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A miracle that no one knows~誰も知らない奇跡~  作者: 古河新後
第5章(東国編:全14話)
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5-5:束ねる者達の”集結”【Ⅱ】

 ウィルが知る限り、スズはこれまでで最高の俊足を見せた。

 ただならぬ気迫にウィルは、うお!? と一目散に退避。

 無論ゾンブルも、打ちかかってきた木刀をひらりと回避。


「ふう…! ふう…! このアホ忍者がぁッ!!」


 息を荒げて、忍者をぶちのめそうと果敢に挑むスズ。

 一方忍者は、笑止! とか、その程度か! とかいいながら真面目かつ、やや楽しそうに避け続ける。

 状況の外へと押し出されたウィルは、さっきゾンブルが握っていたものを思い返す。


「ゾンブルさん、なんか凄く夢のあるものを持っていたような…。もしかして、あれは…!?」


 すると、みかねたランケアが声をあげた。


「もう! 2人とも落ちついてください! ゾンブルさん! 出会いがしらに女の子のパンツとったらダメだよ! 恥ずかしい思いさせちゃうよ!」

「いうなあああああああッ!!」


 木刀が縦回転して飛来。ランケアの頭に直撃。

 小柄な身体が、きゃいんッ、とひっくり返る。


「やはり見間違いじゃなかったんだ! これが忍術…!?」


 スズの戦闘服は、下部に隙間などない。

 当然、内側の衣類には手も足もでないはずだ。

 だが、ゾンブルはやってのけた。

 もはや魔術とか不思議発見とか、そういう別次元の技だ。


「ていうかランケアさん大丈夫ッスか!」


 ウィルが急いで助け起こす。


「ウィ、ウィルさん。ありがとう、ございます…」


 不意打ちで少しダメージが大きかったらしく、ランケアはまだ頭をさすっている

 ウィルはふと気づいた。

 こちらに身をまかせているランケアの小顔が間近にある。

 すこし頬を赤らめ、まるで乙女。

 着ている着物の胸元のしめつけがゆるくなっている。

 ややはだけたそこから、白い胸の肌がチラリズム。


 ……なんでだろう。男の胸を見ているはずなのに、こうなんか妙に罪深い気持ちを感じるッス。


 とても同姓とは思えない。

 その少女のような少年の可憐さに思わず、


 ……とても、い、いけない気持ちになりそうッスね。

「あの…どうして生唾を飲み込む音が聞こえるんでしょうか?」


 回復したランケアは身の危険を感じたのか、はだけた部分を閉じて、身を守るようにすばやく離れた。

 すると遠くからゾンブルの声がする。


「これぞ央間流忍法”鎧外し・改”。本来は敵の表面装備を強制解除させ、意表をつく。そしてこのゾンブルはこの技に磨きをかけ、さらに昇華させた。それにより、つまり見えない衣服だろうと抜き去ることが可能なのだ。ふははは」

「誇らしげに言うな! 返せ! ってこら! サイン書くな!」

 

 足先はシャカシャカすばやく、しかし上半身はぶれ動くことなく維持したゾンブルは、どこからかペンを取り出していた。


「うむむ、黒だと書きづらいな…。しかし、私は謝らなければならないようだ。スズも大人になりたいと背伸びしたい時期。ゆえにこのような妖艶なる黒下着など―――」

「その口を閉じろー!」


 内容さえ知らなければ、かなりハイレベルかつ異色の勝負に見えるその戦闘の流れ。

 すると奥からに、


「―――あら、ゾンブルさん。いらっしゃい。お稽古中かしら?」


 アリアが現れた。

 夕食後の洗い物が終わったのか、着物の袖をまくりあげた状態だ。

 すると、ゾンブルの視線が動き、またも姿が掻き消える。

 ”疾風”を用いてスズの間合いから逃れたゾンブルは、アリアの前に片膝をついた状態で出現した。


「ご挨拶が遅れ申し訳ない。此度こたびの諜報活動における報告に参った所存。ですが、その前にアリア殿に再戦を申し込みたく」


 こうべを垂れるゾンブルに、アリアはかしげる。


「なにかしら? 私、あまり武道は得意ではないのだけれど?」

「そうではございませぬ。ただただ、自身の技の冴えの極みを確かめたく思うのみゆえ、ご容赦を」


 御免!、とまたも風が駆けた。

 突風発生。

 スズが、慌てて裾を押さえてめくれ上がるのを阻止。

 対するアリアは、反応できなかったか微動だにしない。

 一瞬の消失の後、黒装束はアリアの背後にあった。

 そして、


「―――む、無念。またしても見破れず…」


 力なく膝を落とした。

 アリアは微笑んだ。

 そしてその手には、黒いレース生地の布。


「あら、なにかしらこれ? あ、わかった。この大人っぽいのスズちゃんのねー? お母様が取り返したから取りにいらっしゃーい」


 アリアは、手に持ったものを頭上でヒラヒラ振って娘に、どんなもんだい!、とアピールしまくる。


「母上えええッ! お願いですから隠してくださいっ!?」


 スズが母親の元にダッシュ。

 反対に、ウィルとランケアは膝をついたまま動かず震えているゾンブルに駆け寄る。


「何があったんスか?」

「ゾンブルさん。下着取り返されたのが悔しかったの?」


 問いに対して、ゾンブルは、否!、とすばやく直立し、己がこぶしを見つめた。


「それもある。しかし、やはり無念たるはアリア殿に”鎧外し・改”が通用しないことだ! 何故なのだ…、まるで雲を掴むがごとく…」


 ゾンブルは未熟さに打たれ、震える。


「この変態! 今日こそ成敗してやる! そこになおれ!」

「まあまあ、おちついてスズちゃん。女の子がパンツとられたぐらいで怒ったらいけませんよ?」

「普通、怒ります!」

「なら通じないよう対策を打ちなさい。たとえば母上のように穿かずにすごせば簡単に回避できます。それぐらい考えなさいな」


 アリア意外の全員の目が丸くなった。

 内側の思考はざまざまだろうが、驚愕という点では一致する。


「は、穿いてないとは…!? そのような対抗策をとられては、鎧外しが通じぬも道理…!」

「マジで!?」


 そこに、


「―――珍しい組み合わせで何してるんですか、みなさん?」


 西雀・クレアがやってきた。

 今宵、東雲邸に、東を支えし者達が集結しする。

次回、社長再登場

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