6-6:連なり異国交流【Ⅳ】
……互いに最期の別れは、正直印象が悪かったですよね…
1ヶ月くらい前にシュテルンヒルトの格納庫内で争い、ウィルがアウニールが引き離される原因を作ってしまったわけだ。
ついでに爆弾を大量に投げつけたような気もする。
そんなこともあり、良い表情はされないと思っていたが、
「久しぶりッスね!」
「ど、どうも…」
「リヒルも団子食べにきたんスか? うまいッスよ! ここの!」
思いのほか、好意的だったので少し意表をつかれた。
あの、といいかけて、
「…団子…団子…」
と、背後から小柄で猫背なオカッパ頭がのっそりと出てきた。
「うお!? シャ、シャッテンさん!?」
恐れおののくウィルだが、当のシャッテンは気にせずウィルの横にちょこんと座ると、素早く団子を両手で1串ずつ皿からさらい、ほおばりはじめる。
「……おいしい」
猫背で頬いっぱいに団子を詰め、シャッテンはパッと笑顔になる。
まるで、小動物のようで、
「「「あ、なんか、かわいい」」」
一同がそう言った。
ポカン、としていたリヒルだったが、ふと我に返る。
「あ、あの…ウィルさん?」
「?」
「いえ、あの…私達のこと恨んでません…?」
そういうと、ウィルは少し、うーん、と首をかしげた。
そして、
「―――お互い、いろいろあったんスよね。それだけってことで」
そう言って、笑顔を見せた。
いつもの人当たりの良い、彼なりの。
「それ、だけ…?」
ウィルは、リヒル達を責めたりはしない。
「何か、理由があったんスよね? 秘密なんてみんなあって当然ッス。それに―――」
ウィルが食べ終わった串を置き、。
「エクスやリヒル達が助けてくれたから、俺、アウニールと会って、一緒に過ごせた。だから―――」
親指をたて、
「ありがとッス」
そう言った。
リヒルは苦笑する。
どうして、こんなにも前向きなんだろう、と。
自分が不安で一杯なのがバカみたいだ。
「本当…お人よしなんですね…」
リヒルは、少しだけ気持ちが楽になって表情は自然と微笑んでいた。
●
……む! 今、俺かっこいいッスね!
と、ウィルは内心で自画自賛。
今、確実に一歩ずつ男前ロードを歩みつつある、ということだ。
うんうん、やっぱ女性には笑顔ッス、笑顔。
こう、癒される感じのが素晴らしい。
エンティさんとか笑顔で、”仕事追加! 追加ァ! フハハハ!”って感じだったし、もう笑顔のときの方が怖いし―――
「―――ふーん、そう笑顔怖いかー。そーかー」
ほら、エンティさんの声が幻聴として聞こえるッス。
もはや、脳裏に焼きつく、いや焼き憑く、というべきッス。
体が脊髄反射で、ビクッ!、っと―――
「チェストォーッ!」
「だはぶぁっ!!?」
横ッ面にドロップキックを受けたウィルが吹っ飛び、そのまま錐もみ回転で茂みの中に叩きこまれた。
しかし、すぐに起き上がり、
「ひぃっ!? エ、エンティさん!?」
今しがた思い浮かべた畏怖の対象に戦慄する。
「やぁウィル君、久しぶりだねぇ。相変わらずで安心したよぉ」
「な、なぜここに!」
「社長の用事でここに停泊中なの。それで歩いてたら、バカの声が聞こえて、それで蹴りたくなったの」
「最期のあたりおかしくないスか!?」
「そんなことないよぉ。では、まず…ここに来て座れや!」
「お許しをーッ!?」
●
「な、なんなの…!?」
スズは、目の前で起きた出来事に理解が追いつかない。
「”両翼”とウィルの間にあったなんやかんやが解決してウィルの奴が相変わらずの脳内言語を垂れ流してたら突如として出現した”カナリス”の見た目幼女中身は鬼な会計に蹴りいれられて吹っ飛ばされて今に至る、と」
「ムソウさんムソウさん! わけが分かりません!」
「ランケアちゃんよ。これが俗に言う”人生山あり、谷あり、蹴りあり”ってやつさ」
「こらこらムソウの坊主。ランケアに嘘教えるなぃ。最期は”尻あり”じゃぃ」
「おじいさま。自分の人生経験組み込んでことわざ捏造しないでください。正しくは”改造あり”です」
「どれも余計だ!」
最期にスズのツッコミが入る。
ともかく、状況は分かる。
ウィルは元々、”カナリス”にいたというのは知っていた。
ならその会計と繋がりがあってもおかしくはない。
そしてその虐げられ具合から、ようやく納得する。
「ウィル。あんたが妙に打たれ強い理由がわかったわ…」
「エンティさん。俺、打たれ強いんスか?」
「そうだね。私のおかげだよ? 感謝してね」
「そうッスね~」
今しがた蹴りを食らって、現在は正座してるウィルと腕を組んで立っているエンティが顔を合わせて、ハハハ、と笑う。
……切り替わりが早い…!
なんて2人だろう、とスズがまたもついていけずにいると、横から声がきた。
「―――あの、東雲・スズ様」
見ると、リヒルがシャッテンと一緒に近くに来ていた。
シャッテンの口の周りにきなこがついたままだが、とりあえず気にしないことにした。
「”両翼”として接するべきかしら」
「それはおまかせします。…ユズカさんの治療の件で、お礼を言いたいんです」
「”魔女”の治療なら気にすることないわ。治療費は誰持ちなのかはまだ決めてないけど、そっちの王様に払わせるつもり」
「いえ…、本当に助けてもらえたのが信じられないくらいです」
リヒルの言葉に、スズは短くため息をつく。
「…いいのよ。相手が誰だろうと、ケガ人は区別しない。人の命は平等。死にかけている人間に、”西”も”東”もないんだから」
それに、とスズは続ける。
「大切な人なんでしょ? あんた達にとって」
その言葉にリヒルとシャッテンは頷きを見せた。
スズは微笑を浮かべ、ふと気になることがあったのを思い出す。
「そういえばあの赤髪の男、毎日”魔女”の様子を見に行ってるみたいじゃない。”魔女”とどういう間柄なの?」
言われ、リヒルとシャッテンが首をかしげた。
「私たちは、ユズカさんから”必要な人”と聞いてます。ユズカさんは彼のためにいろいろとしてきたみたいですし…。テンちゃん、何か聞いてる?」
「…リヒルと同じくらいしか知らない」
はて…、と顔を見合わせる。
すると、
「そいつはあれしかないだろ。男女の仲だよ。決まってるさ」
何度目か忘れたが新たな声がきた。