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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-12:仮想に浮かぶ戦場【Ⅱ】

 ウィルが武装として選択しているのは、角ばった形状の大槍だ。

 それを両腕に2本装備している。

 それだけならまだ重量内なのだが、


「え? え!? ええッ!?」


 増えていく。

 ウィルの機体に次々と追加装甲が装備されていく。

 背面、胸部、腕部、脚部、と追加装甲のない部分の方が少ない。


「ちょ、ちょっとウィルさん!?」


 ランケアは慌ててウィルへの通信をかける。

 応答はすぐにきた。


『―――あれ、どうしたんスか?』


 いつもどおりののほほんとした声が聞こえた。


「あ、いえどうしたというか…、そんなに装甲つけてどうしたんですか?」

『だって、重量制限ないっていうから目に付く装甲つけてみたんスけど』

「まあ、仮想訓練ですから可能ですけど…」


 ランケアは、最終的な形となったウィルの機体を見つめる。


 ……もう別の機体ですよね?


 一部の隙もなく装備された装甲によって、元々細身の機羅童子が、やけに筋肉質マッシブになったように見える。

 完全な装甲ダルマ状態であった。


『どうッスか! この無敵な感じ!?』

「斬新な発想です。…ある意味」

『…あれ? 腕が上に上がりきらないッス』


 重量制限はないが、可動域の制限はあるのだ。

 かなり運動性が下がっているが、その分を防御力にまわしたとすれば、釣り合いがとれているとも言えるかもしれない。

 だが、戦場でものを言うのはやはりスピードである。


 ……選択しなおすように言った方がいいんでしょうか。


 と、考えていると、


『―――時間よ』


 スズの通信がきた。


「あ、ちょっと待ってください。ウィルに武装の再選択を…」

『いらないわ』


 スズが却下する。

 ランケアは、またウィルのいるところを見る。

 胸部装甲のせいで下が見えず、落とした大槍を手探りで拾おうとしている”機羅童子”の姿があった。


「でもあれじゃ満足に戦えませんよ?」

『それでいいのよ』

「それでいいって、ウィルさんを初めから戦わせないつもりで…?」

『そんなわけないでしょ。模擬戦に参加する以上、役には立たせるつもり』

「?」


 ランケアは、スズの意図が読めず首をかしげる。

 すると、


『―――あー、あー。おぅ、待たせたな。全員の装備選択が終了したみたいだし、そろそろ始めようかぃ!』


 全機に送られたシェブングの声を合図に、表示されたカウントが動き始める。

 30秒後に模擬戦開始だ。



 スズ機が頭部をあげる。

 直立し、機体と同サイズの長刀を肩にかける。


『じゃあ、いくわよ。全機に通達。今年も指揮官は東雲・スズが行います。合言葉は”絶対服従”。わかった? わかったら返事』


 左隣にいるウィル機が、大槍を構える。


『OKッス! なんか、心躍ってきたッスね!』

『あ、ウィル。あんたは開始から1分間、そのまま待機』


 その指示に、ウィルの機羅童子が首をかしげた。


『え?』

『ランケア。開始と同時に、陣形”双葉”。いいわね?』


 ランケアの機体も、首をかしげる。


『それだと、ウィルさんがまずいですよ?』

『え? なんスか? なんの話ッスか!?』


 スズは、ウィルを無視して話を進める。


『作戦よ。槍撃隊相手に油断したら、一瞬で食われるから』


 カウントがまもなく10秒を切る。


『あのー、作戦内容をご説明くださるとありがたいッス』

『そんな時間ないわ。残り5秒。ランケア、集中して』


 ―――4。


『はい。―――ウィルさん』


 ―――3。


『なんスか?』


 ―――2.


『ごめんなさい』

『先に謝るのはなぜ!?』


 ―――1。

 ―――0。


『開始!』


 スズとランケアの機羅童子が同時に跳んだ。

 2機がすばやく市街地を抜けていく音がした。

 そして、残されたウィルは、


『…………はッ!? おいてけぼりッスか!?』


 その場にたたずんでいた。


 ……作戦とか言ってたけど、俺抜きが前提なのかな?


