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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-12:仮想に浮かぶ戦場【Ⅴ】

 ウィルが、コックピット内で大きな一息ついた。


「な、なんとかなったッス…」


 先ほどの爆発的な反応速度を発揮したのが自分だという事実が、半ば夢であったかのようだ。

 自分の前方と後方に、2機の機羅童子の残骸がある。

 後方の射撃役をスズが、前方の槍撃役をランケアが奇襲によって仕留めたのだ。


『―――これで、全機撃破。お疲れ様。ウィル、あんた意外と粘ったわね。驚きよ』

「おかげでいろいろつかめた…ような気がするッス。この展開を見越して、俺をスタート位置に待機させてたんスね。さすが、指揮官役ッス」


 スズはおそらく、敵の戦力配分を計算していたのだろう。

 つまり、


「―――俺なら、敵3機を止められると信じてくれたんスよね?」

『…え? まあ、そうね。それでいいわ』

「あれ? なんか引っかかるんスけど、違うんスか?」


 スズの返答の鈍さの理由をランケアが話す。


『あれ、確かスズさん。”あいつに1人でも足止めしてもらえば楽になるでしょ”とか話してたような…』

『ばか! 黙ってなさいよ!』

「ということは…俺、囮!? 囮だったんスか!?」

『そうよ。なにか文句ある?』

「開き直り!? 最低だこの人!?」

『結果的に勝ったでしょ。おかげでこっちは楽だったわ』

『…ボク6人引き受けましたけど』

『向こうが、私よりランケアの戦闘力を止める方を優先したんでしょ? 実際、その判断は妥当だったと思うわ』


 スズの機体が、振動機構を止めた長刀を肩にかけるのが見えた。


『―――それじゃ、今日の仮想模擬戦は終了。明日は、もう少しハードにしましょう』

「え? 明日もあるんスか?」

『そうよ。これから1週間通しての訓練だから。アンタは今日だけのゲスト参加よ。お疲れ様』


 はぁ…、とウィルが、安堵と残念が交じり合った声を漏らす。

 その時、見た。


「ッ!?」


 スズの背後に機影が飛び出すのを。

 味方ではない、4機目。

 それは、武装として槍を持ち、スズ機に対して槍撃を叩き込もうとしていた。

 ウィルからは、声で伝えるにも、動いて迎撃するにも無理だ。

 言う間に、敵の槍がスズの機体の背面につきたてられる。


 ……間に合わ―――


 だが、その思考よりも早く、


『―――く…対応、お見事です…!』


 奇襲をかけた敵の頭部に、伸びた槍が突き刺さっていた。

 ランケアが、”夜叉”の柄を伸ばした槍撃をすでに叩き込んでいたのだ。

 その時になって、スズがハッとして振り返り、11機目の敵を視界に入れた。

 ランケアが、槍を引き、一撃で機能停止させられた機羅童子が地に落ちた。


『―――予測できず、不意に現れる戦力への対応。竹林での訓練が活きました』


 ”夜叉”を引いたままランケアは、そう呟いた。


『油断大敵、ってことね。勉強になったわ…』


 スズが冷や汗を拭い、ため息をつくのが聞こえた。


『いい経験になった。今回の模擬戦、最期まで油断しないようにするわ。―――クレア、聞こえてる?』


 スズが通信を入れると、すぐに応答がくる。


『―――はい。なんでしょうか』

『これで、今日の模擬戦日程終了。システムを切ってくれる?』

『分かりました。では、しゅ――ょ―を』

『? どうしたのクレア。インカム壊れてるの?』


 通信が切れる。


「なにかトラブルッスか?」

『分からないわ。急に通信が切れて、何も聞こえなくなった…』


 ウィルは、首をかしげた。



「はい。なんでしょうか」


 インカムを耳に当て、クレアが応える。


『これで今日の模擬戦日程終了。システムを切ってくれる?』

「分かりました。すぐに終了を。待ってください」


 と、周囲の作業員に指示を出そうとしたとき、


『? どうしたのクレア。インカム壊れてるの?』


 そんな言葉が来た。

 クレアは、妙に感じ、


「スズ聞こえますか。これから言う言葉が聞こえてるなら返事をしてください。―――や~い、チビ~、貧乳~」

『―――なにかトラブルッスか』

『―――分からないわ。急に通信が切れて、何も聞こえなくなった…』

「…どうやら、聞こえてないようですね。今の内といきたいですが…」


 クレアは、異常を感じる。

 自分の通信機インカムは、昨日作ったばかりの新品。

 壊れているとは思えない。

 通信に不備が出るとすれば、搭乗機の通信機能に問題があるはず。


 ……模擬戦に使用する機体の整備は確実。不備がでるとは…とりあえず強制終了でいきましょうか。


 とりあえず結論し、指示を続けようとした。

 その時、


「―――クレアさん! こっちに!」


 システム管理をしていた1人が声をあげた。


「どうしたんですか? トイレに行くから代わってほしいんですか?」

「違います! とにかこれを!」


 歩み寄ったクレアが、示された表示を見て、


「……どういうことでしょうか」


 そう、声を漏らした。

 そこに表示されていたのは文字だ。

 ただ一言、


 ”手を出すな”


 それだけだった。


「……強制終了はできますか?」

「それが、終了プログラムと通信機能だけが阻害されているようでして…」

「武装の転送形成プログラムは?」

「無事です。どうしますか?」

「ありったけ送ってください。何かが来るような気がします」

「了解です」


 そこで、クレアは気づく。


「…ん? おじい様はどこに行きました?」


 その質問に、その場の作業員全員が周囲を見回し、そして不明を示した。


「―――クレアさん。模擬空間に新しい機影が!」

「今度はなんですか? 槍撃隊なら焦りすぎだと思いますが。”機羅童子”ですか?」

「違います。これは…嘘だろ…?」

「そんなモブっぽい反応してないで、正確に報告してください」

「東雲の…守護戦機です!」



 模擬戦空間の空から、巨大な何かが降って来た。

 周囲の建造物のいくつかが、落下物の発した衝撃に耐え切れず、倒壊する。

 不意の出来事に、スズ、ランケア、ウィルの乗る3機は身を低くする。


『な、何事ッスか!?』

『ボクにはわかりません!?』


 衝撃と同時に、土煙が高々と舞い上がる。

 そして、スズは、


『―――あれは…そんなはず、どうして…!?』


 見た。

 土煙の向こうにある影を。

 ”機羅童子”の倍はあろうという、巨影に目を丸くした。

 分かっていたのだ、その正体が。


『”武双”…!』


 師の名前の元ともなったスズの機体。

 長きにわたって、東雲に守護の名として受け継がれる機体。

 それが今、土煙の晴れた向こうから、姿を現したのだ。

”東”最強の守護戦機”武双”満を持して登場。

詳細は次回、『5-13:”武双”』にて

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