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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(西国編:全24話)
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5-20:託される”希望”

 エクスとユズカは、慎重に通路を進んでいく。

 ライネの死、ユズカの存在、ファナクティの変貌、”絶対強者”の存在。

 どれも、急激な変化だ。

 唐突に明かされていく真実の数々。

 世界の裏。

 ”神”の存在に触れ、整理をつけるにはまだ時間がかかるだろう。

 だが、今は己のすべきことを再確認しなければならない。

 だからこそ、ユズカに質問を飛ばしていた。


「…ファナクティは、自分を殺せば、未来は変わると言った。それが間違いだとう言うのか?」


 その言葉に対して、ユズカは首を縦に振る。

 肯定だ。


「そう、何も変わらないわ。ファナクティが死のうと、歴史はまわり続ける。誰かが”ファナクティ”と同様の役割の全てを引き継いでいく。だからこそ、私達が互いを把握できているこの状況が最も理想的で可能性のある状態なの。滅びの先端は必ずくる」


 ならどうする、と問う。

 この状況を崩さずに、どうやって変化を起こすというのか。

 するとユズカは言った。

 一言、単純よ、と。


「”時間かみさま”が代役を用意できない人物の運命を変えるのよ」

「代役がいない…?」

「そう。その者の運命が、決められた場所で果たされて時間は固定されていく。時間における特異点、私は、いえお母さんはそれを”鍵”と呼んでいた」

「”鍵”だと?」

「歴史を、この時間を滅びのレールから外し、新たな誰も知らない未来のドアを開く”鍵”。それはファナクティじゃないということよ」


 ファナクティが死んでも未来は変わらない。

 ”神”は新たな代役を立てる。


「…なら、アウニールか…」


 エクスは、人形のようなあの少女を思い出す。

 彼女が”サーヴェイション”の中枢と分かった以上、それを排除することで未来が変わるはずだ。

 だが、違う、とユズカは否定する。


「違う。彼女もまた、代役が置かれる存在に過ぎないわ」

 

 アウニールすら。

 ”サーヴェイション”の中枢となる少女ですら”鍵”ではない、というなら一体誰だ。

 歴史の流れを固定している者とは。


「私は、本当の”鍵”を知っている。そして、あなたも出会っているはずよ」


 出会っている、という言葉にエクスはピンとこない。

 だが、その前にふともう1つの疑問が浮かぶ。 


「先に訊いておきたいことがある」

「なに?」

「ファナクティは、俺を”全てを壊せる時間のバグ”と言った。俺だけが”この世界で時間という神に囚われていない存在”ともだ。それはどういう意味だ?」


 その質問に対して、ユズカは返してきた。


「あなたは、誰かしら?」


 唐突な質問返し。

 何か意図をはらんでいるのかとも思い、エクスは思考を深めるが、答えはユズカから出た。


「”エクス=シグザール”でしょう? それ以外の誰かでもない。どういう意味か理解できる?」


 どういう、といいかけてエクスはハッとなる。

 そして答えを見出す。


「そうだ。俺は、過去において他の誰でもない…、俺自身のまま存在している」


 エクス=シグザールは過去に存在しない人物。

 そして、男。

 ファナクティの示した”時間の修正による干渉を受けない条件”に該当しない。

 なのに自分という存在を保ったまま存在している。

 気づいたようね、とユズカが告げる。


「あなたは、この世界において”時間かみ”の干渉を受けない存在。あらゆる人物のなぞる運命の全てを無視して行動できる。何者でもないからこそ、”神”にとって死角にあることができている」


 しかしなぜ、と新たな疑問が浮かぶ。

 過去に転移したというのに、なぜ自分だけが特別な存在であるのか。


「あなたは”箱舟”を使って転移したわけではないからよ」


 ユズカが告げていく。


「はっきり言って”箱舟”の転移という行為自体は、”時間”の流れにおいて正しい流れだったということ。その中で起こった誤差を、”神”は修正した」


 でも、と言葉が続く。


「あなたは”箱舟”を使わず、この世界に来た。”ソウル・ロウガ”を箱舟の代わりとして時を越えた。それはある意味で”神”の力に等しい奇跡イレギュラーだったのよ」


 ”箱舟”以外を用いた転移。

 あの世界が終わる日、次元の裂け目に死ぬ覚悟で飛び込んだことで奇跡イレギュラーが起きた。

 

「だからこそあなたは”正しき歴史の破壊者”になれる。あなたが”鍵”の運命に干渉することで初めて”滅び”の未来が回避される可能性が生まれるということよ」


 ”滅び”とは、正しい歴史。

 始まりあるものには、必ず終わりがある。

 森羅万象のたどり着く絶対の結末。

 エクス自身が知る滅びを回避したとしても、新たな滅びはいずれ訪れるだろう。

 だが、


 ……俺は、世界を救う気などない。


 エクスは、その意思を持つ。

 これは復讐だ。

 ”神”に対する反逆。

 不条理な正しさを認めない人間としてのエゴ。

 だが、それが自分で決めた、自分の新しい道だ。


「―――待って」


 ユズカが最期の角を曲がる前に足を止めた。


「着いたわ。搬入口よ。外に出るにはうってつけね」


 2人はついに脱出の目前まで来た。

 だが、


「…機械兵ウィンドラス共か…」


 搬入口の出口は、すでに固められていた。

 その数20体前後。

 未来においても、歩兵のみの突破は諦めるレベルの数だ。

 しかし、


「…ユズカ、いけるか?」


 エクスは確認する。

 突破できるかどうか、ということではない。

 頭の中で後退など微塵も思い浮かんではいない。

 自分についてこれるか、という確認だ。


「強行突破でしょう? そういうと思ったわ。私も、今そっちの方面で提案しようと思っていたけど先を越されたかしら?」


 ユズカもまた意思を同じくしていた。

 不適な笑みが重なる。

 

