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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-13:”武双”【Ⅱ】

 瓦礫の中から、起き上がった機影がある。

 ウィルの機羅童子だ。


『す、すげぇ攻撃だったッスよ…』


 よく分からないが、気がついたらランケアの機羅童子に抱きつかれるように攻撃範囲から逃れていた。


『そうだ。ランケア! どこッスか!?』


 周囲を見る。

 すぐに見つけた。

 瓦礫の上に肩膝をついて動かないランケアの機羅童子を。

 だが、その機体にはすでに右腕がなく、左手は手首から先が千切れ飛んでいる。

 脚部の損傷も激しく、頭部装甲も広範囲で砕けている。

 ほぼ大破だった。


『―――ウィルさん。無事でしたか』

『…申し訳ないッス。俺を庇ったばかりに』


 と、ウィルはうなだれたが、


『―――お願いがあります』


 ランケアがそう告げてきた。


『ボクに時間をください』


 そう言って、ランケアは機羅童子の頭部を動かす。

 その視線を、ウィルも追う。

 戦っていた。

 スズの機羅童子と、”武双”が。

 巨大な力に挑むかのように。


『―――スズさんは、越えようとしている。自分の全てを出し切って、さらにその上を行こうとしている。ボクは、彼女に恥じないように、戦いたい。―――今、このとき自分だけの過去に縛られず、次に進むべき者としての責任を得るために』

  


 ランケアは、コックピットの中で1つのデータディスクを取り出した。

 仮想模擬戦の時、必ず持っているものだ。

 クレアによってもたされ、しかし、使わずに今までしまっていたもの。


 ―――ランケア。私は、機体を造る時に意思を込めます。創造者としての誇りと、そして戦場に出れぬ者としての祈りを。それを受け取ってもらえることをクレアは望みます。―――


 コンソールを開き、一瞬見て、ディスクを入れた。

 継ぐ資格があるかどうか。

 それは今問わない。

 全てが偽りの向こうに消える運命だとしても、


「……受け取ります。クレアさん」


 託されたものは本物だと、ウィルが教えてくれたから。

 ディスクの読み込みが開始された。

 ”武双”に乗り込む者が誰であるのかそれよりも優先することがある。

 越えることだ。

 この東の国の力の象徴であるあの守護戦機を、次代を担う者としての可能性を確かめるために。

 どのような事情があるかなど、考える必要はない。

 敵は意味を持って現れる。

 そして、あれはランケアに何かを求めている。

 強さか。

 資格か。

 思いか。

 答えは出ない。

それでも、


 ……見つけよう。一緒に。

 


 ウィルは、機体を起こし周囲を見回す。

 気がつけば、周囲には多くの武器がある。

 だが、やはり手にとったのは、大槍だった。

 2本の内、1本は先の一撃で砕かれている。

 だから、残り1本を携え、思う。


 ……武器を持つ意味、か。


 スズもランケアも、本気で挑んでいる。

 もちろん、自分もそのつもりでいた。

 だが、


 ……違う。もっと先に行くべきなんだ。


 意思と共に振るわれる力。

 それは決して暴れまわる力ではない。

 願いでなく、望みでもない。

 そうしたいという考えてこそ、人は強く進んでいく。

 なら、自分を強く進めるものとは、


 ……決まっている。


 ウィルの頭に浮かぶのは、金を織り込んだ銀の髪を風になびかせる少女。

 無表情で、でもどこかでとんちんかんで、怖いことを思い出して泣いたりして、そして、自分を求めてくれた人。


 ……また、会いたい。だから…


 そして、救うべき人はもう1人いる。

 もう望む未来は得られないと、勝手に決めつけて力を振るう人。

 彼女の、兄だ。

 自分を忘れてしまった家族を守ろうとしている。

 示すために、今、勝利を得る必要がある。

 思う。

 行こう。

 戦いの場へと、ウィルは機体を奔らせた。


 

 スズは、拳撃に対して動揺を強く持っていた。


 ……右腕を、使った…?


 吹き飛ばされ、建造物の壁面に叩きつけられた状態で、追いつかない思考に苦悩していた。

 ムソウには右腕がない。

 右目の視力も失われている。

 だから、普段、死角となる右側を中心に攻めていた。

 生身では蹴りがくるが、機体戦闘では違う。

 だから勝機があると思っていた。

 だが、今見せられた。

 右腕が使える、という事実を。

 ”武双”が、地鳴りをたてながらこちらへと、一歩ずつ歩を進めてくる。

 武器など持っていないというのに。

 鋭き双眸が、スズの自信を砕こうとしてくる。

 その圧倒的な存在感が、巨大な強さを持ってスズの心を侵食してくる。


 ―――俺様は、もう落ちちまった”最低の武者”なんだよ。そんなのにも勝てねぇお前が、イスズの後を継ぐ? 笑っちまうよなぁ。どうだよ、おい。―――


「―――私はッ!!」


 スズは機体を動かす。

 近くの新しい銀刀を掴み、切りかかる。

 相手は避けようともしない。

 その理由がすぐにわかった。

 刃が通らない。

 相手のかざした腕に阻まれて止まる。

 銀刀の切断力では、”武双”の装甲を切ることができない。

 かと言って、微細振動式の長刀は先の崩断撃ですでに砕かれ、使い物にならない。

 弾かれ、また敵の拳撃がこちらを殴りつけてきた。

 衝撃に視界が揺らぐ。

 思わず吐き出した息すら、気に止める余裕が持てない。

 乗っているのはムソウと決まったわけではない。

 なのに、


 ……勝て、ない…


 また、衝撃が来た。

 吹き飛び、建造物に叩きつけられる。

 繰り返しだ。

 何もかもが。

 頑張ってきたのに。

 父上のいなくなって、自分が東雲を継ぐべきなんだと決意して、強くなろうと。

 母上にも、他の人たちにも心配も迷惑もかけないようになろう、と。

 積み重ねてきたものが崩されるような気がした。

 お前のしてきたことは無駄だったと言われているようで。

 すると、


『―――見落とすな。お前の周りを』


 誰かの声が聞こえた。


 ……今の、声…


 同時に、敵の拳撃が来て、


『―――お待たせして申し訳ないッス!』


 スズは見た。

 装甲を纏った機羅童子の背を。

まだつづく

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