6-6:連なり異国交流【Ⅱ】
はーい。ただいま、と店員の声が聞こえる。
ウィルが見ると、そこには金の髪を持つ麗美な女性がいた。
アンジェだ。
「おお…」
と、間近で見て、改めて感嘆してしまう。
スズの家に招かれていた”お客様”だ。
流れ、透き通るような金色の髪もそうだが、細めている碧眼もまた鋭くもきれいだ。
プロポーションも抜群。
やや露出多めの服装ではあるが、それもまた彼女の容姿を引き立てている。
そして何より、やっぱり
……胸がでかい…!
アウニールと比べるとどうだろうか。
あ、いやいや、比べるとかじゃなくて、この邪念を祓わねば。
戦いにおいて邪念は不要、と常日頃からランケアやスズに痛いほど教えられているではないか。
そりゃもう物理的に。
しかし、とても気になるのだ。
ランク付けしてみよう。
1位が、アリアさん。
2位が、フォティアさん。
3位が、アンジェさん。
4位が、アウニール。
ランク外が、スズとエンティさん?
あれ、誰か忘れてる?
まあいっか。
やはり、いやしかし、2位と3位と4位は仕分け困難!
「…あの、ウィルさん。どうして腕を組んで、座ったまま回転しているのですか?」
「しっ…、今、心を静めているッス…!」
「動きが静まっていませんが…」
そう言っている間にアンジェは、団子を1つたべ、ほっぺについたあんこを指でそっと拭い、それをくわえてなめていた。
「ほうぅ、これが”アンコゥ”か。噂に聞いたが、たしか深海でとれる珍味だとか…どうじゃ!?」
ビシリ、とこちらを指差してくるアンジェは得意げだ。
「ムソウさん。ムソウさん。何か勘違いしてるみたいなので、指摘すべきでしょうか」
「おいおい、ランケアちゃん。ここは放っておくのがおもしろいんだろうが」
言っていると、アンジェの目がウィルの団子へと動く。
「む! なんじゃその黄金のような粉は!」
めをつけられたのは団子にかかる金色の粉。
アンジェにとってはどれも珍しいのだ。
現実に帰ってきていたウィルが反応する。
「これは”きなこ”と言うッス! 苦いような甘いような妙な味ッス!」
「なんと、苦さと甘みのコラボとは…! ぜひ食してみたいのじゃ!」
「では、条件を出すッス!」
「ほう…、このワシに条件とは…。よかろう言ってみるがいい!」
「髪と胸に触らせてください!」
セクハラ発言が飛び出す。
やるなウィル、とムソウが小さく呟く。
対して、言われたアンジェは動きを止め、顔を赤くする。
「な、なんと…! 髪と、胸をじゃと…!?」
「あ、いえ、しまった若さゆえの暴走が…!」
「胸は良いとして、髪はダメじゃ!」
「そっちですか!?」
ランケアが、ツッコむ。
「やはり…、ダメッスか…!」
ウィルも本命が外れたらしい。
「そうとも! 髪は乙女の命! 触らせるのはこの身をまかせられる男のみ!」
というわけで、
「では、代わりに胸を好きなだけ揉むがいい!」
アンジェが、仁王立ちで、組んだ腕の上に豊満なバストを乗せてくる。
「ムソウさん。ボク、普通に買えばいいと思うんですけど」
「おいおい、ランケアちゃん。あえて回り道するのが人の繋がりってもんさ」
そんなことを言っていると、
「―――何してんのよ。あんた達…」
別の声が聞こえた。
ムソウとランケアが同時に視線をやる。
そこには、やや小柄な少女がいた。
「来たな貧乳」
顔面を狙って木刀の一閃が飛ぶ。
ムソウは、体を反らせて回避。
速度的に、当たると首の骨が叩き折れるほどに鋭い一閃であった。
「まったく平和ね。”お客様”は団子食いに来て、バカ侍からいきなりスレンダー扱いされるし」
「なんだよ、自覚あるんだな。まあ風呂場で毎日確認してるもんな」
全力投球で木刀が飛ぶ。
