6-6:連なり異国交流 ●
スズ、アンジェ、ヴァールハイトが顔を合わせて、3日が過ぎた。
非公式ながら、歴史的初顔合わせとなった出来事だったが、
「―――ん~やっぱ、ここの団子うまいっスね」
事情を知らないウィルは、そう言いながら露天のベンチに座って串団子をほおばっていた。
「あの…、ウィルさん。まだ食べるんですか?」
「いやぁ、申し訳ないっス。どうにも稽古の後はおなか減って」
ウィルの隣には、女装してるランケアがいた。
なにかの罰ゲームらしく、訓練以外でもこうしなければならないらしい。
と、まぁそんなわけだが2人はシュミレーション訓練を終えたばかり。
ウィルは、これまでどおり機体操縦と、槍系の武装を各種試している。
対してランケアも、シュミレーター内ではあるが、”槍塵”に搭乗するようになっていた。
「しかし、ランケアの専用機ってかっこいいっスね。あんなにピョンピョン飛び回れるんスから」
「あれが”槍塵”の持ち味ですから。逆に言うと、引き出せないと設計者に申し訳ないくらいです」
「クレアさんっスよね。俺たちの訓練、いつも見に来てくれてるし、仕事熱心で尊敬っスよ」
「あの人の場合、趣味と実益兼ねてますから」
ランケアはシュミレーター内だけとはいえ”槍塵”の扱いをほぼ完璧にこなしつつあった。
仮想訓練とはいえ、その精度は実戦に匹敵する。
ウィルも1度、達成難易度”救いのない地獄モード”で訓練を行ったランケアの様子を見たが、
……あれ、人間にクリアさせる気がないッスよね?
仮想の敵として設定されているのは、西国量産機”アルフェンバイン”。
武装がランダムで、しかも15種類をその場で切り替えて撃ってきたりする。
装甲レベルもマックスで、間接部ぐらいしか攻撃の通る箇所がない。
おまけに、常時ステルス、やや光学迷彩がかったバグ、再現最高レベルの機動性、AI特有の超反応とスキが一切ない鬼畜仕様。
それが、無限に、どこからともなく出現し襲い掛かってくる。
結果的に、ランケアは10分耐えた。
ちなみに、ウィルがお試しで挑んだときは、開始5秒で昇天した。
「南武の歴代ってみんなあんな鬼訓練こなしてきたんスかね」
「そうですね。ボクも実際見たことはないですけど、歴代ハイスコアに今日の数倍近いのがありましたから、たぶん先代のですね」
「数倍ッスか。…もしかしてランケアのお母さんって妖怪かなにかッスか?」
「ははは、きっと人間ですよ。…ええ、たぶん…、ですよね?」
先代の南武当主が、妖怪か人間かの疑惑が浮上しつつある中、ウィルは団子をぱくつき、ランケアはお茶をすする。
「あ、それはそうと俺の方の戦い方ってどうッスか? ランケアの評価を知りたいッス」
「イノシ―――、あ、いえ。直線的で攻撃的なスタイルなんですけど…」
「本音から始めようとした感じが!?」
「いえいえ。ボクの知ってる戦い方の基礎とはまた別ジャンルなのかなって。ウィルさんて、未知数なんですよきっと」
「無理やりフォローねじこまれるとは…まぁ、でも、事実ッスよね…」
ウィルは、ランケアやスズとの稽古を思い出す。
直接戦闘でも、機体戦闘でもまぐれ勝ちすら拾えたことはない。
スタミナが最大の武器であるウィルだが、それに対応し続けたことでスズとランケアの双方にもスタミナがついてきている。
加えて腕の差もあるので、この結果は当然と言えたが、
「むぅ…、やっぱり俺、”槍”は向いてないんスかね? どうスか?」
「それはたぶん、ウィルさん自身でないと決められないと思います。自分に合っているものって、型にはまらないものもありますから」
「槍って振り回しちゃいけないんスか?」
「そうですね。槍は”点”を、刀は”線”をつく武器ですから。どちらも高い精度が必要です。形状でも違いはありますけど、ウィルさんが普段使ってる先端がブレードになってるタイプだと、振り回して有効打が与えられるのは先端のみですし、適当ではないと思います」
自分に合った戦い方とは何か。
ウィルは、何かをつかめそうで、しかし捉え切きれていない。
「あの、ウィルさん。少し気になってたんですが、どうして真正面から戦おうとするんですか? 1体1だから仕方ないとは思うんですけど、太刀筋が正直すぎるのも…」
ランケアの質問に対して、ウィルは表情に真剣みを得る。
「…俺には、向かい合わないといけない人がいるんス。その人は、強いけど、それはすごく危うい強さッス。だからこそ正面から立ち向かわないと、きっと俺の声は届かせられない…」
その言葉には、強い決意が秘められていた。
詳しくは話してはいないが、強さがほしいというウィルの意思は確かにあるのだと、そう思わせる。
ランケアは、深く問おうとはしない。
「ウィルさんに合うもの、見つかるといいですね」
ランケアが、そう言って笑顔でウィルを見つめる。
「む!?」
ウィルは、そのスマイルを見た。
可憐だ。
小柄で華奢なランケアが、正座した膝上にちょこんと両手を乗せている。
首を少し傾けて、こちらを見つめてくる。
癒し効果は抜群だ。
……なんという美少女…!
