6-5:中立の介入者
”西”と”東”。
双方の積み重ねる歴史の中に、現れた第3勢力”中立地帯”。
世界から外れた者達を受け入れる3つ目の場所。
小さな支配面積でありながら、その存在はもはや2大国にとって無視できるものではない。
それは、勝者と敗者の間に立つ。
勝利と敗北以外の結果を内包して。
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中立地帯からの介入者を目にして、スズとアンジェは同時に戦闘を中断する。
ヴァールハイトを中心に3者に距離が生まれる。
「―――返答をいただこう。東の”長”、東雲・スズ。そして、西の”王”、アンジェリヌス=シャーロット」
2人の攻撃の間に立ち、受け流して見せたヴァールハイトは、普段どおりの淡白な口調でそう告げた。
問われた2人にあるのは、僅かな困惑。
しかし、すぐに思考を持って応じる。
「…守銭奴。平等な立場と言ったな。それは、この先において必要な話を、そなたが持っているということか」
「解釈は自由。しかし、私自身はそう考えている」
どこか調子を外す口調。
しかしそれがヴァールハイトだ。
真意を見せず、相手を量る。
有益であれば取引をする。
損だけなら交渉自体を行わない。
……商魂そのもののような男じゃ。
アンジェはそう思う。
すると、今度はスズが尋ねる。
「ヴァールハイト殿。これは、ある意味で越権行為であるかと。中立地帯とは、あくまで”交易”のみの取り決めであったはずです。この介入でそれを揺るがしにきた、と見ても?」
「その通り。これまでの関係ではいられない状況に陥りかけている」
ヴァールハイトは、そういうとメガネのフレームを真ん中から押し上げ、さらに続ける。
「私の言葉としてならば、”世界を解きに来た”と言おう」
「世界を解く…?」
「どういう意味じゃ」
「―――”沈黙”を破る必要がある」
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ヴァールハイトは、1つの提案をする。
歴史上、初めてであろう”西””東””中立”3国の会談。
そこで、互いの全てを打ち明けるべきと言うのだ。
―――今抱えている世界の間違いを正し、在り方を修正する。
それぞれの開示を経て、真実を明らかにする。
打算あるままに、解決するべきことは何もない、と。
しかし、スズもアンジェもヴァールハイトの提案に初め難色を示した。
というのも、
―――こいつ、今度はどんな商法で稼ぎにきたのだろう。
とまあ、そんな疑いからである。
金の亡者は信用されてない様子。
と、思われていること自体は、ヴァールハイトも特に気にせず、涼しい顔。
商魂はたくましく、ではなくアグレッシブ商人で。
だが、ふと口にした単語が場の流れを変えた。
”狂神者”
”東雲・イスズの死”
前者には当然、アンジェが反応する。
西にいつからか根付く正体不明の勢力。
彼らの最終の目的についての情報を得たという。
そして後者はスズの興味を引く。
かの父の死に、”狂神者”が繋がっている、と。
―――全ては1週間後だ。
そう言い、両国の興味をちらつかせつつ、中立地帯の代表たる男はその場に幕を下ろす。