 特にすることもないが、指揮官に”動くな”と言われている以上、従うべきだろう。

 大槍を持ちげてみる。

 可動域の制限がるため、90度以上は上げることができない。


「やっぱりつけすぎッスね」


 腕部の装甲をパージしようと、操作系を開こうとしたときだった。


『―――好機ッ! ”三角陣”!』


 聞き覚えのない声が聞こえると同時に、3つの影が飛び出してきた。

 ランケアと違い、片刃の槍を装備した3機の”機羅童子”だ。

 1機目が正面。

 2機目が右。

 3機目が左。

 3方向からの同時攻撃だ。


『うおッ!?』


 ウィルの反応はすでに遅れていた

 操縦桿コントロールギアを握りなおしたときには、左右の敵機が壁を蹴って跳び、正面の槍を防ぐにも間に合わない。


 ……はや―――


 敵機の槍撃が、ほぼ同時にウィルの機羅童子へと叩きこまれた。



 仮想戦闘の管理、調整用のシステムルーム。

 ここいいるのは、総勢10名の西雀家の開発メンバーだ。


「―――始まったなぁ…」

「そのようですね」


 シェブングとクレアが、巨大なウインドウを見上げて嘆息する。

 模擬戦の様子は、東国内に中継されている。

 これは、東雲、南武の次期当主が、それにふさわしいと示するためでもある。


「南武槍撃隊でも10人の選りすぐりですか」

「まあ、連中は隊内での実力もほぼ互角らしいから、後は運か若さで決まったんだろぅ?」


 ちなみに、3機目のウィルについては秘密になっている。

 しかし、情報は開示しないといけない。

 するとクレアが、まかせろ、と言ってその通りにしたわけだが、


「いったいどういう情報流したんでぃ?」

「これです」


 クレアが、文字の記載された空間ウインドウを展開して、シェブングの目の前にスライドさせた。


「なになにぃ…」


 ”槍撃隊の1人だが、昨日女を泣かしてケンカしてひっぱたかれた拍子に転んで鼻を骨折したので顔、音声共に非公開である”


「槍撃隊の名誉汚染が加速するなぁ」

「いまさらなにを。連中、腕は確かですが変態集団としての顔も持ってますから、みんな納得してます」

「ま、ちげぇね。ん? こっちのはなんでぃ?」

「南武の老中から抗議クレームの嵐です。自動的に封印ファイル送りになるようプログラムしてますので無問題ですとも」

「少数の犠牲で済ますため、ここは目をつぶるべきかねぇ…。ところでよぅ、お前の作った多重装甲、あの小僧が使ってるけど、もう仕留められちまったぞぃ?」

「うそぉっ!?、……と驚くとでもお思いですか?」

「いや、思わねぇよ。ワシの孫の作ったもんだ、この程度で終わりとはいわねぇよな?」

「当然、これからです」



 槍撃隊の同時攻撃はクリーンヒットしていた。

 確かに、狙った場所に叩き込んだ。

 コックピットのある、急所ポイントにだ。

 だが、


『―――マジかよ…』


 隊員の1人がそう言葉を漏らす。

 おそらく残り2名も同じ思考が浮かんでいるだろう。

 すると、


『うおおおおお!!』


 装甲に包まれた機羅童子から声がほとばしった。


『!?』


 槍撃隊の判断は迅速。

 叫び声に弾かれるようにその場を蹴り、後方へと距離をとる。


『なんだ、あの装甲強度は!? 機羅童子が装備できる重量じゃねぇだろ!?』

『というか実現不可だよな? 誰が乗ってんだ?』


 隊員2名が、正面から視線を外さずそう話す。

 すると、臨時リーダーの隊員が声を放った。


『油断するな。この模擬戦は俺達にとっても実戦想定だ。情報が開示されていないということは、俺達に対する刺客という可能性もありうる』

『だな。戦場ってのは非常識にまみれてる。見たことねぇ、と怖気づくようじゃ、当主のお供は務まらんぜ』

『熱いね、お2人さん。ま、俺も乗らせてもらうけどな』


 装甲を纏った機羅童子を、”鎧童子”と呼ぶことを隊に送り、リーダー機が構える。


『いくぞ。装甲は無限じゃない。各員、削りに徹しろ。勝機はこちらのものだ』

『おう!』『よっしゃ!』


 ”鎧童子”が、大槍を構えて突撃してきた。

 装甲で重いくせに、こちらと大差ない速度だ。


『―――陣形”三連牙”!』


 槍撃隊と、”鎧童子”が激突する。 

つづく

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