表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(西国編:全24話)
144/268

5-13:”神”【Ⅱ】 ●

「子供…だと?」


 エクスは、その言葉の意味が分からない。

 いや、意味は分かっている。

 理解が追いついていないだけだ。


「何を呆けている? ”子供”くらい知っているだろう? 基地にもたくさんいた」


 ファナクティは、ふっ、と笑い、再び歩き始める。


「1つの身体に2つの命がある。それは神が与えた女の特性だが、しかしその絶対的な創造主すら手の出せない”奇跡”というわけだ」

「待て。どういうことだ」

「人でありながら、人を、その命を創造する女性は、”神”に等しい存在と認められている」


 少し歩幅を大きめにエクスはその背を追う。


「具体的に言ってほしいか? エクス。ライネはお前との間に子を授かっていた」


 子供…、とエクスは呟く。

 だが、やはり理解は追いつかない。


「なぜ、ライネは子供を…?」


 エクスの一言に、ファナクティが足を止めて振り返った。


「なぜ・・・と言われてもな。そういう行為に及んだからではないのか? 身に覚えがないわけではあるまい」

「そういう行為…とはなんだ?」

「……」


 その言葉に、ファナクティは半目になる。

 そして、少し呆れ気味の口調で、


「まさか、子供の成り立ち方を知らないわけではあるまいな?」

「知らん」


 エクスは、即答した。

 当たり前だろ、と。

 ファナクティは、ため息をつきつつも、思い出して納得する。

 エクスは、元々機動兵器を動かす”部品”として育てられたのだ。

 それ以外の知識を与えられず、極端に偏った人間だった。

 彼にとって考えること、焦ること、他者とのコミュニケーションをとることの全て、ライネとの出会いから与えられたものなのだ。


「見かけによらん奴だ。お前らしいといえばそうだが、少し関心できんな」

「……」


 ファナクティの一言にどこか責められているような気がした。

 だが、知らなかったのだからどうしようもない。


「このままついてこい。奥に行けば、その”子”にも会えるだろう」



 リヒルは、暗い部屋に立っていた。

 金属の床。

 目の前にある自分の顔が写る鏡。

 いや、鏡ではない。ガラスだ。

 リヒルは、戦艦の中にいたのだ。


 ……あまりに突然すぎます。でも…


 リヒルは、目をつむり、アインのことを思い浮かべる。

 抱きしめてくれた彼の温もりを思い出し、自分の身を抱き、そして、


「―――”ナスタチウム”、起きてください」


 声を発した。

 すると、周囲の機器が一斉に明滅し、一瞬の後全てが起動していく。


『おはようございます』


 ブリッジ正面の宙に光る文字が浮かび上がり、朝の挨拶をした。


『危機ですか? イタズラですか? 後者なら”ナスタチウム”は安心です』

「いえ、前者です」

『なら、”ナスタチウム”は決起します。力を持って、役目を果たします』


 文字のみで、己の意思を示した”ナスタチウム”は、次の一言を告げた。


『―――指示をリヒル様』


 リヒルは、指示を告げる。


「艦の全機能の立ち上げを開始。そして、あの機体の完成状況はどうですか?」

『現状において、”80%”と、ユズカ様は言っておられました。しかし、”ナスタチウム”としては、すでに役目を果たすに充分である状態、と告げます』


 ”ナスタチウム”は、空間ウインドウを展開。

 それは、この艦にある格納庫の映像。

 そこにあるハンガーには、巨大な人型の影がある。

 蒼い装甲を持つ機動兵器。

 ”彼”に与えられるべき力は、そこで目覚めの時を待つ。

 


 エクスは、暗い部屋へと通されていた。

 明かりは、巨大な入り口からさすのみ。

 それも暗く、先は見えない闇。


 ……ここに、ライネ達がいるのか?


 そう思いながらも、エクスはその実感が持てない。

 なぜだろうか、と考える。

 ファナクティの方から、自分へと接触を図ってくれている。

 なら、それでいいはずなのに。


「…エクス、お前は自分の意思で何かを決めているか?」


 ふとファナクティが尋ねてきた。


「自分の意思…? そんなもの、誰もが持っていることだろう」

「そうだな。そう思うのが普通だ。誰もが”自分の考えは自分のものである”と無意識に思っている。しかし、それは正しいことだろう。しかし、それを偽りと捉える考え方もある。全ては”神”がしゃべらせていることだ、と」

「偽り…?」

「”神”は全てを平等に見る。そこには”善”も”悪”もなく、曖昧に見ている。しかし、もしそれが1人を対象に向けられたとすればどうなると思う?」

「何を言っている?」

「未来で我々が直面した、滅びが人類の迎える正しい”結果”であったとして、それを乱そうとする者に対して、”神”はより確実に何をすると思う?」

「鉄槌をくだす、とでもいうのか?」

「それは人間の考えだな。罪には罰。それは、”法”によって左右される価値観だ。”法則”では”死”は罰とならない。人間は、放っておいてもいずれは死ぬからだ。つまり、”神”にとって”死”を与えるとは単なる手段に過ぎないということになる」


