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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-12:仮想に浮かぶ戦場【Ⅳ】 ●

 スタート地点。

 そこにあるのは4つの影。

 ”鎧童子”と、槍撃隊3人の操る”機羅童子”が相対しているのだ。

 しかし、鎧童子と向かい合うのは3機の内の1機のみ。

 前衛たるその槍撃隊機は、


『―――間合いは計り損ねん!』


 振り下ろされた大槍の一撃を避け、新たな一撃を送り込む。

 弾かれる。

 強固な多重装甲は、一撃など跳ね返す。


 ……いや、これでいい!


 跳ね返された中に、散った欠片を見る。

 鎧童子の装甲の一部。

 小さいものだが、


 ……確かに削れているぞ!


 今度は大槍が横薙ぎに振られる。

 しゃがんで避け、今度は3連突き。先ほどと同じ位置に打ち込む。

 そして、


『―――いまだ!』


 後方に大きく跳ぶ。

 それと同時に、鎧童子へ残り2機の射撃が浴びせられた。

 鎧童子は、大槍を前面に交差させ、防御体勢をとる。


 ……大槍すら盾に―――、だが!


 浴びせるように見せて、狙いは正確に装甲の損傷部分に刺さる。

 そして、砕けた。

 脚部を覆っていた装甲が、弾けとんだ。


『弾切れだ。交換する!』


 射撃役の内の1機が声をあげ、”芝辻”の銃身下からカートリッジを落とす。


『再び行く!』


 それだけで前衛は前方へと加速をかけた。

 鎧童子は自らの装甲に阻まれて、うまく動けていない。

 狙うは脚部。

 戦いをとるには、まず敵の機動力を削ぐことからだ。

 この流れを数度繰り返してきたことで、鎧童子の装甲はかなり削れてきている。

 そして、今、狙うべき部分が明らかになった。

 その脚が。


 ……もらった!


 と前衛が思考した瞬間、衝撃がきた。


『―――ッ!?』


 一瞬揺らいだ姿勢をすばやく補正。

 セミオートは切っている。邪魔なだけだ。

 熟練した感覚を反映したマニュアル操作は、自動補正よりも格段に早い反応を示す。

 そして、回復した視界の先で、自身が揺らいだ理由を知る。


『……捨てたのか。いや―――』


 自身に衝撃を食らわしたのは、鎧童子が自ら捨てた装甲だった。

 パージすると同時に、装甲を周囲に飛ばしたのだ。

 だが、全ては捨てていなかった。

 腕部には小さく残っているが、主に胸部、肩、には大型の装甲がついたままだ。


『可動域の優先と、急所への防御体勢を優先させたのか…!』


 鎧童子が、大槍を構える。

 突撃の体勢だ。


『―――しかし、能がない!』


 前衛機は、再び加速した。



 ウィルは相対の中で思考する。

 どうすればいい、と。

 しかし、森林で戦ったあの時とは違う。

 勝てるかどうかではない。

 勝つにはどうすればいいのか。


 ―――負け続けろウィル。そして大切なときに勝てばいい―――


 ムソウの言葉が脳裏をよぎる。

 ここだ。

 ここが勝ちを取りに行く場所だ。

 自身の機体状態を確認する。

 相手が装甲をはがしにかかってるのは分かっている。

 今のところは装甲で助かっているが、こちらの攻撃を当てられない以上、いずれ限界が来る。

 相手は、自分の武道では届かぬ相手だ。


 ―――お前には折れない、鉄の意志がある―――

 

 ……今度こそ、届かせる!


 敵の射撃に対して防御体勢をとる。

 堅牢なのは、装甲だけでなく武器自体も盾として機能する。

 そして、ウインドウを展開する。

 そこに表示されるのは、機体全体を覆う装甲を示す簡易図。


「これとこれとこれと…!」


 排除する装甲を指でタッチし、選択していく。

 脚部はいらない。動きを阻害する。

 腕部は、可動範囲を確保しつつ一部残す。

 胸部、肩部はそのまま。

 背面は外側を捨て、中心部分だけをそのままに。

 そして、


「―――よし!」


 選択を終える。

 ウィルの操作に従い、機体に反映という形で現れる。

 飛ばした装甲の一部が、突進してきた敵を打ちすえ、よろめかせた。


「これならいける!」


 再び前を向いたウィルは、この時気づいていなかった。

 重量超過を示していた赤い点滅が全て消え、あらゆる装備が己が機体の許容内に収まっていることに。

 それは”鎧童子”が、ウィルの意思を宿す半身となったことを意味していた。


挿絵(By みてみん)



