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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-13:”武双” ●

挿絵(By みてみん)

「―――ふーい。戻ったぞぃー」


 と、言ってシェブングは管理室に戻ってきた。


「おじい様。どこに行ってたんですか? 一大事ですよ? 割とマジで」


 クレアを視線を交わし、次にモニターを見上げたシェブングは、


「―――そうか。それしかできんのか、お前はよぉ…」


 そう呟く。

 巨なる戦機が、仮想の戦場に降り立った意味を悟る。


「…おじい様。この事態の詳細を知っているのですか?」


 と、孫娘のいぶかしむ視線を受けていることに気づく。


「ほっといてやれ。双方に本気を出させてやらんといかんからなぁ」

「ほっといてなど…、いろいろ責任問題ですよ。これは、クレアは責任放棄していいですか?」

「いざとなったら、ワシの責任にしろぃ」

「よし。これで思いきりいろいろできますね」

「ぬぅ!?」


 しまった、と不用意な発言をしたことを後悔しても遅いと気づく。

 すでにクレアは指示を飛ばしている。


「―――みなさん。責任はおじい様が全部まとめて受けてくださるようですので、思う存分やっちゃってください。妄想武器送り放題ですよ。祭りです。祭り」


 その場の作業員が、全員で、おー!、と意気投合して端末とのにらめっこを始めた。

 仮想模擬戦で試せる兵装は、参加者が選択したもののみ、というのが規則。

 それが解禁されたということは、もう開発者共の檻など、フルオープンである。

 もちろん、それに伴い、システム負荷の再調整などがめんどくさくなるわけだが、


「その辺は、おじい様に譲りましょう。”責任とる”って言いましたから」


 やれやれ、とシェブングはキセルに火を入れた。

 多少は引き受けてやろうと決めていたので、何とかなるだろう。

 それよりも、この場を作れたことにはもう1つ意味があった。


 ……さて、ワシの作った新OSがどこまで通用するか、思う存分試してみろぃ。



「―――ムソウ、なの?」


 と、スズは無意識に問いを放っていた。

 目の前にいる、東雲の守護戦機”武双”へと。

 相手は答えようとはしない。

 通信は全て遮断され、許されているのは僚機であるランケアとウィルだけだ。


『……なんか、めちゃくちゃ強そうッス…!』


 とウィルが呟いていた。

 両肩に下がる巨大な盾型装甲は、見た目どおり盾にもなるが、巨体の出力を補う補助ジェェネレーターを搭載している。

 胴体部分は細く見えるが、巨体である以上、それに比例した強靭な装甲強度を持つ。

 見た目どおりパワー型。

 当然ながら通常の機体よりも、機動性は劣る。

 ”機羅童子”よりもだ。

 だが、この機体の真価はもう1つの要素が合わさってこそ発揮されると、スズは考える。


『―――あれが、”砲断刀”…?』


 ランケアの声が漏れるのが聞こえた。

 ”武双”が、左手で持ち、肩に担いでいる細かい機構が組み込まれた巨大な刀。

 銀刀と違うコンセプトで作り出された、専用兵装”砲断刀”だ。

 そして、それは未だスズには扱えない武器だ。

 重心バランスが、でたらめなくらいに悪すぎるのだ。


「―――くる…!」


 ”武双”が動いた。

 そして、見せつけてきた。


「!」


 身体に軽くわずかに旋回をかけ砲断刀を左腕のみで、振り上げ、その状態を支えて見せたのだ。

 伏せていた頭部が持ち上がる。

 鋭い視線を持つ鎧を纏った鬼のようなその双眸。

 顔部分にある牙のような装甲が裂けるように、上下に展開。

 そこに、光を帯びた陽炎が揺れ始めている。

 砲断刀の柄にあった機構が、一部割れて落ちた。

 破損ではない、元からある必殺を放つための特殊機構だ。

 いうなれば、充填を終えたカートリッジを捨てるのと似ている。


『―――スズさん!』『―――なんか凄いこと起こりそうッスけど、大丈夫ッスか?』


 ランケアと、ウィルの声が聞こえた。

 そして、返す。


「…2人とも、合図したら建物の影に隠れなさい。狙われたら、一撃よ…」


 スズが、振り上げられた剣先に神経を集中する。

 そして、敵の頭部が前方に倒れこむ初動を見て、


「―――今!」


 声を放った。

 3機が動く。

 振り下ろされ、一撃が来た。

 一刀両断ではない。

 破格では片付かない。

 いうなれば、破砕。

 圧倒的な地を這う爆撃のごとき、巨大な衝撃波。

 放たれた力の瀑布が、戦場を蹂躙した。

 


