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第8唱 何事もどうなるかは最後まで分らない!

源氏物語の知識が少し違っていたので訂正しました

 少しだけ気分がいい。昨日まで悩んでいた事が少し晴れたのだ。

 僕は勇気の魔法を使えば、弱虫な自分を少しだけ克服できる。実際にそれを使うかどうかは分からないが、勇気の魔法を持っているというだけで自然と力が出るような気がする。例えるなら、初めて自転車を買ってもらった子供のようだ。自転車に乗れなくとも、それが在る事が誇らしいみたいな。

 単なる勘違いかもしれないけど、勇気も心の問題である。何か一つ切り札がある事は大きいし、例え勘違いでもそれが勇気につながるのかもしれない。

 僕は清水君と一緒に仲良く話している坂本君と西郷君と話に混ざろうとした。精一杯の勇気を振り絞って声をかける。

「おはよう、みんな何はなしているの?」

「おはよう、田中」「ちわー」「よう」と挨拶を返してくれる。

 何やら白熱した議論をしていたようだ。なにやら熱い口調で清水が話す。

「AKBの話をしていた所。誰が一番かわいいかって話」

 今をときめくアイドルユニットAKBだ。

 「(清水)柏木だ」「(坂田)前田敦子」「(西郷)大島だ」

 三者三様の答えに僕は、(柏木? かっこいい名前。源氏物語の登場人物みたいだ)と思っただけだった。

 僕はあまりAKBにあまり詳しくない。僕のおこずかいはファンタジー小説や漫画に費やされるので、AKBにお金を費やせない。テレビに出てくるのを何回かみただけだ。でも、男子中学生が源氏物語を知っているほうが少数かもしれないが・・・。

「田中はどうだ?」

 そんなどうでもいい事を考えていたら、坂田君が勢いづいて聞いてくるので思わず、

「前田」と答えてしまった。それにガッツポーズを取る坂田をよそに、二人に「どっちの前田?」と聞かれてしまった。

(えっ、前田って、二人いるの?)

 僕は地雷を踏んでしまったようだ。名前を間違えたら適当に答えたと思われてしまう。

 僕は汗をかきつつ、先程出た名前を思い出した。

(前田……、前田……、えっと確か……)

「前田アッ子」

「『前田あつこ』だ! アッ子じゃ、まるで『和田あきこ』みたいだ!」

 坂田君に怒鳴られました。ファンは強し……。

 友達作戦は微妙にミスかなぁ……?


◆◇◆◇


 帰り道、僕はまた黒猫親子に会えないかなって? 僕はキョロキョロしながら歩いていく。あの食べている姿はとてもかわいかったので、今度もコンビニでなにか買ってやろうかと思った。

(今日は、あの頭をなでてやる!・・・、でも、引っ掻かれそうだったらよしとこう。)

 そんな事を考えながら僕が歩いていると、怒鳴り声が聞こえてきた。

「出すもん出せよ!ズッコケ3人組み!」

 またですか……。僕ってどうして事件の遭遇率が高いのか?

『とおる、お前もやっかいな運命かもナ。お前に疫病神でも憑いているのか?』

「賢者様は憑いているけどね。まぁ、昨日の成果をみせてやる」

 僕が軽口を返し、《ひとにぎりの勇気》を呟くように歌い、勇気と幸運の魔法を自分にかけた。しかし、魔法が効きすぎたためか、勇気が溢れ、警察を呼ぶ事を忘れて飛び出してしまった。

 僕の足音に気付いた不良Aが驚いたように振り向いたが、僕が年下の中学生だと気づき、「シッ、シッ!」と追い払うように手を振った。

 それを無視して僕はさらに乗り込んだ。

 不良3人が囲んでいるのは、時に神秘の物、時にバカトリオ、時にコント・トリオと呼ばれている(主に僕とトールが勝手に心の中で呼ぶ)デブ、チビ、リーダーだった(これまた僕とトールが心の中で勝手に呼ぶ)。

「やめなよ!人を脅すのは最低だし、物をねだっていいのは生活に困っている人だけだよ!」

 僕はきっぱり声を上げる

「あぁーん。坊やは偉いねぇ。いい子だ。死にたくなかったら、どっか行け!」

 不良Bが脅し、僕は不良を睨みかえす。

 怯え続けるコント・トリオはすがるように僕を見つめてくる。

『とおる、やっちまえ!』

 トールは僕をはやしたてられ、僕はその気になる。

「お前、どうやら死にたいようだな」

 その場の空気に緊張が走った。トールを除いて……。

 サディスティックな笑みを浮かべた不良Cが3人を脅していたナイフをこちらに向けた。

「逃げるんなら今のうちだぞ!」

 僕は両手を前に構える。実は一昨日、読んだマンガを参考にしただけである。

 不良Bがこちらに歩いてくる。不良Cはナイフを使って脅すだけで実際にそれを振るうつもりは無いらしい。

 不良Bは指を鳴らし、脅しをかけてくる。指の関節が鳴るたびに、指が弱くなる事を自覚しているのだろうか?