ムソウは、軽く半歩引いて回避。
「”お付”がいないわね」
「おおかた”お客様”が撒いたんだろ」
そう言いながら、2人は互いに手刀やら蹴りやら回避やらを連続で繰り出している。
「あの…話すのか、打ち合うのかどちらかにしません?」
というが、いつもの光景であったりもする。
「―――アンジェ! 見つけましたよ!」
また別の声が来た。
呼ばれたアンジェが、ウィルとの戦いを中断して、そちらを見ると、さわやかそうな男がいた。
西でも中立でもオーソドックスな仕事着を纏っているリファルドだ。
「なんじゃ。服もって来てたのじゃな。似合っとるぞ」
「ヴァールハイト殿にいただきました。持ってきた礼服では、目立ちすぎるので」
鍛えられたスラリとした長身に、しわのないシャツと黒く長ズボンは、リファルドに見事にマッチしていた。
「あれです。次期社長的な奴です」
「見合い要請が殺到しそうな感じね」
「マイホームパパだな」
スズ達が、口々に好き勝手な感想を述べているが、リファルドは聞こえないふりをして続ける。
「1人で出歩いたら危ないですよ。戻りましょう」
「リファルド…おっと、いかん。えー、そうじゃ。フラムかの。それでいい。そなたは今からフラムで」
「はいはい。フライパンでもフラムでもいいです。無茶は控えてください」
「じゃあフライパン」
「いや、本当にそう呼ばれると困ります…」
「ふふん。ワシは、無茶をしとるつもりはない。この少年…、名前はなんじゃ?」
「ウィルでいいッス」
「ウィルい感じのやつからきなこ団子をせしめるまでワシの戦いは終わらぬのじゃ」
「ウィルい?」
「思春期的なニュアンスを込めた。そして今、究極の選択を迫られておる。胸か髪かを選ばせなければならん!」
「意味が分かりませんよ!?」
フライパン、もといリファルドはため息をつく。
「ウィズダ…、え~…、ケントンも心配します。あなたに何かあったなら―――」
「よし帰ったらケントンと呼んでやろう。フライパンがそう言ってましたーって」
「あ、いや、ちょっと待ってください! 修正のチャンスを!」
そんな光景を見つつ、ウィルは思う。
……なんか絵になるな、この2人。
「やれやれ、いろいろ集まってきたわね…」
真横から聞こえた声に、ウィルが気づき、見る。
スズ達がいつの間にか、自分の横やら背後やらに立っていた。
「1つもらうわよ」
スズがそう言って、ウィルの皿の上にあった3色団子を1本さらう。
赤銅、蒼穹、黄土のとかなりどぎつい色合いだが、
「ま、味は確かね」
納得の意見と、微笑を浮かべる。
「そう、ッスね」
「なに、意外そうな顔してるのよ。私が団子食べてたらいけないの?」
「いや、そうじゃなくて…」
ウィルの目が行くのは、スズの食事動作だ。
ウィルは、串にかじりついていたが、スズはそれとは反対だ。
ここの露店の団子は串に張り付いていないので、玉をしっかりと串から抜いて食べることができる。
スズの場合は串から1玉ずつ丁寧にとり、人差し指と親指でつまんで小さな口に運ぶ。
味わう際、少し首を傾け、目を閉じていた。
穏やかに、そして食べ終わった後、串の表面に1回だけ、そっと舌を這わせて見せる。
なんか、色っぽい。
スズは顔立ち、体型はやや、…そう、やや幼い。
しかしどこか妖艶な雰囲気と合わさり、抜群にエロい。
うあたぁっ!? おでこに串がぁっ!?
「だいたい声に出てるわよ」
そんなことをやっていると、
「―――おや、そこにいるのはバカウィに男装女子に貧乳姫にお菓子泥棒に金髪巨乳にその保護者ではありませんか」
「「「「「誰か1人くらいまともに呼べんのかいっ!!」」」」」
総員でツッコむ。
声の主を確認するまでもなく、その場の全員が相手を理解する。
クレアである。