「―――クレアさん! システム負荷が!」


 作業員が声をあげる。

 見上げるモニターは、完全にゆがみ、ノイズにまみれている。

 簡易表示のマップでも、その一撃のすさまじさが見て取れる。


「これが、”崩断撃”ですか。爆撃機より怖いですね。昔はあんなのポンポン撃ってたんですか?」

「まあ、そういうコンセプトだから当然だろぃ」

「装弾数は?」

「10。最大出力だと……そういえば計ったことねぇなぁ」

「なんてもの造ってるんですか」

「まあ、撃ちすぎると機体負荷もやばいからな。適当に切り上げないとまずいってくらいか?」


 ”武双”の前方に扇形に放たれ放射拡散した衝撃波は、フィールドの約半分を更地につくり変えていた。

 建造物は、破損エフェクトの再現が追いつかず、青いキューブ状の構成プログラムが漏れ出している。


「それに、パイロット負荷もそうとう来る」

「どれくらいですか?」

「使った奴は”死にそうなくらい”と言っていたな」

「…もっと言葉数が豊富なのはいなかったんですか?」



 地形が変わっていた。

 市街地など、もはやさっきまでの話。

 構成プログラムの瓦礫の山と化した場所には、巨大な砂嵐のような土煙の再現が舞い上がっていた。

 ”武双”は、排熱を行っていた顎の機構を、口を結ぶがごとく閉じる。

 何も言わない。

 ただ見回す。

 更地にした部分ではない。

 衝撃波の放射を行う寸前に見ていた。

 3機が前に飛び込んだのを。

 扇の根元。

 衝撃をより軽減するための行動だった。

 機体に破損は与えられただろうが、それでも1機も墜ちていないだろう。

 つまり、次がくる。

 砲断刀を振り下ろした状態のまま、動かず気を研ぎ澄ませる。

 そして、見た。

 土煙を、引きながら飛び出してきた機影を。

 スズの機羅童子だった。

 頭部が少し破損しているが、ほぼ無傷だ。

 そして、その手にしている武器はさっきとは違う。

 標準兵装である銀刀を1本づつ手に持っていた。

 周囲にも気づく。

 いつの間にか、数多の武器が地に突きたっている。

 刀。

 槍。

 銃。

 槌。

 戦艦の砲。

 その他、妙な形のものまで。

 システムにより構成された、西雀考案兵装全てがここに送られてきているのだ。

 そして、目の前の敵が選択しているのは刀。

 使い慣れた、最も応用をきかせられるものだ。

 ”武双”の使い手は考える。

 それは自分も同じだ、と。



 スズは、”武双”が砲断刀を手放すのを見た。


 ……そうよね。私でもそうするわ。


 最大出力の崩断撃を放った後、砲断刀には冷却が必要だ。

 その必要時間は、約5分。

 通常の斬撃兵装のしての機能ももっているが、小型との斬り合いにはいささか小回りが利かない。

 ゆえに、砲断刀を手放した敵が、新たに持つ武器は小さな刀か何かになるはずだ。


 ……それなら、なおさらこちらが有利になる。


 ”武双”には、武器選択の汎用性がない。

 砲断刀による大規模破壊力を優先させた結果、使用できる武器は専用兵装に限られる。

 無理に持てば、武器自体が機体のパワーに負けて砕けてしまう。

 そしてこの場には、砲断刀以外に”武双”の専用兵装がない。

 つまり相手は今、丸腰にならざるを得ない。

 そして、乗り手がムソウだとすれば、右手側が使えない。

 現に、ここに現れてから右腕を一切動かそうとはしないのが証拠だ。 

 だが、そこでスズは相手の動きに違和感を感じた。


 ……どうして、周囲の武器を見ないの…?


 敵が踏み込みを見せる。

 答えが来た。

 右の拳撃という答えが。

機体紹介


挿絵(By みてみん)


機体名:武双


戦闘法:広範囲衝撃破壊


特記:”東”最高戦力

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