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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-12:仮想に浮かぶ戦場 ●

挿絵(By みてみん)

 スズとの墓参りが終わって、2日後。

 ウィルは、とある場所にいた。

 ”機羅童子”のコックピットにあるシートの上だ。


 ……あまり、ブレイハイドと変わらないんスね。


 と、そんな感覚を持った。


『―――ウィル、早くしなさい。まだ起動してないの?』


 通信からスズの声が聞こえる。

 彼女もまた”機羅童子”のコックピットの中だ。


「え? あっと、申し訳ないッス」


 言われ、少し焦りながらも教えられた手順で、機体に起動をかけていく。

 周囲の全天型モニターが作動し、コックピット内が明るくなる。

 映し出された周囲の風景は、街。

 15~30メートルの建物が数多く存在する場所だ。

 しかし、そこは実際に存在しているわけではない。

 仮想模擬戦の示すとおり、全てが仮想映像だ。

 実際の外は格納庫。

 今搭乗している”機羅童子”も、仮想模擬戦用に改造されたタイプだ。

 機体各部に専用のケーブルが多数接続されているので、ほぼ設置状態にある。

 その中で、ウィルは感じる。


 ……すげぇ、本物の町にいるみたいッス。


 機体に一歩踏み出させる。

 鋼の足裏が地面についた瞬間、


「うお…!?」


 揺れた。


 ……同じだ。ブレイハイドに乗ってた時と。


 踏み出すときから、一歩を踏みしめる瞬間までが、緻密に再現されていることを改めて実感する。

 すると、


『―――おい、小僧! 調整中なんだぞ! 勝手に動かすなぃ!』


 通信で怒鳴られた。


「申し訳ないッス! なんか、凄くて軽く興奮中ッス!」

『むぅ!? そうかぃ! どうだ、西雀の”技術”は!』

「いや、本当に感服しっぱなしッス!」

『そうだろうがぃ! だははは!』

 


「……」


 通信から聞こえる笑い声に対して、スズは特に反応しない。

 今、思考するのは別の事柄だからだ。

 その視線が、モニター越しに存在するウィル機へと向けられる。


 ……あいつの参加をクレアまで推してくるとはね。


 ウィルが今回の模擬戦に参加できたのは、ひとえに彼女のはたらきかけがあったからだ。


 ―――今回の模擬戦。ウィル=シュタルクを編入をクレアはご希望します。彼がいかなる戦闘スタイルの持ち主なのかを見極めたいのでよろしく―――


 そんなこんなで最終的にはこの形となったのだ。


 ……あの運び込まれた機体とウィルに関連があるのは間違いないわね。


 中立地帯のヴァールハイトからの依頼は”機体の改修”。

 それ以上は何もなし。

 ただの依頼ならそれだけで充分だろう。

 ヴァールハイトからの依頼ともなれば、中立地帯に恩を売ることもでき、今後交渉が必要になった場合になど有利にはたらく。

 だが、スズにはそれがどうにもきなくさく感じられる。


 ……あのヴァールハイトが、なんの見返りも期待せず、そして条件もつけず”東”相手に頼みごとをするもの?


 思考をめぐらせど、答えは出ない。

 情報が少ない。


 ……ウィル=シュタルクに、中立地帯の代表が動くほどの価値がある、ということ?


 だとすると、あのバカには、何か秘密が隠れているということだ。


 ……もしかして、隠密?


 ウィルが、東に対して隠密活動にきた可能性も考えたが、即座に、ないわ、と結論。


 ……だとすれば、ゾンブルが何か気づくだろうし、ムソウも弟子なんかに―――


 ふと、ムソウのことが自然に浮かんだ。

 その事実に対して、少し微妙な気持ちになる。


 ……私は、あいつを信用しているの?


