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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(西国編:全24話)
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5-8:”王”のお忍び調査隊 ●

挿絵(By みてみん)

 数時間後、エクスは街にいた。

 ”王”であるアンジェを中心に、臨時の調査隊が完成し、今この場にいる。

 その名も”王のお忍び調査隊”。

 西に潜む悪意の根源を探し出せ! レッツビギン!、を命題に掲げているらしい。


 ”王”、”魔女”、”両翼”、”最速騎士”。


 西国において重要な構成要員である者たちが今していること、それは、


「―――あ、この服可愛くないですか? ほらフリル付きブラックのワンピースですよ~」

「―――ふ、リヒルよ。年頃の女子ならもっとカラフルに、かつ大胆に決めるべきであろう。ほれ、このヘソ出しスタイルのマネキンを見習うが良い!」

「―――…リヒルは、何を着ても似合う」


 トークとショッピングであった。


「おい、遊びにきたんじゃないんだぞ」


 と、エクスが背中を向けたまま声を向けるのは、屋内で武装傘をさして微笑を浮かべているユズカだ。


「別にいいじゃない。特定の目的地があるわけでもないんだし」


 ユズカの言うとおり、一行に目的地はない。

 あてずっぽうに、適当動いた結果この衣服のブランド店に目移りしたアンジェに引っ張られる形で今に至る。


「それでいいのか」

「アンジェは言って止まるようなのじゃないからこの方がいいわ」


 ユズカはそう言ってため息をつく。

 エクスは、ふん、と軽めに鼻をならし、女子3人とは別方向にいるもう1人の男へと視線をやる。

 リファルドは店長らしき男と話している。

 やけに店長が頭を下げまくっているのが気になるが、とりあえず人目に気を配っているらしい。


「…この臨時部隊名はなんだっただろうな」

「”王のお忍び調査隊”」

「どこが忍んでるんだ?」

「周囲が忍べば、私達が忍ぶ必要ないでしょ?」

「その理屈には間違いがあるように感じるな」


 ふふ、ユズカが笑い、


「あら、”王”だってお買い物ぐらいするわ。普通は侍女任せてるけど、”センスが足りん!”って言ってたから」

「…”王”との付き合いは長いのか?」

「それなりにね。年は5歳も離れてるけど幼馴染みたいなものよ」

「そうか」


 と、いい、しかしやはりと


「…アンジェと言ったか、実に”王”らしくないが、他者をひきつける魅力があるようだな」

「よく分かってるわね。先代”王”と比べられると、まだまだって言われるけど」

「その判断基準は間違っているな」


 続けて、と笑みを浮かべるユズカに、少し間を置きつつエクスが応じる。


「戦時中なら戦いであげた武勲によって、戦時以外であれば内政の部分によって、と主眼が異なるはずだ。今、アンジェに求められている評価の基準は内政の手腕だろう。しかし…それには、あいつは幼すぎる」

