かべた盆の上にある徳利とっくりを傾けながら、そうぼやく。


「何です? 背中の流しあいはさっき終わりましたけど」

「ランケアの背中をこすってると、すごくいけない気持ちになりそうだったッス!」

「どうしてですか!?」

「ランケア殿…男性だったのですね」

「うわぁっ! リファルドさんにも女の子だと思われてたーっ!?」

「あ、いえ…! 女性物を身につけた姿しか見ていなかったもので…。可憐! 可憐でした! 気にしないでください」

「最期ので余計気になりますよーっ!?」

 

 話が脱線していく。

 すると、ムソウがどーどー、と手を振る。


「おいおい、お前ら、ランケアのエロさをネタに興奮すんのは勝手だが、もっと夢のある話しようぜ?」

「夢? 夢ならいろいろあったッス」

「ほぉ、ウィル。言ってみろ」

「昨日、なんか思春期な夢にうなされたばかりッス!」

「具体的に」

「金銀のメッシュ髪に包まれて膝枕で、ついでに胸が!」

「ピンポイントに俗だーっ!?」

「優先順位逆だ! この野郎!」


 ムソウが叫び、次に浴槽から少し離れてた場所にドンと構えている壁に平手を打ちつける。


「俺が言いたいのはこいつのことだ!」


 それは、女湯とを隔てる分厚い壁。

 厚さも相当あり、防音機能も備えている。


「ムソウ殿。その壁に何か問題があるのですか?」

「おおありだ。覗けないだろうが!」


 ムソウが握り拳で叫んだ。


「うふん、きゃふんな声もさっぱり聞こえねぇ!」

「確かに!」


 ウィルが即行で同意した。


「ムソウさん、それでさっきから壁に耳つけたり、張り付いたりと怪しい動きを…!」

「ふッ。そう、いい観察眼だな。俺様は探していたんだよ。この壁の攻略法を…!」

「攻略法…、って覗く気ですか!? ダメですよ」


 ランケアが慌てて手を振る。

 しかし、動き出したセクハラ野郎には聞こえていない。


「そして、見つけたぜ!」

「おお! どうするんスか!? 飛び越えるとか!?」 

「そんなこそこそと…。ウィル! 男なら堂々と真正面から行け!」


 そう言って、ムソウは壁に立てかけていた包帯の巻かれた刀を手に取り、空高く放り投げる。


「見せてやるよ。奥義”砲閃抜刀”の威力をよ!」

「ここで奥義ッスか!」

「わぁっ!? 退避ーっ!」


 物理法則に従い落下してきた刀の鞘をガッチリと咥えると同時に左腕で神速の抜刀を撃ち出した。

 瞬間、暴風が巻き起こる。

 衝撃波を叩きつけられた壁はあっさりと、


「なんだと!?」


 破壊されなかった。

 1度放たれれば、下手な機体すら致命傷を負う一撃を前に目の前の壁は僅かに削れたただけで健在。  


「バカな! 俺様の”砲閃抜刀”を跳ね返しやがっただと!?」

「当たり前だろぃ。そこの壁の設計したのはワシなんだからよぉ」


 シェブングが湯船の中からそう言ってきた。

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