 考えが離れなくなる。

 どうしようもなく頭にまとわりついてしまう。


 ……集中しないと。


 スズは呼吸を整える。

 目を閉じ、小さく、長く吸い、そして呼吸を吹く。

 すると、


『―――スズさん。ちょっといいですか?』


 別の通信がきた。

 ランケアだ。

 片目をあけると、そこには”個人回線”と表記されている。

 つまり、この通信が聞こえているのは自分とランケアだけ。

 スズは、ウィルとの外部との通信を一部遮断し、ランケアからの回線のみに応じた。


「…なに?」



『…なに?』


 ランケアもまた”機羅童子”のコックピットにいた。 

 模擬戦開始前に集中を乱すのは気が引けたが、それでも確かめたいことがあったのだ。


「どうして、ウィルさんを模擬戦メンバーに編入したんですか?」


 模擬戦ではあるが、危険を伴うのはスズも知ってるはず。

 それゆえに、気になるのだ。

 答えはすぐにくる。


『簡単なことよ。ウィルがいることが今後に役立つからよ』

「でも、彼は武道の才能はかい……ほとんどゼロに等しいんですよ?」

『…言いなおす意味あったの、今? まあ、とにかくこれでいいの。今年も指揮官役は私なんだから』

「でも…」


 ランケアは、それ以上をいいよどむ。

 すると、


『あいつは、強くなりにきた、と言ったわ』


 不意にスズが言った。


『ここに来てから、何度も打ち倒してやったけど、何度もしつこく起き上がってきたわ。倒れたままでいようとしなかった。あいつの求める強さっていうのが何なのか、私は見たいのよ』

「強さ、ですか」

『そうよ。―――と、そろそろ調整できたみたいね』


 スズの声の終わりと同時に、新しい通信が開いた。 


『―――待たせたなぁ! 毎年恒例”仮想模擬戦”の開始と行こうかぃ! 各員、武装を選択しろぃ!』

 オープン回線なので、自分達だけでなく、相手側の槍撃隊も聞いているはずだ。

『じゃあ、行くわよ』


 スズからの通信が切られた。

 ランケアも、気持ちを切り替え、前面に向き直る。

 展開された無数の武装プランがある。

 タッチ操作でスライドしていくと、妙なのがあった。


「”ピコピコハンマー”ってなんでしょうか?」


 武装情報を開く。


 ”これで相手の頭を叩けば強制勝利。すごいですね。かっこいいですね。軽いですね。勝利の形にこだわらないあなたへ送る裏武器シリーズ第3弾。いっちょどうだい?”


 ズル兵装であった。


 ……見た目がかわいい割りに凶悪ですね。


 とりあえず即座に閉じる。

 送っていくと、またも気になるのが。


「”ハイパーブラスター”…?」


 武装情報展開。

 

 ”太古からの夢を今ここに復活。武装を全て失い、くここまでか、とみせかけて、まだおれにはコイツがあるぜ!うおおおお!、と胸部から必殺破壊光線をズビャァァァァアーッ!。そんなロマンが分かる人はどうぞ。※注:使うとエネルギーが空っけつになります”


「これ、西雀の空想兵器合戦になってるような…」


 却下。

 閉じる。


 ……これ作ったのクレアさんに間違いない。


 速攻で忘れることにした。

 そんなこんなで現存のものもあれば、これからの西雀の開発部によって構想が練られた試作武装まで様々である。


 ……例年通りでいいですよね。


 と、ランケアが選んだのは、先端がハルバード形状の槍。

 実際の機羅童子に乗った際も愛用している槍型兵装”夜叉”である。

 その他にも、補助兵装として、銀刀”切”を両腰に1本ずつ携行する武装プランを選択する。

 そこで決定とした。

 積載にはまだ半分以上の余裕があるが、


 ……充分ですね。


 選択された装備が、機体の各部に出現する。

 ランケアは、チラリと隣にいるスズの機体を見る。

 彼女もまた選択を終えている。

 毎年、いろいろ試しているようで、今回装備しているのは銀刀”永”。

 標準装備である現存の銀刀”切”の2倍の長さの刀身を持つ架空武装のようだ。

 他に、銃器を1本装備している。

 現実的な重量制限内で収めているようだ。


「さて、ウィルさんは―――へ…?」


 スズを挟んだ先にいる”機羅童子”がウィルの機体なのだが、


「?」


 おかしなことが起こっていた。

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