「そうね。10代で国の政治をよくしろっていう方は酷よ。そういった部分のサポートも含めて”3大戦力”がいるのよ」


 まだ、若輩の”王”であるアンジェは、民衆からの支持を完全に得られていない。

 しかし、”3大戦力”の面々は違う。

 ”朽ち果ての戦役”において多大な戦果を挙げた”最速騎士”リファルド=エアフラム。

 先代の”王”に仕え、支えた実績を持ち、その人柄からも信望の厚い”知将軍”ウィズダム=ケントニス。

 戦後の技術発展に大きく貢献し続ける”魔女”ユズカ。

 この3人に支えられてこそ、アンジェは今の立場にいられる。


「そして、アンジェもそれが分かってる。だから遠慮なく私達を頼ってくる」

「プライドが低い、か?」

「プライドっていうのは、ある程度持っていて矜持を保ち、そして出しすぎれば自分の首を絞めるもの。アンジェはその辺りのコントロールがうまいわね」

「貴様と違うな」

「あら、私は自分を隠したりしないわ。ストレスが溜まったら発散できる相手がここにいるし」


 と言われ、エクスは目をつぶり眉間にしわをよせる。


「…前に寝言で電撃を起動させた時の恨みは忘れんぞ」

「ゴメンネー」

「…まあいい。次に食らうときは貴様に触れて道連れにしようかとも考えているがな」

「あら、なかなか考えてるのね」


 ふん、とエクスが鼻をならし、前に向き直る。


「…まだ遊んでるのか。あの3人は。いい加減調査を始めるべきじゃないのか」

「あら、こう見えて有効な手かもよ?」

「どういう意味だ」

「例の”虚偽の悪意を広める輩”っていうのの正体は掴めていないけど、どんな方法で噂を広めているか分かる?」

「口伝、ではないのは確かだな」


 そうね、とユズカが頷き、


「民衆に広く、正確に情報を広めるには耳でなく、目に訴える方法が効果的よ。”人形劇”とかね」

「”人形劇”だと?」

「そう。連中は人の多いところに突然現れる。そして、その場での即興の人形劇を展開する。その題目が―――」

「”朽ち果ての戦役”か」

「ご明察。”こういうのがあった”と広まるだけで、民衆の疑念を煽れるものよ。そして、ここは繁華街のど真ん中。わかるわね?」

「連中が現れる可能性は高い、か」

「そういうこと」

「なら”王”はそのことも承知の上でこのような行動をとっているわけか。ならば納得できる」

「ああ、それはないわ。ショッピングはただだ行き当たりばったりで楽しんでいるだけよ。ここを選んだのもたまたま」

「納得を取り消しておく」

「そう言わないの」


 エクスはため息をつきつつ、


「…お前は買わないのか?」

「あら、選んでくれる?」

「自分で選べ。俺はここにいる」

「”家族”の買い物には無条件で付き合うものよ?」

「誰が家族だ。貴様が”母”か?」

「私は”娘”のポジションでいいけど。でそっちが”父”でどう?」

「あいにく、そういう役割は俺にはふさわしくない」

「戦いしか知らないから、かしら?」

 

 その言葉に少し考え込み、


「…そうだろうな」

「あら、気に障った?」

「いや、お前の言うとおりだろうな。そこから目を背けるつもりもない。事実だ」

「そんなにライネには会いたい?」

「どこにいる?」

「秘密」

「なら言うな。それこそ気に障る」

 

 エクスは、ふん、と癖のように鼻をならす。

 ユズカは、そんな反応を楽しむように続けた。


「会えたら何を話したいの?」

「…わからん」

「分からないのに会いたいの?」


 その問いに、エクスは答えを示せなかった。

 ライネとの再会を目的として行動してきたはずなのに、最近ではライネのことを忘れかけていた。


 ……どうして、この女とこんなことを話している?


 自分が不自然だった。

 しかし、自然な流れに感じられた。

 少し前まで敵としか見ていなかったのに。

 今は、ここにいることが当たり前のように思えている。


「……」


 金属製の首輪に手を触れる。

 初め、ここに自分を縛り付けるものだと思っていた。

 事実ではあるが、しかし、


 ……俺の意思もこの場にあるのか?


 まるでユズカが隣にいることが当然であるかのように。

 原因が分からない。


 ……俺の敵は、どこにいるんだ?


 機械と戦い続けてきたエクスにとって、敵を知る、という概念は少ない。

 無機質で感情のない者を相手に必要がなかった。

 しかし、過去に来て、人間と戦い、そして知った。

 あらゆる人には生き様がある、と。

 戦いを嘆くもの。

 戦いを楽しむもの。

 戦いを望まぬもの。

 自分の視点は、全て戦いに支配されている。

 だが、今は、


 ……戦い以外の世界を見ているのか。


 ”ただここで生活すること”


 ユズカが提示した条件の1つだ。

 ユズカは、エクスに何も要求してはこなかった。

 動き回る範囲に制約はあった。

 しかし、温かい食事も、寝床もあった。

 未来の技術こそ、自分の存在価値だという考えはいつの間にか失われていた。

 何の見返りも求めず、自分を受け入れてくれる場所。

 かつて経験したことのない感覚だった。


 ……安らぎ、というものなのか。


 存在価値など考えなくていいのだ、と。

 ここにいればいいのだ、と。


「…ユズカ」

「何かしら?」

「お前は、俺に何を求めている?」

「当ててみれば?」

「技術でないなら、なんだ? ”ソウル・ロウガ”だけでは足りないから俺をここに連れ込んだのではないのか?」

「ふふ、秘密よ」


 ユズカは笑っていた。

 だが、嘲笑ではない。

 ただ何気ない会話をしたときの笑みだ。


 ”1人って、すごくさみしいよ”


 ……ライネ、俺は…


 鏡を見る。

 火傷痕に覆われた左目付近の皮膚。

 ”ソウル・ロウガ”も奪われ、漂う自分の在り方を示していた傷が見える。


「…前にお前は、言ったな。”未来はまだ変わっていない”と」

「そうね」

「その事実は、どこで知った?」

「ここにきた時言わなかった? 私との約束を守れたなら、全部教えてあげる。もちろん”ライネ”のことも」

「今、俺はライネのことを考えていたが?」

「今だけは許してあげる。私は優しいからね」

「…そうか。ならそれでもかまわん」


 そう呟き、エクスは前を向いた。


「あら、珍しく素直ね」

「もう少しこの状況に甘んじてやるということだ。感謝しろ」

「それはどうも」


 言い終わると、アンジェ達が帰って来た。

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