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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(西国編:全24話)
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5-20:託される”希望”【Ⅲ】 ●

挿絵(By みてみん)

 周囲に展開していた”花弁ブルーメ・ブラット”の機能停止を確認した機械兵ウィンドラス達が、一斉に武装を構える。

 最初に攻撃をかけたのは回転機関砲ガトリング

 容赦のない火線の集中砲火で、対象の排除にかかる。

 硝煙によって視界が満たされていく。

 だが、

 

 ―――!?。


 次の瞬間、無数の刃が飛来した。

 避ける間もない瞬間的な刃の射撃は、正確に回転機関砲ガトリングを持った機械兵ウィンドラスのみを真っ二つに両断する。

 自身すら砕ける威力に、射撃に用いられた”花弁ブルーメ・ブラット”は自壊する。

 近接武装を持った機械兵ウィンドラスが、硝煙に包まれた向こう側にある存在を認識する。

 なぜ?、といった疑問は浮かばない。

 ただ、そこにいる対象をそのままに捉える。

 男の左目は、紅い色彩へと染め上げられていた。


 ―――排除対象、健在。外観、一部差有。任務続行可能。継ぞ―――


 そこで、機能が断ち切られた。



 エクスは、意識のないユズカを抱えて立ち上がる。

 その顔は眠るように穏やかだった。

 疲れ果てた子供が、父親の腕に抱えられ、安心しているかのような寝顔だった。

 

 ……ここから出るぞ、ユズカ。


 周囲には、近接武装を構えた機械兵ウィンドラスがいる。


「…どけ」


 静かな一声だった。

 それを引き金に、血に落ちていた”花弁ブルーメ・ブラット”が、一斉に再起動し宙に舞い上がる。

 それは、ライネの左目にあった紅の義眼”アフマル”と同等のもの。

 兵器との精神同調。

 タイムラグなしの完全制御を成しえる技術の結晶。


「…消えろ」


 思考に反応した”花弁ブルーメ・ブラット”が機械兵ウィンドラスを蹴散らす。

 比較のない金属の暴風の化して、搬入口内全てを射程範囲とする。

 エクスは、ただ歩いていく。

 ユズカを抱えて、出口に向けて、当たり前のように。

 しかし、敵を見ていないわけではない。

 見えているのだ。

 振り向くこともなく。

 そこにいるだけで、360度の視野を発揮している。


「…飛べ」


 言葉と同時に、鉄の嵐が周囲に向けて一斉に、弾けるように拡散する。

 それも、ただの拡散ではない。

 1つ1つが、正確な射撃と化して敵を狙い、切り裂いていく。

 空間認識の前に、一切の遮蔽物は意味を成さない。

 全てを見透かしているかのように、潜み、奇襲を狙っていた機械兵ウィンドラスですら逃さず、破壊する。

 

 ……俺は、もう立ち止まらない。


 エクスの先に、金属製のシャッターが立ちはだかる。

 外と内を隔てる最期の壁。

 しかし、それはもはや障害ではなかった。

 エクスが声を飛ばすこともなく”花弁ブルーメ・ブラット”が数枚、シャッターに突き刺さり、それすらもいともたやすく引き裂く。

 切り開かれた穴を抜け、ついに外に出る。

 光を見た。

 街灯の明かりだ。

 エクスはユズカと共に歩いていく。

 後ろにあった機械兵ウィンドラスの戦力は、すでに全滅していた。

 だが、


「…しつこい奴らだ」


 エクスが引き裂いた搬入口のシャッターが、内側からさらなる力によってこじ開けられていく。

 それは、巨大な鋼鉄の人型の腕。

 搬入格納庫内にあったコンテナの中にあった人型兵器のシステムを一部の機械兵ウィンドラスがジャックし、起動させたのだ。

 遠くに退避するにも、ユズカを抱えたままでは間に合わない。

 当然、ユズカを捨てる気などない。

 約束したのだ。


「…後は俺の役目だ」


 そのとき、


『――ーエクスさん!』


 空から声が飛来する。

 エクスが、空を見上げる。


「”ヘヴン・ライクス”…。リヒルか…!」


 空から、ブレードスラスターを閃かせて降りてくる人型があった。

 地におりた”ヘヴン・ライクス”は、片膝を落とし、コックピットを開けた。

 

「エクスさん! ユズカさんは…!?」

「お前に頼む。連れて行ってくれ」


 そう言い、力のないユズカの身体を、降りてきたリヒルに託す。


「エクスさん! あなたも乗ってください! ここを離脱します! 上空にステルス状態で母艦を待機させてます! 急いで!」


 だが、その言葉にエクスはすぐに頷かなかった。

 ただ一言、


「まだ、やっておくことがある」


 そう言った。

 そのとき、上空から新たな機体が飛来した。

 エクスの前方に落ちるように着地した人型の巻き起こした風が、リヒルの長髪を巻き上げる。

 その機体の姿を見て、


「うそ…、どうして…?」


 リヒルは目を丸くした。


「どうして、”リユニオン”が…!?」 



「”ナスタチウム”!どうして、”リユニオン”がここに!?」


 リヒルは、手首の端末に声を飛ばしていた。


『緊急連絡! エマージェンシー! ナスタチウムからキンキュー! 格納庫内において、異常発生! 無人でロボが、うおーっ!、ってなっ、こちらがうひょー!』

「意味がわかりません!」

『”ソウル・ロウが・(リユニオン)”の自律起動を確認! 原因不明! 全くわけがわからんぞ! 格納庫の扉を、ふんぬっ!、とぶっ壊しそうな流れだったので、単独判断で開放!』


 自律起動…?、とリヒルが呟く中、すでにエクスは”リユニオン”に乗り込んでいた。

 まるで、自分の機体と分かっているかのように。


「エクスさん…!」


 リヒルの制止は届かない。

 その視線の先で、蒼い機械の巨人は立ち上がっていく。

 目覚めの時を得たのだ。

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