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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(西国編:全24話)
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5ー23:”最速”の空 ●

 リノセロスとアキュリスが一定の高度に達すると同時に、同方向へと加速する。

 ある程度の距離を放しているのは、リノセロスにとって不利になりやすい近接戦へと持ち込ませないためだろう。

 前のときと同じだ、とアインは感じた。

 かつて、仮想訓練でリノセロスに搭乗したことがある。

 初めて乗ったとき、機体の巨大さを制御できず失速や墜落を繰り返していた。

 しかし、リファルドは実在のリノセロスを初めて扱った時から、すでに乗りこなしていたと言う。

 訓練を重ねることで、リノセロスを操ることができるようになったと言っても、所詮は仮想の世界での出来事。

 そして、今、並行している実在のリノセロスと戦闘に入ろうとしている。

 いや、すでに並行していない。


 ……やはり、速い…!


 アキュリスの出力はすでに最大まで上げている、それにも関わらずリノセロスは先へと飛んでいた。

 浮遊機関が特殊であるのは、両機とも変わらない。

 開発者のキアラは言っていた。


 ”アキュリスは、理論上はリノセロス以上の速度が出せるはずです。S1さんなら、きっと引き出せるはずです。最速騎士を越える可能性を持つあなたなら”


「…っ!」


 アインは、ペダルを踏み込み速度をあげる。

 そして、師の声が来る。


『アイン。心しなさい。この先、速度にならなければ墜ちるのみ…!』

 

 ついていくので精一杯の状況でも、アインは応える。


「今日こそ、私はあなたを越えます…!」


 リノセロスが飛翔翼を、アキュリスが背面のスラスターを。

 両者がほぼ同時に可動させ、空気抵抗を利用した変則軌道に入る。

 武装のセーフティ解除も同時。

 銃口を向けるのも同時。

 夜空に、戦闘を開始する閃光が奔った。



「―――空を指差した…」


 アンジェはモニター越しに、巨大な鳥と翼を持った人が同時に加速するのを見た。


「リファルド、どうして黙っていたのじゃ…。父君の残した謎の意味の解明を、己の罪として背負い続けようとしていたのか…?」


 アンジェは、思考する。

 父は、何と戦おうとしていたのか。

 敵は、東ではない。

 何かがこの世界には隠されている。

 自分は生まれてきてからのことしか分からない。

 西の史実もまたその起源は曖昧。

 始まりは、はるか昔で、そこに何かがあるというのか。


「勝て。リファルド」


 全てを明らかにするために、”東”へいく必要がある。

 分かたれたものが合わさらなければ、何も知ることは出来ない。

 だから、


「勝て…! その翼に誇りを持って!」



 月夜に、爆発が生じた。

 開始の示し合わせとなった射撃において、落とされたのはアキュリスの武装である”レーゲン・ボーゲン”であった。


「く…!」


 プラズマ粒子の機構を内蔵した試作ライフルは、威力こそ強大だが、被弾に対しては脆い構造になっている。

 銃身に敵弾を当てられた時点で、アキュリスは迷いなく武装を手放していた。

 後方に爆発を置き去りにして、2機は再び加速する。

 仕切りなおしに持ち込みたいアキュリスに対して、リノセロスはすでに次の動きに入っていた。

 

 …ミサイルか…!


 牽制の射撃を行うリノセロスが、機体各所にあるミサイル発射口を展開する。

 その数、合計55箇所。

 射出音は、すでに響いていた。

 発射瞬間に安全装置を解除されたミサイル群が、白く細い尾を引いて高速でアキュリスへと殺到する。

 それらは、どれも追尾機能を有している。

 殲滅に特化し、大火力を有するリノセロスから放たれた破壊の先達に対して、アキュリスは対抗策を投じる。

 肩部側面に搭載していたデコイを切り離し、起動させたのだ。

 わずかに赤い光を発したそれは、ミサイルの追尾を一身に引き受け、炎の中に砕け散る。

 残りのミサイルは、追尾目標を見失い、でたらめな方向に飛び去っていく。

 その間に、両者は動いていた。

 アインは、リノセロスからの捕捉を振り切るために機体を奔らせた。

 選んだのは急降下。

 機体を回転させるように、下方に向け、そして、ブースターを一気に加熱させる。

 

 ……来るか…!


