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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-6:見守り人達の”夜”【Ⅱ】

 ヴィエルは廊下を歩いていた。

 目的場所は社長室。

 手に持っているのは、データディスクだ。

 ”同志”という限りなく匿名に近い差出人から届けられたもので、社長以外の開封は厳禁かつ早急なものであるという。


「―――もう、急に届け物とか勘弁して欲しいですね。本当に」


 現在、シュテルンヒルトは”カナリス”の支部がある流通拠点のひとつに停泊していた。

 明日、ヴァールハイトはシュテルンヒルトから降りてしばらく支部務めになる。

 そこからまた自分と共にあちこちまわって行くスケジュールになっている。


 ……長らくいましたから、みなさんもいい加減私のこと覚えてくれましたよね。うん。


 と、内心心配しつつ、歩みを進めた。

 社長室は、もう目と鼻の先だ。



 コーヒーカップを片付けた後、ヴァールハイトは書斎の端末を閉じていく。

 今日のお役目は終了というわけだ。


「では、今日はもう休もう。シュテルンヒルトの整備も今日で終わった。明日からはまた頼むぞ。エンティ」


 ヴァールハイトは、そう言って、書斎奥にある部屋に向かおうとした。

 すると、


「?」


 不意に手をつかまえられた。

 振り向くと、座ったままのエンティがどこか気まずそうに視線を合わせないようにしている。


「どうした?」


 しばらく口元でゴニョゴニョ言っていたエンティであったが、数秒たってようやく言葉がでてきた。


「あ、あのね…、その…もう、寝るの?」

「そうなるな。明日も早い」

「そ、そうだよね…ゴメン、引き止めて…」


 何かを言いたげながら、やけにしおらしいエンティの様子にヴァールハイトは、ため息をつき、


「……言いたいことがあるなら聞く。遠慮はしないことだ」


 再び小柄な彼女と向かい合った。

 見ると、彼女の表情はうっすら赤くなっていた。

 この部屋の照明は、やや暗めであるが、それでもわかりやすいほどに。


「えっと、その…ほら、久しぶりに会ったし…その…久しぶりに、さ…その…」


 とてもとても言い出しにくそうなエンティ。

 彼女がこれほどしおらしくなる理由はだいたい検討がつく。


「ヴァッ君、私ってさ…、必要?」

「必要だとも。”カナリス”は、お前なくして運用できない。当然だ」

「あ、いや、”カナリス”にじゃなくてね! その……………、ヴァッ君にとって私ってどうなのかな…と」


 エンティは相変わらず視線を合わせない。

 自分の質問が、身勝手だと分かってしまう。

 ヴァールハイトが背負うものが分かっている以上なるべく負担はかけたくない。

 だが、時折思うのだ。

 ヴァールハイトにとって、自分はどういう存在なのか、と。

 答えはもう何年も前に示してもらったはずなのに、また聞きたいと思う。

 しばらく会わない間に、彼が離れていってしまうのが怖いのだ。

 すると、自分の顎にそっと手があてられ、やさしい動作で顔を上向きにされるのに気づく。

 そして、


「ん…」


 上から唇を重ねられていた。

 より薄く、皮膚を通しての体温と鼓動が伝わってくる。

 エンティは、一瞬強ばったが、すぐに力を抜き、目を閉じた。

 両の手の平をヴァールハイトの胸元に当てる。

 鼓動が早まっている。

 自分のものだけではない。

 彼もまた、思いを共有しているのだと分かる。


 ……このままであって欲しいな。


 そう思っている最中、ゆっくりと唇が離れた。

 あ、と名残惜しく思うも、エンティはなんとか抑えた。


「ありがとう、必要としてくれて…、私、嬉しいよ」

「前から言っているだろう。遠慮をするな、と」


 ヴァールハイトは襟元を正した。

 表情こそ少ししか変化していないが、


 ……本当、感情表現苦手なんだね。


「近いうち、様々なことが起こるだろう。人間は未知に対して臆病になる。私も人間である以上、そこから逃れることはできない。支えが必要なのは私も同じだ」


 エンティに手を差し伸べた。

 自らの行く道に誘うように。


「共にいてくれるか、エンティ。先の見えぬ道を進むために」

「いいよ。付き合ってあげる」


 エンティは笑顔でその手をとる。

 この人とならどこまでいっても怖くないと思うから。


「―――では、キスの続きは必要か?」


 ふえ?、と予想外の展開に呆けるエンティだったが、


「お願い、していいの…?」


「遠慮するな、と言ったばかりのはずだが?」


 ヴァールハイトは堂々と言った。

 対して、自分が戸惑っているのを感じ、


 ……また私、負けちゃったな。


 頬を赤く染めて、苦笑した。



 ヴィエルは、扉に背をつけていた。

 ため息をつく。


「まったく…、入れないじゃないですか」


 そう言って、ひとりごちていた。

 ドアをノックしようと思ったら、中から妙にラヴい雰囲気が感じられて、開けるに開けられなかったのである。

 そして、タイミングがないまま今の状況になってるわけだが、


 ……本当、これなんなんでしょうね。


 ふと、手元のディスクを眺める。

 銀色に輝くその中身は何であるのか、検討もつかない。

 だが、社長に送られてくるようなもの。しかも、あらゆる手続きや監査すっ飛ばして届けられることからすると、


 ……相当、重要なものってことですよね。世界が動くくらい簡単に起こりそうで―――

「怖っ」 

ベッドインシーン?

ないよ。

R15指定じゃないので。

次回、お風呂

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