「俺が出る。武器は?」

「奪いなさい。得意技でしょ?」

「フッ、だな」


 ユズカが、”花弁ブルーメ・ブラット”を稼動させ、エクスが飛び出すタイミングを図る。


「ユズカ、俺の生きる道に力を貸す気があるか?」


 かつて、未来で同じようなやり取りをした。


「無論。あなたは前を見なさい。進むことだけを考えなさい。己の成すべきことを見出したなら、私はこの力を振るうことを惜しまない」


 あの時は見送るしかなかった。

 しかし、今は違う。

 共にいる。

 隣に、守るべき者がいて、自分もまた守られている。

 だから、


「仕掛ける…!」


 今度こそ―――

  


 ”西”の空。

 高度300メートルにその戦艦は浮上していた。

 加速に特化した機動翼は、今は広げられた状態で、滞空の姿勢制御に用いられている。

 先端は、鳥のようで、角のない竜の頭部とも見える形をして、全体が細長く、空気抵抗を逃がしやすい設計になっている。

 ”ナスタチウム”

 ユズカによって、秘密裏に設計、建造が進められていた新造艦。

 強力した人々には、単なる新造艦であるとしか伝えていない。

 艦の操舵、運行に必要な内部機構の調整、火器管制まであらゆる根幹となるシステムを統括する中枢AI”ナスタチウム”。

 全てユズカの知識によって構築され、今乗っている人員が例えリヒル1人であろうと、問題なく運用できる。

 しかもこのAI、学習能力が非常に高い。

 それを象徴するのが、


『リヒル様、ナスタチウムは疑問ですが、BLとGLという単語はなんの略なのでしょう? あ、いえ、何しろ目が覚めたばかりで、巷で流行ってるネタとかに疎いことこの上ないのです。ナスタチウムは現代っ子に返り咲きしたい年頃なのです。0才で末恐ろしいとか、いろいろ思われそうですが、やはり好奇心はとめられないもの。まさにゴッドスピードで学習中ナウなのです。はい。しかしこういう傾向は、むしろ開発者、もとい生みの親であらせられるユズカ様の無意識的部分、砕いて言えば”あ、これ面白いんじゃね?”見たいな思いつきで設定されたものでもあると―――』


 よくしゃべる。

 まあ、こうもぺらぺらと言葉が出てくる。

 もっとも、数時間前に起動した時は口数も少なかったのだが、その間にいろいろ学習したのだろう。

 

 ……未来の技術、か。


 ユズカを”魔女”たらしめている知識。

 それは、本当に未来からもたらされたものなのだろうか。

 しかし、目の前にある”ナスタチウム”はこれまで見たこともないことを実現し続けている。

 だいたい、戦艦の操作が自分1人で行えていること自体、不思議な気分だ。

 

 ……未来の戦艦って、こんなにしゃべるんですかね?


 と、疑問に首をかしげていると、


『あ、通信が届いてますよリヒル様。開けてもいいのでしょうか?』

「あ、はいお願いします」 

『……』

「あれ、どうしたんですか?」

『いえ、もしウイルス入りだったら、ナスタチウムは風邪をひいてしまうのではないかと。戦艦を診てくれる医療機関とか心当たりありますか?』

「自力で治してください。さっさと開ける」

『戦艦づかいが荒いですね。リヒル様』


 と、ぶつくさ言いながら、”ナスタチウム”は通信を開ける。

 

『……リヒル、うまく逃げてきた。アンジェとリファルドも一緒』

 

 シャッテンの声だった。

 音声のみだが、まずは無事であることに胸をなでおろす。

 今宵”王”が命を落とす。

 その運命の回避にはほぼ成功したと言っていい。

 

「ありがとうテンちゃん。”ナスタチウム”も無事に起動できてるよ。今、ステルス状態で待機中だから、座標を送るね。”ナスタチウム”、お願いします」

『了解です。おっと、メガネメガネ』

「ボケはいいですから、さっさとしてください。どこにかけてるんですか、メガネ」

『ちょっとしたユーモアーンも必要かと思いまして。あ、座標は送っているので、ご心配なく。ノープロブレム。ナスタチウムは頭の柔らかいAIを目指してます。今後とも応援よろしくお願いいたします』


 リヒルは、適当に流しながらもう1つの空間ウインドウを見つめた。

 ずっと映り続けているのは、この艦内にある格納庫内の映像。

 そこにあるハンガーに固定された蒼い人型兵器を見つめなおす。 

 今のところ、綱渡りだが全てうまくいっている。

 あとは、


 ……ユズカさんと、エクスさんが無事に帰ってきてくれれば…。


 正面、巨大な鋼鉄の鳥が姿を視認する。

 ”リノセロス”だ。

 巡航形態で、こちらに向かってきている。

 最も、ナスタチウムの全長は200メートルほど。

 現存する戦艦と比較しても非常に小型だ。

 収容はできないが、戦艦下部に”リノセロス”を接続して牽引できるよう、リヒルは”ナスタチウム”に指示を出した。


「”リノセロス”牽引接続完了後。転身、ユズカさんとエクスさんの脱出に合わせて回収。離脱し、”東”に向かいます。”ナスタチウム”、万が一に備えて、私の機体を出撃状態にして待機しておいてください」

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