 加速の槍が突きかかる。

 新たな形となった”鎧童子”は、身を沈め、大槍を止める。

 そのまま、


『うおおおお!』


 押し返した。

 声を上げ、脚を地面に打ち、突進を返す。


『く、突進力が上がっただと…!?』


 脚部の装甲を捨て、可動範囲があがったことで、より強い踏み込みを行えるようになったのだ。

 弾かれる。

 装甲による重量差で片付けられない。

 前衛は理解する。

 変わったのは、機体の外見だけではない。

 その内にいる、見えざる敵もまた何かを得たのだ、と。


 ……一部の油断もせん!


 敵が再度突進をかけてくる。

 今度は、大槍を後ろに振りかぶるように構えてくる。

 真正面は大槍の攻撃軸線上であり、本来なら避けに転じるところだが、


 ……ここが賭けだ! 


 交差するような大槍の一撃が降りかかる。

 まるで、巨大な双頭の竜のあぎとのような錯覚を覚える。

 その重量からくる攻撃力は破格だ。当てればただではすまない。

 だが、前衛は、前方へと加速する。

 深く、より速く、その先へと踏み込んでいく。

 そして、


『―――ここだ!』


 入った。

 大槍の根元まで、入り込んだ。

 ゼロ距離。

 そこには、機体1つがおさまる程の空間がある。

 大型兵装故の死角だ。


 ……この距離なら頭部を―――


 大槍を空振りにした以上、相手の懐はがら空き。

 そして、目の前には急所である頭部があるはずだ。

 だが、


『な、がッ!?』


 敵の頭部が、すさまじい勢いで迫ってきた。

 頭突きだった。

 低くした姿勢の真上から急な衝撃に襲われ、機体が地に叩きつけられた。

 かなり重い一撃に、パイロットの姿勢回復が遅れる。

 次に見たのは、


『―――な、に…?』


 モニターいっぱいに映し出された大槍の側面。

 今度は正面からの衝撃が襲ってきた。

 機体が吹っ飛び、宙に浮く。

 装甲が砕け散る。

 そして、


『―――槍撃隊の方―――、ありがとうッス!』


 声を聴いた。

 自分よりも、もっと若い少年の声だった。


 ……子供、だったのか…。


 そして、モニターが全て死ぬ。

 頭部だけでなく、機体全体の破損により行動不能が表示される。

 槍撃隊員は自らの脱落を悟り、


「―――”ランケア殿を一日自由権”。欲しかったなぁ…くそぅ!」


 そう声をあげた。



 残存の槍撃隊2機は前衛の撃破を見る前に、すでに動いていた。

 双方に、手持ちの武器を交換する。

 片方は、2本の槍を。

 もう片方は、2本の銃を。

 新たに前衛となった機体が、鎧童子に仕掛ける。

 その後に、射撃役となる2機目が続く。

 今度は、同時攻撃だ。

 鎧童子の装甲は、前面に集中して残されている。つまり、


 ……真正面からの1対1を想定した形態ということだ!


 すぐさまそう看破した。

 こちらの攻撃に対して、鎧童子が反応して身構える。

 大槍の一撃がきた。

 だが、軌道は見切れている。

 相手は、大槍を刺突でなく、打撃に用いる行動が多かったことも分析していた。


 ……ならば、フェイントだ。


 前衛役がバックステップをかけた。

 大槍の先端が、機体の鼻先をかすめるが、確実に相手の空振りを誘えた。

 その隙に、


『―――とるぞ!』


 射撃役が、建物を蹴って鎧童子の背後に、飛んでいた。

 決め手は前衛役でなく、射撃役にあった。

 着地。照準。

 狙うのは、脚部。

 相手は武器を振った反動で動けない。

 そのトリガーが引かれようとした瞬間、


『―――しまった、後ろを!?』


 前衛役は見た。

 射撃役の後方に、市街の影を縫って機影が飛び出した。

 その手に持つ武器は、長刀。

 スズの駆る機羅童子だった。

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