「馬鹿な奴だ! こんな――「(徹)賢者ストレート!」バブロマンッゥ!!」

 可哀相な事に、不良Bは台詞の途中で、手加減なし、容赦なしの一撃! 必殺技☆賢者ストレートが炸裂!!

 不良Bは股間を押さえてうずくまる。効果は抜群だぁぁぁ!!

 目も飛び出しかけて、滅茶苦茶痛そうだ。不良どころか、僕とくらった事のあるリーダーの顔まで青くなる。

 僕の精神は、まるで必殺技ゲージを3本消費してしまったような感覚になる。それ程強烈な一撃だった。

 仲間の戦闘不能な状態に呆けていた不良Cが、いち早く正気に戻り、こちらにナイフを向けながら歩いてきた。

 しかし、僕の魔法が効いたのか、空から『幸運』が降って来た!

 僕は急に上を見上げた。

 不良Cも何かと思い、つられて上を見上げた。

 カラスのフンが不良の顔を直撃隣の晩御飯!

「ぐあぁぁー!」と叫んで、不良Cが顔を擦る。目や口に入りかけたようだ。

 不良Cが不良Aに「とってくれぇ!!」と頼むも、不良Aは嫌がってCから逃げる。

「今のうちに逃げるよ!」

「あ、う、うん」

 コント・トリオ達に手招いて、僕らは一目散に逃げ出す。



「はぁ、……はぁ……。た、助かった……」

 チビが息を切らしながら言う隣で、デブはまるで死んでいるかのように倒れている。

 みんな髪を乱し、汗を滝のように流していた。僕がみんなの様子をうかがっていると、リーダーと視線が交わる。

 まぁ、なんか気まずかったので、なにか声をかけてみる。

「「全く死ぬかと思った」」

 僕とリーダーの台詞がハモル。

 僕ら四人は目をぱちくりさせた後、顔を見合わせて笑う。

「「「「ハハハハ」」」」

 笑いが落ち着いてから、リーダーがおかしそうに聞いてくる。

「怖かったなら、どうして手を出したんだ?」

「んー、思わず手を出しちゃった。喧嘩は強くないけど」

 肩をすくめて答える。彼らを助けられたのも、勇気の魔法のおかげだ。

「弱いなら、警察でも呼べばいいのに。……まぁ、ありがと。一応礼は言っておく」

 リーダーがそっぽ向いて言った。その素直じゃない態度がほほえましく思えてしまう。

 素直になれない彼の代わりなのだろうか、チビが礼を言う。

「ありがと、田中。でも、渡辺さんの事とは別も……イタッ!!」

 チビがリーダーに拳骨を降らす。

 僕とデブがくすくす笑い、それにチビとリーダーも恥ずかしそうにつられて笑う。

「疲れて、喉も乾いたし、カラオケでも行くか?」

「「「賛成」」」

 リーダーの提案に僕らは賛成した。

 僕の友達の輪を広げる活動の教訓、『友達になるきっかけは何になるか分からない。』だ。


 僕達が歌を歌っている最中、トールが『声が低い』『声が割れている』『テンポがずれている』『腹から声を出せ』とか僕の頭の中で厳しい評価をしてくる。これじゃ楽しみづらい・・。

 カラオケ1時間はあっという間に終わり、僕は3人に別れを告げて帰った。


 僕が気分良く鼻歌を歌いながら家へ帰る。

 友達作り、収穫は3人、絶好調!

「フフフフ……」

 はたから見たら不気味に思われるだろう笑いをしながら僕は歩く。この世をば、我が世と思う、もちつきの、後はきなこで食べると思えば……。

 しかし、そんな気分も次の瞬間吹き飛んだ。

「チッ、今日はついて無いぜ」「全くだ!なんだ、あの中学生、生意気な!」

 そんな声が少し離れた所から聞こえてきた。

 僕は思わず、声が聞こえてきた路地裏の電信柱の裏に隠れて覗いてみると、今日会ったばかりの不良A、B,Cだった。

 かなり怖くなった。今、見つかれば報復され、ズタズタにされる自信が在る。

 しかし、彼らは僕に気が付かず、僕が隠れている所とは反対方向に去って行った。

「……いったい、なんだ……?」

 僕は彼らが居なくなっても数分その場で固まっていたが、彼らが何をしていたのかが気になり、おそるおそる足を進めた。

 何か嫌な予感が胸を埋める。

 僕は冷や汗をかきながら路地裏に入った。

 僕は薄暗い路地裏に目を凝らした。

 路地裏の隅に何かがいた。

 暗くて分かりにくかったが、3匹の黒い子猫がいる。僕がえさを上げた猫だ。

 3匹の子猫に囲まれていたのは、その母猫だった。

 その腹はそれなりに多くの血が出ていた。それは、体の小さな猫からすれば致命的な量だという事だった。

 僕は頭が痛くなった。不良3人が腹いせに猫を殺したのだろうか。

 信じたくは無いが、そう思うのは止められなかった。

 これは僕の所為だ! と、そこまで行きすぎた正義感は持ち合わせていなが、それでも僕の心は、不良への怒りと、不良が猫を殺した原因の一つとなった自分の行動への悔やみでいっぱいだった。

――あの時、警察に知らせていれば――

 僕は殺された猫を見て吐き気がしたが、吐く事は猫に失礼な気がした。

 優しい人間ならば猫を埋めてやるのだろうか?