 エクスは、ファナクティの言うところが分からない。

 だが、ふと思った。

 唐突に、自分の頭の中だけでは答えがでなかった。


「…ファナクティ。聞いていいか」

「なんだ?」


 ”神”による修正が及ばなかった数人は、言うなれば”総数”からあぶれた者達。

 平等に見られるべき対象から外れてしまった者達は、


「その数人は、どうなった?」


 その言葉を聞いてか、ファナクティが足を止めた。

 エクスはかまわず続けた。


「ファナクティ、お前はいったい……今、”誰”として存在している?」


 ファナクティの沈黙は続いた。

 これまで、エクスの質問に滞りなく答えてきた男が、何も言おうとしない。

 そして、


「”サーヴェイション”、”狂神者”、”絶対強者”。これらは、全てこの時代から始まったのだ」


 不意に現れたその言葉に、エクスが目を見開く。


「なに…? ”サーヴェイション”だと?」

「エクス、お前はなぜ”アウニール”という少女を殺さなかった? 遭遇し、”ブレイハイド”に内蔵された”サーヴェイション・システム”を見たお前なら気づいたはずだ。いや、気づかずとも、感づいていたはずだ」

「いきなりなんだ。なぜ、ここでアウニールが出てくる」


 ファナクティは振り返る。


「お前は変わったな。転移前から変わり者だった。しかし、あれから多くに関わり、変わったな」

「何を言っている?」

「お前の予測は正しい。教えよう。”アウニール”という少女こそ、”サーヴェイション”の核たる生体コアとなる運命を背負った者。そして―――」 

「!?」


 エクスは、気配を感じた。

 気配と言うより、動きだ。

 この闇の中には自分とファナクティ以外の何かが潜んでいた。

 そして、それは背後と真上から襲い掛かってきた。

 身をかがめ、横へと身体を飛ばし、側転し、膝をかがめて体勢をなおした。

 先ほどまで自分がいた空間には、ナイフを床に突き立てる長身の人影が3つ。


機械兵ウィンドラス…!」


 エクスの視線の先には、黒いローブを身に纏う無機質な緑光を発する人型がいた。

 計3体。

 いや、まだいる。2ケタはいる。

 闇の中に蠢く緑光が、その数を増していくのが分かった。

 そして、それらはファナクティを襲おうとはしない。

 エクスへと、その視線が向けられてきている。


「ファナクティ…、どういうことだ…!」


 エクスの表情が激昂に歪む。


「勘違いをするな。私は言ったはずだ、”真実を全てさらそう”と。これが真実だエクス」


 ファナクティが、懐から小型の端末を取り出す。


「懐かしい存在に会わせよう。偶然か、奇跡か。もしかすると、”こいつ”が来ることは必然だったのかもしれん」


 端末の操作に従い、とある場所をスポットライトが集中して照らし出す。

 向けられたのは、機体格納のハンガー。

 エクスは、ここが格納庫であったことを知ると同時に、照らし出されたものに対して驚愕するしかなかった。


「なぜ、だ…」


 ”それ”は、ハンガーに固定されているわけではなく、格納庫の壁に背を預け、座り込んでいるかのようだった。

 各部の装甲が脱落し、片方の脚部と腕部は原型を留めておらず、そこにある間に自重で自壊した細かな金属片が”それ”を中心に無造作に散らばっている。


「なぜ…」


 胸部装甲を砕き、貫いている巨大空洞は、エクスが最期に与えた一撃による結果だ。

 エクスは知っている。

 数ヶ月前、未来で決着をつけたはずだった。


「どうして”こいつ”がここにいるんだっ!!?」


 ”絶対強者”。


 未来世界で幾人もの仲間を食らい、全てを壊し続けた巨大な機械の悪魔が、物言わぬ姿でそこに眠っている。

 頭部の奥に光はなく、停止しているのは間違いない。

 しかし、その黒く崩れた存在は得体の知れない意思を感じさせ、エクスの精神を強く締め上げる。

 ”異質”は、この過去世界に来ていた。

 エクスが時間を越えたように、”絶対強者”もまた、時を越え、この世界へと足を踏み入れていたのだ。

 ユズカは言っていた。


 ”このままいけば、また貴方のいた”あの時間みらい”へとつながる。間違いなく”


 何も終わっていない。

 始まってすらいない。

 ファナクティは、目を細める。


「ここからだ、エクス。今宵から、世界の崩壊は進んでいくことになる。”朽ち果ての戦役”を清算できない結果から、人は破滅へと進んでいく」

「ファナクティ…、いや、違う。貴様は…一体、なんだ!」


 エクスは問う。

 ファナクティもまた、過去世界いた”誰か”になっている。

 2つの記憶と2つの思考が混ざりあっている存在なのだ。


「偶然かな。私として合一した過去世界の住人。名は知らない。だが、生い立ちも全てが私と重なっていた。私は、息子の死を受け入れたが、この者はそれができなかった。私は、過去の意志を履行する」


 まさか…、とエクスは思った。

 その予測をファナクティが肯定する。


「”私”こそ、”サーヴェイション”の開発者。世界に終わりを誘発した狂った科学者。そして、…世界最初の”狂神者”となる運命の者…」


 ファナクティが、右手を横に振る。

 それを合図に、数十という機械兵ウィンドラスが、エクスへと襲い掛かった。

今作、最凶の存在”絶対強者”ついに登場。

現時点では、大破済。

下図は、プロローグでの姿。


挿絵(By みてみん)


●機体名:???


●武装:プラズマソード(高出力)、戦術級プラズマ砲(超高出力・インターバル約5秒)、再生機能(高速) ※全ての機能は”サーヴェイション”稼動中のみ使用可


●特記:”絶対強者”

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