無駄に丁寧な化粧は、罰ゲームで女装させられる内に、本人が慣れてしまった不本意の産物。
しかし、女装だと分かっていてもこの破壊力。
笑顔でさらに倍増し。
というか見るたびに進化してるような気がする。
「く…! ときめくな、この心…!」
「あの、ウィルさん。心が自然と脱線してません?」
そんな話をしていると、
「―――ん? なんだ休憩かお前ら」
声が聞こえた。
見ると、隻眼の侍がいた。
ムソウだった。
「ここの団子うまいよな。おーい、店員のかわい子ちゃん。俺様にも一皿くれ」
店の置くから、はーい。ただいま、と返答が来て、数秒後に笑顔の店員が一皿置いていく。
ムソウは、1串手に取り、ほおばる。
「この弾力、いいねぇ。昔のままだな、おい」
「ちょうどよかったッス。ムソウさんに質問したいッス」
「なんだよ。我が弟子」
「俺って”槍”向いてるッスかね?」
「今のところは向いてねぇんじゃね? だはは」
「笑って言われた!?」
やや、ショックを受ける。
しかし、食べ終わった団子の串を皿に置いて、ムソウは言う。
「今のところはって、言ったろ。だいたい、武器を使いこなすってのは相当訓練つまないとだめだ。だろ? ランケアちゃんよ」
「君づけでお願いします。…っと、そうですね。それは確かです」
「ウィル、武器の扱いに慣れろとはいわねぇよ。ただ、自分の戦い方を見つけりゃいい」
自分の戦い方、という言葉にウィルはいろいろと考える。
武器は人に力を与えるのは当然の理屈だ。
しかし、今のウィルはただ持って振り回しているだけ。
だからこそ、使いこなすことが必要だと思っていた。
だが、
……違うんスかね。
確かに、ランケアほどの技量を目の当たりにすると、武器というものにどれほどの奥があるのか今だはっきりとしない。
基礎があり、応用があり、発展がある。
基礎すらままならないウィルいとって、使いこなせるのはいつの日やら、という状況だ。
「ランケアの強さは、基礎から練り上げられただろ? それはあくまで基礎に則った強さだ。見つけてみろ、自分の強さのある場所ってのを」
「う~む。難しいッス」
「じゃあよ、優しい俺様からヒントを出してやる」
「ヒント?」
「俺様、実は剣術は基礎すら知らねぇってことだ」
「あ~、それはよく分かるッス」
ムソウとランケアの模擬戦を1度だけ見せてもらった。
ムソウの戦い方はめちゃくちゃだ。
木刀を投げたり、目くらまししたり、投げ技使ったり、相手の尻をさわったり。
ありとあらゆる手段をつかって相手に挑む。
なんというか、
「姑息ッスよね」
「はっきり言いやがるな。この野郎」
とういうも、ムソウは気分を悪くした様子もない。
むしろそのことを言ってきたことに満足しているようだ。
「よく見て、わかってるじゃねぇの。それなら、自分の戦い方ってのを見つける日も近いだろうよ」
そう言って、ムソウが2本目の団子をほおばる。
すると、
「―――お、なんじゃその白い玉は!? なんかうまそうじゃ!」
また別な声が聞こえた。