 でも、僕には猫に直接触れる事ができなかった。

 野良猫は何か病気を持っているかもしれず、直接触る事は良くないと聞いたことが在る。

 なんだ、かんだと理由を付けるが、ただ単に死体に触れる事が恐ろしかったのだ。

 生きていたものが、どんな理由で死ぬか分からない。

 もしかしたら、僕は『死』そのものを恐れているのかもしれなかった。

「……なに、してんだ、僕は……。勇気を出すって、決めたのに……」

 僕は歯を噛みしめた。

 結局僕は弱い人間だ。

 でも、猫達をこのまま放って置けなかった。

 僕は近くの百円ショップで、小さいスコップと袋を買ってきた。

 僕はまた深呼吸して、《一握りの勇気》を歌った。

 顔をしわくちゃにして、袋に母猫の遺体を入れる。もう一つの袋に子猫三匹を顔が出るように入れてやった。三匹は母猫から離れたくないのか、僕から逃げるような事はしなかった。

 僕は公園の木が沢山植えられている所に植えてやる事にした。

 ここは蚊やその他虫が多くて、あまり人が入ってこないからだ。

「……ここらへんなら、いいかな?」

 僕は周りを見渡し、誰もいない事を確認してから小さいスコップで一生懸命に掘る。

 しかし、子供一人で掘るには少し地面が固すぎて、すぐに「手首が疲れてしまう。

「……はぁ、手が痛い……。僕にはむりかなぁ……」

 力を込めて掘っていたから、手が赤くなってしまった。

『おいおい、なら魔法を使えばいいだろ。俺と遊んできたわけじゃねぇだろ?』

「うん、そうだね……」

 僕は目を閉じ、心を落ち着かせる。

 不良達に無残な殺され方をした猫を安らかに埋葬してやるために、その魂の平穏を祈る。

 僕は僕の持つ全ての心をこめて、精一杯に歌を歌う。


 題名 穴掘り


 穴掘りホイホイ!

 もぐらがホイホイ!

 ザクザクと地面を掘るぞ

 大切な宝を埋めるため


 穴掘りホイホイ

 ここ掘れ、ホイホイ

 どんどん穴掘るぞ!

 悲しみを埋めるため


 心の宝物を埋めれば

 それは未来への希望になる

 心の痛みを埋めれば

 それは未来では追憶になる


 未来に喜びをもたらすため

 過去の悲しみを思い出にするため

 さぁ、穴を掘ろう!

 もう少し深くまで!



 僕は歌い終えた瞬間に、フワッとした浮遊感に包まれた。

「ふぇっ?」

 僕は思いっきり尻もちをついた。

「アタタタ……」

『くっ、このドジが!』

 痛みを堪えながら、僕は立ちあがった。

 穴は僕の腰ぐらいの高さまであった。ちょっと穴を埋めるのは大変そうではあるが、猫を埋めてやるには十分だ。

 僕は母猫を、そっと穴の底に横たえてやる。

 子猫たちがミーミーと悲しげに鳴いている。

 僕は汗をびっしょり流しながら彼女を埋めてやる。

 僕は土を少し盛り上げ、すぐそばにあった木の枝を立ててやる。墓標の代わりだ。

 トールは黙って何かを思っているようだったが、静かに口を開いた。

『俺は、この世界で魔法を使いこなせないが、この猫のために歌ってやろうか? 魔法は使えなくとも、この猫の魂の平穏を祈る事ぐらいはできる。……お前も俺の後に続いて歌え!』

 トールが心を澄ませる。

 彼は心から祈りを捧げる。



 傷つき哀れな魂よ

 汝の故郷に今帰りし時

 汝の魂が神の元へ旅立つ

 その長き道のりが今始まらん


 失われた物を放棄せよ

 汝の魂の平穏のために

 汝の魂が振り返らないために


 汝の歩んできた道のりは

 汝の翼を育み

 その翼が汝の枷を解き放つ

 その翼を持って汝は光の道を行く

 新たなる世界へと天を駆ける



 僕はトールに続いて歌った。

 いや、祈っていた。

 トールの厳かな歌は分かりづらいけれど

 その歌には心がこもっていた

 魔法とは心からの純粋な祈りなのだと感じた。

 きっと、トールの心がこもった祈りが、母猫を天国に送った、と僕は思う。




1週間ぐらいこのシリーズも最弱勇者シリーズを書く時間が足りないようです。

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