 来た。

 ミサイル群の第二派が。

 先ほどと同数の55発。

 機体サイズを考えると、一撃でこちらを落とせる威力を有している。

 リノセロスのミサイル装弾数は2200発。

 つまり、55発の全弾発射を役40回行うことが可能。

 対して、アキュリスの搭載しているデコイはわずかに3発で、すでに残りは2発。

 到底及ぶものではない。

 

 ……なら!


 アインは直下の森林に対して、肩のミサイルコンテナを開放し、斉射する。

 樹木に突き刺さったミサイル群は、膨大な熱量を生み出し、こちらを追ってきたリノセロスのミサイル群に対して、即席のデコイを形づくる。

 熱探知は、いきなり出現した熱の塊に真っ直ぐに突っ込んでいき、熱破壊の範囲をさらに拡大させた。

 第二派を退けると同時に、アキュリスは地上を背に、上空の巨体に向けて方向を転じる。

 炎上した森林は、熱探知に対してこちらの身を隠す壁となる。

 対してリノセロスははるか上空にいる。

 澄み切った空に、巨大な熱反応が1つ飛んでいる。

 アインが相手を補足するのは一瞬。

 操作に応え、アキュリスが反撃のミサイルを放った。



 リファルドは、アキュリスが、熱反応の海に隠れたことで追撃が不能になったことを悟る。

 そして、モニターには警告と共に、ミサイル群が迫ってきている。

 

 ……良い対応です…!


 リノセロスが、追撃体勢から回避体勢に移行する。

 加速と同時に翼を閉じ、高速で飛翔する。

 ミサイルは当然追いかけてくる。

 冷たい温度の中にある、膨大な熱量はごまかしようもなく巨大だ。

 リノセロスにはデコイがなく、一度追尾兵器に捕捉された場合自力で振り切るしかない。

 リファルドは、それを心得ている。

 長年の愛機の弱点も、利点も、長所も、火力も全てを把握しているのだ。

 


 おそらく振り切られる、とアインには分かっていた。

 そして、それは予測どおりの結果に終わる。

 高速の巡航形態となったリノセロスは、ミサイルとのレースに打ち勝ち、再び翼を広げ戦闘形態へと移行する。

 その間アインも次の行動に移っていた。

 上昇し、熱の海から飛び出すと、再度捕捉をかける。

 アキュリスの優位な点は人型であること。

 細かな旋回性能は、リノセロスとは比較にならないほどに俊敏だ。

 なら、リノセロスが旋回を終え、再度こちらを捕捉する前に先手をとる。

 しかし、高速飛行するリノセロスを遠くから捕捉するという行為は、実は西国内でのシュミレーション上でも成功した者がいない。

 機械による自動照準では追いつかないほどに、リノセロスの速度は圧倒的なのだ。

 この場合で頼れるのは、個人の感性のみ。

 しかし、アインにとっては、その難易度すら意識の外だ。

 出来ないなど、考えもしない。

 必要ならそれができる。

 それこそ、アインの天性の才だった。

 見る先で、リノセロスがこちらに機首を向けてくる。

 向こうもすでに、捕捉に入ろうとしている。

 だが、こちらの方が早い。

 いや、すでに終えている 


 ……捉えた…!


 トリガーを引く。

 赤い熱源に向け、ミサイルが全弾吐き出され、突撃する。

 こちらに向かってくる体勢のリノセロスは、避けきることはできない。

 だが、


「な…っ!」


 アインは見た。

 リノセロスは、こちらに直進することをとめようとはしない。

 再び翼を閉じ巡航形態になると、加速をそのままに高速回転して突っ込んできたのだ。

 殺到していたミサイル群も、その回転に弾かれて、周囲に爆発の花を咲かせた。


 ……巨大な質量を回転させて武器に…!


 防御とゼロ距離の弱さを同時にカバーし、同時に攻撃としても有用なリノセロスの、いやリファルドの奥の手だ。

 リノセロスに搭載された特殊な浮遊機関と、彼の柔軟な発想があってこその裏技とも言えた。

 

「く…!」


 アインは機体をひねるように回避運動をとらせた。

 暴風弾と化したリノセロスをすれすれで回避し、そして、


「がっ…!」


 吹き飛ばされた。

挿絵(By みてみん)


機体名:アキュリス


戦闘法:高機動射撃戦


特記:実戦型試作後継機

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